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サンポル・ダ・マル:郊外ビーチのカジュアルな午後

Sant Pol de Mar

 

 

RENFE
バルセロナから北東へ向かう車窓から
(この写真は別の日の夕刻に撮影したもの)

tren「この電車は空港へ行きますよね...?」
振り返ると不安げな英語で訊ねてきたのは初老のドイツ人かと思われる紳士でした。
「ノー、空港は反対方向です。空港駅はこの路線の反対側の終点です。あなたはすぐに次の駅で降りて反対方向の電車に乗り換えなければなりませんよ。」
と私が答えると、彼は焦った様子で腕時計を見つめながらスーツケースを抱えて停車駅であわててホームへと降りていきました。

 空港行きの電車に乗ったつもりだった彼は地元住民やちょっと半日ビーチを楽しんでこようというバルセロナ市民がまばらに乗っているこの車内で自分だけが場違いな大荷物を持っていることに次第に不安をつのらせ、恐る恐る唯一の外国人とおぼしき私に声をかけてきたのでしょう。搭乗予定のフライトに間に合えばいいのですが・・・。

 バルセロナから北東のジローナ、フィゲーラス、さらにはフランス方面へはやや内陸を通る国鉄の幹線があり長距離列車はすべてこのルートを走りますが、もうひとつ近郊電車のみが運行する支線、日本で言えば横浜−大船間の東海道本線に対する根岸線とでも言えるような路線があります。今私が乗っているのはこちらの路線で、バルセロナ南方の空港から市内中心部を貫き海岸線を北東方向へ直行運転している電車です。(追記:その後運行形態が変更され、09年現在この路線は空港方面からではなくバルセロナ西方の郊外からの直行運転となっています。)
 

 

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カタルーニャ広場
バルセロナの中心

tren1真夏の太陽が照りつけるバルセロナのカタルーニャ広場から地下駅に降りて乗ったこの電車はしばらく地下を走った後、臨海工業地帯を抜けてその後は右手にひたすら地中海とビーチ。線路が海沿いを走っていることは地図で見てわかってはいましたが、これほどまでにほぼまっすぐに、ほとんど視界をさえぎるものなくビーチが続いているものとは思いませんでした。眼下に見える砂浜は時には広くなり時には幅狭くなって線路直下まで海が迫ってきたり、駅の近くでは人で込み合い、駅と駅の中間点ではほとんど人影もまばらになったりとそれなりに変化がありますが、一方その先に広がる海はといえば常に車窓の3分の1あたりまでを帯状に占め続け、真昼の日光をきらきらと反射する海面の輝きの変化がなければまるで止まっているかと思えるよう。車内では静かな音量でクラシック音楽が流れ続けていて、おりしも先ほどから鳴っているのはラヴェルの「ボレロ」、同じリズムの限りない反復が車窓の風景と見事にマッチしています。そういえば作曲家ラヴェルの母方の家系の出身地はここ地中海沿いとは反対側ではあるもののやはりスペイン北部の海辺であることを思い出し、この視覚と聴覚の調和に感興を覚えます。

 車窓から見えるビーチの人々はさすがはバルセロナ近郊と言うべきか、こちらから見えていることも全く気に止めず上半身に何も着けていない女性の姿が他の地域に比べてもやたらと多い気がします。時には一瞬、下半身も露わにしている人たちが見えた気もしました。この沿線には数カ所の小さなNaturistビーチがあるはずなのできっとそういった場所なのでしょうが、こちらはあっという間に走りすぎてしまうので確認するすべはありません。
 

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サンポル・ダ・マル駅

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サンポルのメインビーチ

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南東へ向かって続くビーチ
 

beachnmarkカタルーニャ広場駅を出発してから30分余りで、いよいよサンポル・ダ・マル駅に到着。目的地はここの南西にあるムルトラ・ビーチ、この小さなビーチを選んだのは昨年、カタロニア・ナチュリスト協会のジュゼップ・マルティン・ボウ会長から「交通の便がいいので旅行者におすすめ」と教えてもらっていたからです。ホームに降り立てばいきなり潮の香りと波の音、人々の喚声がミックスした空気に包まれます。その名に「de Mar」(「海の」の意味)とあるだけあって、駅舎と改札口は一応あるもののそこを通らなくてもホームから砂浜そして海へと直結していて言わばビーチの中に駅があるようなものです。ですが反対側の駅舎の背後にはそれなりの由緒ありそうな町が駅周辺に広がっていましたので、まずは町中のバルにでも立ち寄って腹ごしらえ。町並みだけを見れば海側とはまるで別世界の普通の田舎町といった風情で、細いメインストリートはちょうどお昼時なので地元住民らしき姿はほとんど見えず、歩いているのは海水浴客とおぼしき人たちばかり。一軒のバルにはいってボカディーリョ(スペイン風サンドイッチ)にかぶりつきながら周りの人々をながめていると、ビキニのまま入ってきた少女たちの会話はドイツ語、その奥から聞こえてくるのはフランス語、ママさんと常連らしき男性は先ほどからカタロニア語でおしゃべりを続けていますが、二人の顔立ちはちっともスペイン人らしくなくてまるでフランス人のよう、でも店内の風情はありふれたスペインのバル。ちょっと奇妙な感覚にとらわれながら、フランスとの国境まで100km弱の町まで来ていることを実感します。

 腹を満たすといよいよムルトラ・ビーチを目指します。バルセロナ北方からここまでの30km余りの海岸線にはいろいろな名前が付けられたビーチが連なっているのですが、これまで車窓から観察したかぎりではほとんどのビーチはそれぞれの間に岬や突堤があって明確に区切られているわけではなく、連続した砂浜に便宜上それぞれの名前が付けられているだけのように見えます。ですから今日の目的地へは海岸線をただただ南西に向かって歩いていけば簡単にたどりつけそうです。おまけに砂浜と線路の間に車1台通れるほどの幅の未舗装の道があり(たぶん国鉄の線路管理用なのでしょう、こういった領域は日本だと確実に「危険!立入禁止」の柵が張られているはず)、そこを歩けば砂に足を取られることもなく楽々。直射日光の下でもさして暑さは気になりません。歩くにつれ駅の近くでは林立していた浜茶屋も消え色とりどりのビーチパラソルもだんだんとまばらになってゆき、左手の砂浜と海、右手に線路とさらに一段高く平行して走る国道の間をのんびり15分ほど、そこで初めて先の視界を少し遮る小さな岩山が見えてきます。その岩陰から先をのぞいて見たら案の定そこには裸の人たち。ムルトラ・ビーチ到着。
 


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ムルトラ・ビーチ入口

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ムルトラ・ビーチ入口から駅方向を振り返る
 

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ムルトラ・ビーチ

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ムルトラ・ビーチ

 


 

 

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サンポル・ダ・マル駅

sunbath陽光の下を歩いてきて汗も流れていますから一刻も早く服を脱いで全身に日の光を浴びようと、ビーチの全貌を見渡すのは後回し、すぐさま砂の上に腰を落ち着けました。サンポル駅の近くでもビーチは大混雑というほどではありませんでしたが、ここまで来れば人の数は多すぎず少なすぎずといった程度で、大自然の真ん中にいる感覚は求め得ませんが寂しさを感じるようなこともありません。砂浜にはゴミや貝殻はほとんど見当たらず砂粒は大きめの灰白色で小石大のものも見られますが、角がとれて丸っこいのでタオルを1枚敷けば全く不快感なく寝そべることができます。時折電車が通るほかは背後の国道も意外と通行量が少ないので車の音は波音にほぼかき消され、予想外のの静けさに満腹感もあいまってうとうとしかけてきました。眠気覚ましに少し泳ごうと海に入ってみると、水はほんの少しひんやりと感じて強い日差しに火照った体にはちょうどよい心地よさです。少し青緑色に濁っていて水底があまり見えないので砂地に岩がごろごろしているのには少し用心しなければなりません。それに波が少々高めなこと、2メートルも沖に進むと足が立たなくなることが比較的泳いでいる人の少ない理由かと思われます。でも、波に体を預けてみたり少しもぐって魚の群れを追いかけたりしていると永遠にこのまま過ごしていたいような幸福感に包まれてきます。

twogirls海から上がって少し砂浜を歩き回ってみると、このビーチ全体の様子がつかめてきました。Naturistビーチの領域は南西端にやはり岩山が視界を遮っている所まで長さ約200mほどで、その間にある3つの小さな岩によって4つの小さなビーチに半ば仕切られています。私が腰を落ち着けた北東端のビーチを1番目とすると3番目はごく小さな領域で線路や国道からはちょっと岩陰にかくれたようになっていて、見るからにここだけはゲイビーチ、それ以外の場所は家族連れ、カップル、仲間同士、一人だけ等、さまざまな人たちが特にかたよりなく散らばっています(例にもれず十代後半の世代だけはほとんどいませんが)。特筆すべきは水着を着けた人が全体でもほんの数人しかいないこと、それも家族で来ているうちの一人だけとかカップルのどちらか一人だったりで、オープンな場所のNaturistビーチとしてはこの「全裸率」の高さは珍しいことと思えますが、考えてみたら駅からずっとビーチが続いているのですから、水着を着たい人は何もわざわざここまで歩いてくる必要はないわけです。その他に視界に入る裸でない人はといえば、線路沿いの道を通り過ぎる人たち(なかにはじっとこちらを観察しているような人もいますが)と時おりビーチを通り抜けアクセサリーやCDを抱えて売り歩く黒人や中国人らしき青年たちだけです。

cocktail1番目のビーチの入り口の、駅前から続く一般ビーチとの間をへだてている岩山の陰にはこのあたりでたった一軒の小さな浜茶屋があり、そこには一基だけですがシャワーも備えてあります。ここへは岩山の向こう側の一般ビーチから足をのばしてくる人が多いみたいで、テーブル席に腰掛けて飲食している人たちはみんな水着を着けているようです。ちょっとためらいながらも意を決して近づいてみたら店内では子供たち(たぶん店主の子供とその友達)がみんな裸で遊んでいました。私の緊張感も解け、ジュースを買ってそこで飲みました。

 最初の場所に戻ってまた泳いだり寝そべったりしていると、幸せな時間がゆったりと過ぎていきます。周りには何組ものカップルが目につきます。ずっと眠っている二人、じっと海を見つめている二人、ひたすらおしゃべりに興じている二人、やたらとベタベタしている二人・・・等々、またその顔ぶれはわりとひんぱんに入れ替わるようです。ここが砂浜であることとみんな裸であることを忘れればまるで街中の公園のベンチの様子と変わりません。ここはバルセロナや近郊の市民でNaturistである人たちにとって、ちょっとした半日デートのコースという位置づけなのかもしれません。ビーチは決して規模が大きいわけでもなく、風景がとりわけ絶景というわけでもなく、また各国のNaturistが集まって交流するような場所でもありませんが、国道や電車からの視線さえ気にしなければある意味最高のNaturistビーチではないかという気がしてきました。その理由は前述したように様々なタイプのNaturistが偏りなく、それも込み合うというほどではない程度の密度で集まっていること、適度な交通の便の良さとそのわりに静かで、また水着の人に気を散らされることもほとんどないことです。現在のところの私的ランキングとしては、カジュアル部門No.1ビーチ候補にノミネートしておきましょう。

beachnmark1この季節のこの地域にしては珍しく上空の雲が急に大きくなり、少し日が陰ってきました。まだ午後5時過ぎで後ろ髪を引かれますが、そろそろバルセロナに戻るとしましょうか。

(03年夏 訪)

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