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リバデセリャ:巡礼の道沿いの広大空間

Ribadesella

 

 

RENFE
リバデセリャ

スペイン北部アストゥリアス州中東部の河口の町リバデセリャは川面にヨットやモーターボートが浮かぶリゾートタウンで、遠景に高い山並み、近景は家々の散在する小高い丘に囲まれのんびりしたムードの漂う快適な町、サンティアゴ巡礼の道の北路が通る歴史ある町でもあります(フランスからスペイン北西部ガリシア地方の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラへと続く巡礼の道については別項でもう少し詳しく述べる予定。よく知られた巡礼の道メインルートはもっと南方の内陸部を通っていますが他にもいくつか別ルートがあり、海岸線近くを通るこの北路もその一つで歴史的には重要な道であったものの現在のところメインルートの人気に比べるとずっとマイナーな存在です)。約30分のバス待ちの間この町を散策しながら、私は次の目的地を決めかねていました。そもそも今回の旅の中で今日は移動日に充てているので、これから西方のビリャビシオーサ、そしてさらに西方のオビエドとバスを乗り継いでさらに南方のレオンまで行かなければなりません。でもこれから乗るビリャビシオーサ行きのバスで途中下車して2時間後の次便までの時間を活用すれば大急ぎでベガ・ビーチへ立ち寄ることもできそう。朝のうちはどんよりと暗い雲がたれこめていたので、ビーチはやめてビリャビシオーサの町へ直行しその美しい町並みの中でランチにアストゥリアス料理を堪能しようかと計画していたのですが、ここへきて雲間の青空がぐんぐんと広がり明るい日差しが照りつけてきました。よしっ、予定変更してビーチ決行!ちょっとあわただしくなりそうだけれど。

バスはリバデセリャの町の中心部を離れるとすぐに海岸線から遠ざかり内陸部へと入って行きます。内陸とはいっても海岸線からはほんの2〜3キロメートル入っただけなのですが、それだけで突然に風景が一変して高原の避暑地の様相を呈するのがここアストゥリアス地方全般の特色です。日本で似た所をしいて挙げるとしたら北海道の駒ヶ岳・大沼周辺でしょうか。さて、20分も経たないうちに再び視界は開け、その先に海面が目に入っててきました。
 

 

 

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ベルベス集落の風景

そろそろ目的地か?と思った矢先バスはまた山中へと入って行きます。乗車時に「ベルベスに着いたら教えてください」と頼んだ際、バスを運転しているのは腹の出た初老または中年男性と相場の決まっているスペインでは珍しくまるで映画俳優のようなイケメン運転手は冗談っぽく「覚えてたらな」とか言ってたのですが、本当に忘れられたのかと不安になりはじめた頃、やっと停車しました。降り立ってみるとここは美しい山あいの村落、風が運んでくるのはは高原のさわやかな木々の香りで海のにおいがほとんど感じられません。でも確かに目的のベガ・ビーチはすぐ近くにあるはず。ちょうどベビーカーの赤ちゃんを連れた女性が通りがかったので訊ねてみたら「私は地元の人間じゃないので分からない」との返事。スペインで道を訊く場合地元の人を見つけるのには老人か赤ちゃん連れのお母さん、といつも決めているのですが、今回ははずれてしまいました。避暑にこの村を訪れてきていた人だったようです。ともかくビーチへ行くのにはバスで来た国道を海の見える所まで引き返すのがいちばん確実なのでしょうが、家々がへばりついている目の前の小山を越えるともっと近いルートがあるかもしれない、少なくとも高い所から見下ろせば周辺の状況がわかるに違いないと思いつき、半ば当てずっぽうに集落の中の小道を登ってみることにしました。

 息を切らしながら民家の間の急坂を進むとやがて小山のてっぺんあたりが前方に見えてきました。途切れることなく続いている家並みは村人達が長年住み続けているような家屋からだんだんと庭付きの別荘のような建物の割合が増えてきます。そういった家の一軒で庭の草刈りをしている初老の男性がちょうどこちらをふり向きました。声をかけてベガ・ビーチへの道を訊ねると彼は手を止め、「あそこへ行くとよくわかるから」と手招きして前方の草むらの中の小道を10メートルほど先まで連れて行ってくれます。

 

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ベガ・ビーチ
ベルベス側から見下ろしたところ

 

 

 

 

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ベガ・ビーチ
もう少しで到達
 

 

 ワーオッ!と思わず口をついてしまいました。眼下に一気にひろがる広大なビーチ。ベガ・ビーチが2キロメートル近くにわたる広いビーチであることは情報としては知っていましたが実際にこの目で見るとやはり驚きです。視界を横切る長い水平線、幾重にも寄せては返す波々、砂浜に点のようにまばらな人影、視界に人工物はほとんどありません。ちょうど私達の脇にはベンチがありましたので、もしビーチへと降りる道のりが遠いのならばもうここに座ってこの風景の中で1時間半すごしたって構わないや、とまで思えてきましたが、男性は眼下にくっきりと見える土の道を指差して「この道を下ればビーチの西の端の方に下りられる、ただしここから直接その道には出られないので私の家の脇の道をまっすぐ行くと国道にぶつかる、そこで国道には出ずにすぐ左へ土の道を進むと今見えているこの道だ」と教えてくれました。

costaビーチの西の端とはちょうど好都合です。というのは前もって調べた情報によるとベガ・ビーチはさすがに全体がNaturistビーチというわけではなく、西側の部分のみがNaturistゾーンだということでしたから。普段はアメリカのフロリダに住み夏の間だけここの別荘で暮らしているというその男性にお礼を言うのも早々に教えられた通り小道を進んで行くと国道に合流しました。と見るとここには私がバスを降りたベルベスより一つ手前の「ベルベス十字路」というバス停があります。なあんだ、一つ手前で下車すれば良かったんだ。でもベルベスの美しい集落、先ほどの絶景、そしてホタテ貝マークの道標に気がついたのですが今私が歩いてきたのは「サンティアゴ巡礼の道・北路」、これらの体験ができたことは思わぬ収穫でした。かと言って喜んではいられないのは、次のバスまでの2時間のうちすでに20分以上を費やしてしまったこと。ビーチへと急ぐしかありません。未舗装ですが車の通れる幅の下り坂は途中いくつかの分岐があるものの、すでに先ほど上方から眺めて地形を把握していたので迷うことはありません。初めのうちは巡礼の道とも重なっているのでリュックを背負った女性達に出会って「ブエン・カミーノ!」とあいさつ、その後はバイクに乗った少年達が追い越して行ったのが唯一の通行人でした。やがて道は点々と花が咲く草原の中の小道となり、砂浜が目の前に大きくなってきます。ここから見えるのはビーチ西側の一部分のはずですが、思った以上に人はまばらでちょっと不安になるのは裸の人が見あたらないこと。波打ち際を歩いている女性2人連れが私の姿に気づいてこちらに手を振ってきましたが彼女達もどうやら水着を着けているようです。

 

 

 

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ベガ・ビーチ
中央付近から東側を望む

 

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ベガ・ビーチ
西側を望む

beachnmarkさらに進むと道はやや急坂になり、ここまで来てやっと、水際から離れた奥まった所に点々と数人の裸の人たちの姿が認められるようになってきました。そして砂浜に到達。やはり広い。そのまま波打ち際まで歩き続けてやっと全貌が見渡せてきました。ビーチの両端つまり東西の端までは思っていた以上に遠くてすっきりとした晴天にもかかわらず少し霞んでしか見えません。私が降り立った地点は西端から約5分の1東側へ寄ったあたりだと思われ、水着で歩いたり泳いだりしている人々が目につくもののたしかに裸で寝そべっている人たちもいますからNaturistゾーンではあるようですが、なにしろこのビーチは横に広いだけではなく奥行きも2〜300メートルほども傾斜のほとんどない平坦な砂浜が広がっているため最も近くにいる人でさえ目をこらさなければ水着を着けているのかいないのかよくわかりません。

 とりあえず荷物をかついだまま東の方へと歩いてみました。とすぐに人の密度は若干高くなってくるものの裸の人は見かけなくなってきます。ややくっきりとし始めたビーチの東端付近にはいくつかの建物が見え、そこがこのビーチのメインの入口でラ・ベガという集落につながっている所だと思われます。この名の通り本来のこのビーチへのアクセスはラ・ベガからが近いのですが、この集落へはバスが通っていないので私のような車無しの旅人はベルベス経由で来るしかないのです。長いビーチのほぼ中央あたりまで来てみましたがNaturistゾーンは西側4分の1あたりまでだったとはっきりしたので引き返し、荷物をおろして服を脱ぐ場所をどこにしようかと探し始めると砂浜の奥に平らな岩が敷石のようにになっている場所が見つかりました。そこを選んでやっと一息。ここなら幸い衣服や荷物が砂まみれになって今後の旅程でわずらわされるようなことは避けられそうです。

sunbath1裸になって寝そべり、リバデセリャでバスに乗る前にあわてて買った昼食用のボカディーリョ(スペイン風サンドイッチ)をかじっていると体に注ぐ日差しがかなり強くなってきたのを感じますが、おだやかな微風が熱気をちょうどいい具合に吹き払ってくれます。まわりにほとんど障害物がないせいでしょうか風には全く強弱がなく波音とともに絶えず同じ調子で続いているので私は眠気に誘われてしまいます。が、のんびりしているわけにはいきません。次のバスが来るまでに残されているのはあと1時間。砂浜を歩き回ってみたいし泳いでもみたい、と思ったのですが、なぜか私の視界内で動いている人、歩いたり砂浜に点在する大きな水たまりで水浴びしている人たちはみんな水着着用者ばかり。裸の人たちに限ってみんな奥まった所で静かに寝そべったままなのです。もしかしてここはNaturistビーチとしての要素がだんだん薄れてきていてNaturistたちはみんな肩身が狭い思いでじっと息をひそめていざるをえないのだろうか、と不安に思えてきました。しかしそれを訊いて確かめようにも誰もがお互いかなり距離をとっているためそのうちの一人にわざわざ近づいて行くのも不自然に見えそうでためらわれます。広大なビーチというのもコミュニーケーション機会という面ではマイナス要素だなあ、などと考えているうちに刻々と時間が過ぎていきます。

 

 

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ベガ・ビーチ

 

twogirls1うとうとしかけてふと目を開くと、ようやく裸で歩いている人が目にはいりました。周囲を見回すとどこから出てきたのかいつのまにかNaturistたちの数も増えています。今まではもしかして「お昼の休憩時間」だったのでしょうか。やっと堂々と立ち上がってこの広大な空間の中を思う存分動き回れるような雰囲気です。薄茶色で小粒の砂を足裏に心地よく踏みしめながら波打ち際へと歩いてみました。海中も砂浜の地形から予想していた通りかなり遠浅なようです。ここから見ると先ほどから泳いでいる人たちも実はほとんどが裸で、遠くからではそれがわからなかっただけだったということに気づきました。水はかなり冷たいものの日差しが強いのでなんとか泳げそうだ、と思った時、もう時間がほとんど残っていないことを思い出しました。今ここで泳いでしまったら体や髪を乾かす時間が足りない! 泣く泣くあきらめて荷物の方へ引き返そうとした時、赤ちゃん連れの一家3人と目が合ったので自然と声をかけ、ここへ来てから初めてのコミュニケーションができました。彼等はドイツから来ていて、その話によるとこのビーチは一見波が穏やかそうに見えるもののちょっと沖合に出ると海流が非常に強く、それもあって人が少なめなのだとか。

 もっと話を続けたかったのですが時間が許してくれません。これから急いで服を着て荷物を担ぎ、下ってきた坂道を今度はバス停まで登っていかなくてはなりません。後ろ髪を引かれながらも、でも旅の合間のたった2時間でこれだけの眺望と快適さを満喫することができたという予想以上の充実感が胸にあふれてきました。

(09年夏 訪)

 

 

 


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バルデディオス
バス停から修道院へ向かう途中で
(ちなみに現在サッカー界を代表するストライカーの一人ダビド・ビジャの出身地はここから南西へ12kmほどの山あいの炭坑町。彼の素朴で暖かみのある雰囲気がほうふつされます。)

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バルデディオス
サン・サルバドール教会

 

周辺の見どころ

ティト・ブスティーリョ洞窟

スペイン北部には旧石器時代の洞窟壁画がいくつも発見されています。お隣りカンタブリア州のアルタミラ洞窟の壁画が特に有名ですが保護のため非公開となっている現在、ここティト・ブスティーリョ洞窟がそれに近いものを目にすることができる最良の場所だと思われます。リバデセリャの中心街から徒歩数分というアクセスの良さ、鍾乳石が上下に突き出た洞窟を地底探検気分で数十分歩いたのち懐中電灯の光に鮮やかに浮かび上がる馬・鹿・牛たちの生き生きとした姿、なぜここが(特に日本で)あまり知られていないのか理解に苦しみます。何しろあの高松塚やキトラ古墳より10倍(!)ほども古い壁画が、それも描かれたそのままの場所でま近に見ることができるのですから。この地方を訪れるなら何を措いても必見だと私は思います。ただし現在公開は4〜9月のみで壁画保護のため入場者数制限がなされているため前もっての予約が必要、防寒着の携行がおすすめ。

バルデディオス修道院

アストゥリアス地方は8世紀にイベリア半島が北アフリカのイスラム勢力に征服された時にも唯一キリスト教勢力が踏みとどまった地であり、1492年まで続くレコンキスタ(スペインの国土回復運動)発祥の地としてスペインの国の原点とされています(それにちなんで現在でもスペインの皇太子は「アストゥリアス王子」という称号でよばれています)。その初期キリスト教王国によって建てられた9世紀のプレ・ロマネスク様式の建造物がこの地方にはいくつか残されています。しかしそれらを訪れて静かに初期中世の空気に触れたいと思っても、州都オビエド市内にある最大の教会は無粋にも高速道路がすぐ脇を通っており、さらに市内のもう1カ所と合わせ「Vicky Cristina Barcelona 」(邦題:それでも恋するバルセロナ、ウディ・アレン監督、08年)という駄作映画のシーンに使われてしまったため心ないファンが押し寄せてきている恐れがあります。で、最適なのはここ。ビリャビシオーサの町からバスで10分、そこからサンティアゴ巡礼の道北路を歩いて30分ほど、ときたま巡礼者や牛飼いの列に行き会ったりしながら谷の奥へと下って行ったところに修道院があり、敷地内のサン・サルバドール教会が目的の建物。後世のヨーロッパ教会建築が与える圧倒するような感動とは異なり何だか日本の古い寺院や城のように静寂の中に凛としたたたずまいを見せてくれます。

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Viaje por las Playas Naturistas

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