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ラ・マリーナ:コスタ・ブランカで心も開放・風も開放

La Marina

 

 

 

Fabraquer(Alicante)
アリカンテ北郊のビーチ
バレンシア州営鉄道の車窓から

スペインの東海岸を地図で見ると真ん中あたりバレンシアの南方に少し突き出た半島が目につきます。その南側に続く海岸地域はコスタ・ブランカと呼ばれていて、なぜか日本では知名度が全く低いのですが、ヨーロッパではリゾート地域としての人気はアンダルシアのコスタ・デル・ソル以上のようです。中でもシーズンに人々が殺到するのはベニドルム、シャビア、デニアといった有名リゾートタウンが集中するコスタ・ブランカ北部で、このあたりは海岸線が変化に富み奇岩が海に突き出したような風景が特徴的です。いっぽうアリカンテ周辺からムルシア州にかけての中・南部の地形は対照的に、平坦な海岸線が延々と続いています。春の週末、ムルシア州の港町カルタヘナから北へアリカンテまでのバス移動の機会を利用してこの地域に点在するNaturistビーチのどこか一つを訪れてみようと考えました。

 カルタヘナからアリカンテまでの90〜100kmを北上する長距離路線バスは、バスターミナルで入手した時刻表を見ると一日8本運行されています。そこに記された停留所名と手元のミシュランの地図「コスタ・ブランカ」を照らし合わせてみると、バスはサン・ペドロ・デ・ピナタール、トレビエハ、グアルダマル、サンタ・ポラといった主だったリゾートタウンを経由して大体海沿いに進んで行くようです。ただし国道は海岸線から数キロ離れた所を走っている部分も多いので、どのNaturistビーチがバス停からそれほど歩かずに到達することができるのか、ウェブサイト「Lugares Naturistas」から入手した情報も合わせてにらみながら思案を重ねた末、白羽の矢を立てたのはグアルダマルとサンタ・ポラのちょうど中間点に位置するラ・マリーナという集落から海岸に向かって1km強ほどのところに位置するビーチ。理由はバス停からそれほど遠くなさそうなことに加え、地図上では沿線の中でこのあたりが一番開発されてはいないように見えたので、ここならリゾートマンションが林立した光景とは無縁な「自然海岸」を満喫できるのではと思ったからです。

 

 

Mar Menor
バスの車窓から見たマル・メノール
対岸にかすかに見えるのがラ・マンガ砂州

 

 

 

 

La Marina
ラ・マリーナの町

 

午前9時ちょうどにカルタヘナを出発したバスは、まずマル・メノール(小海)と呼ばれる汽水湖の内海に沿ったリゾートタウンを回ります。この内海は日本人なら誰でも浜名湖を思い出すのではないかというような風景で、地形的にはとても魅力的であり、地中海と内海を隔てる細長い砂州部分のラ・マンガ(袖)と呼ばれる地域にはNaturistビーチもあるようです。でもそのあたりにはリゾートマンションが立ち並んでいるらしいので訪問予定には入れずバスの窓から遠景に眺めるだけにして通り過ぎましたが、雲間から差す朝日に光った内海の先に影のように浮かぶビル群はそれなりに美しい風景ではありました。

 マル・メノール沿岸で目につくのは延々と広がる平地のそこかしこでリゾート団地が建設中のまま放置されている光景です。これは少し前までのバブル経済とその崩壊がもたらした結果なのでしょうか。やがてバスは北方トレビエハの町を目指して一途北上して行きますが、ずっと平坦なのかと予想していた風景は案外と起伏があり時には右手に地中海、左手に遠く湖や湿原が見えたりと思ったより飽きることはありません。途中のバス停でぽつぽつと乗り降りする人々のほとんどが年配者なのは、このあたりにこの春の時季に居住しているのはリタイアした年代の人がほとんどだからでしょう。しかしトレビエハでは、今日が土曜日だということもあって行楽やショッピングに行くような老若男女40人ほどがドヤドヤと乗車、一気にバスは満員になって積み残し客が出たほどでした。

そしてバスはグアルダマルの町を過ぎ、11時33分にラ・マリーナ着。「Lugares Naturistas」の情報ではバス道(旧国道)に「km76」と記された道標のある所から目的のビーチへと向かう道が出ているということでしたので、先ほどバスの中では目を凝らして道標を探していたら、バスが停まる1分ほど前に「km77」の道標が目に留まりました。ということは、目標の「km76」まで来た道を2kmほどは歩いて戻らなければなりません。このあたりラ・マリーナの中心部はもう少し風情のある田舎町かと思っていたらありふれたマイナーなリゾートタウンといった感じで低層ビルや家々が立ち並び、車の行き交う旧国道を歩くのはあまり心はずむものではありませんが、空を見上げれば朝方マル・メノール周辺では大きく広がっていた雲がうそのように消え去り心浮き立つ爽やかな快晴。ただしそよ風に少しひんやりしたものを感じるのがビーチへ向かう私としてはちょっと気がかりなところです。

 

La Marina
ラ・マリーナ
松林の入口

 

Playa de La Marina
ラ・マリーナ
やっと海が!


Playa de La Marina
ラ・マリーナ・ビーチ
「Naturistビーチ」の立て札

 

そのうち道の左右の建物は途切れがちになって草原や灌木の茂みが多くなり、その背後には右手(西方)には低い丘陵、左手(東方)には海辺の防風林のような松林が見えてきます。「km76」が目に入ったのは歩き出してから20分ほどたった頃。キャンプ場脇の舗装された一本道へ左折してなだらかに下って行くとやがて正面に松林が広がってきて、心地良さそうな遊歩道がその中へと続いています。ここを突っ切ればすぐにビーチが!と期待して自然と歩みが速まりましたが、それが思わぬ予測違い、松林は予想外に広大で起伏が多くて見通しがきかず、しっかりとした遊歩道かと思っていた小道も曲がりくねりながら次々と枝分かれしていくので方向感覚を失ってしまいます。すぐ近くからのように聞こえる波の音を頼りにビーチを目指して歩き続けてもなかなかこの林から抜け出せず、砂地に足をとられながらさまようこと10分ほどたった頃、やっと視界が開けて急に風が強まり、横一直線の水平線で仕切られた青い海と空が眼前に現れました。

beachnmark1こちら側は砂地が小高く盛り上がっているので遠くまで海岸線を見渡すことができます。左側(北方)はゆっくりと右手にカーブを描きながら砂浜が続き、先にはラ・マリーナのメインビーチらしきいくつかの建物、その彼方の岬の手前にかすんで見えるのはサンタ・ポラの町のリゾートマンション群だと思われます。右手も同様の砂浜がこちらは一直線に、南方グアルダマルの町郊外の河口の埠頭まで続いています。ということは目指すNaturistビーチはよくあるように岬や岩で仕切られた場所というわけではなく、この見通し良く広がる砂浜のうちの一区画が便宜的にそう指定されているだけの立地だと思われます。さてそれはどちらの方角にあるのか?視界には全体的にぽつぽつとまばらな人影が見えるなかで、左手すぐ近くあたりだけは小学生の集団と引率者達の姿が目につき、ややにぎやかそうです。私は迷わず反対側、右手を選んで進みました。ビーチを歩み始めるとすぐに砂浜の奥行きが少し広くなった場所があり、そこに立て札が1本立っています。もしかしたら、と思いつつも通常Naturistビーチは狭くなった片隅のような場所にあるはず、こんなに広く視界が開けたところではないだろうと期待せずに近づいてみると、遠目からでは落書きがされているのでよく読めなかった立て札には、たしかに「Naturistビーチ」と表記されています。

 立て札の背後には砂防のためと思われる高さ1m弱ほどの葦の棒を並べて砂に突き立てた柵が幾重にも連なっていて、よく見るとその柵の向こう側に30歳代くらいの男性が裸で寝そべっています。近寄ってちょっと悲観的な質問をしてみました。「Naturistゾーンはこの柵の中の部分だけですか?」彼は笑顔で「とんでもない、ここから波打ち際まで全部だよ。」

cocktail1これで一安心、でも結局私が服を脱いで腰を落ち着けたのはやはり柵の陰になったところ。というのはやや冷たい風が強く吹きつけてくるので、それをしのいで裸でいられそうなのはここしかないのです。晴れ渡った空にはは雲ひとつなく、澄み切った地中海の日差しを存分に浴びることができるのにもかかわらず、周囲にまばらに見える人たちは肌寒い風に耐えられず着衣であったり裸の上にポロシャツ一枚身につけていたり。全て脱いでいるのは私を含めてたったの3名しか見あたりません。

Playa de La Marina
ラ・マリーナ・ビーチ

 

Playa de La Marina
ラ・マリーナ・ビーチ
背後の砂地と松林

 

Playa de La Marina
ラ・マリーナ・ビーチ
Naturistゾーン全景


 しかしせっかくここまで来たのですから、そして広々とした美しい海とビーチがあるのですから、ここでじっと寝そべっているのはもったいない、と意を決して柵を越え、海へ向かって歩き出してみました。薄黄土色できめ細かい砂はさらさらとして踏みしめた足裏がとても快く感じられます。ゴミや貝殻が全くと言っていいほど目につかないのは、何も障害物なく続いているビーチだけに清掃が行き届いているのでしょうか。貝については、もしかしたら地形的に生息条件が良くないのかもしれません。波打ち際まで来て膝のあたりまで海に入ってみましたが、その冷たさにそこから先へはどうしても足が進みません。たぶんこの風さえなければこれほど冷たくは感じないのでしょうが。

twogirls1aじっと立っていると肌寒くなってくるので砂浜をジョギングしてみようかと考えましたが、Naturistゾーンはそんなに幅広いわけではありませんし、着衣でウォーキングやジョギングをしている人たちがひんぱんに通りがかっていきますので、裸で思う存分走り回ることにはちょっと気がひけます。そこでビーチの背後に広がる人影のない砂地を散策してみることにしました。ここはわずかな草が生えているのみで石などもないので裸足で歩きやすく、周囲より少し小高くなっているため東側の海、西側の松林、南北の砂地やビーチと360度の眺望が楽しめます(荷物を置いている所もほぼ視界にはいるので、その点でも安心です)。

 しばらくこの砂地を気持ちよく歩いているうちに、Naturist達の姿も少しづつ入れ替わってきました。ですがやはり全部脱ぐのはあきらめている人が多いみたいで、今しがたやって来た家族連れもしばらく躊躇したのち結局みんな着衣のまま腰を落ち着けてしまったようです。

beachnmark1aこのビーチへ着いてから50分ほどが経ちました。今ここを発って町へ戻れば当初の予定より1本前のアリカンテ行きバスに間に合いそうです。そこであわただしく服を着て出発。来たときのルートではなくビーチをこのまままっすぐに北上してメインビーチのあたりから内陸へ曲がればもっと簡単にラ・マリーナのバス停に着くことができるに違いないと思いつき、帰り道はそちらを選んでみたら大正解、快適に戻ることができました。

 予定外に短時間で滞在を切り上げたここラ・マリーナ・ビーチでしたが、決して居心地が悪かったというわけではなく、冷たい風さえ吹いていなければいつまでもそこに居続けたいと思ったことでしょう。風景は決して変化に富んでいるとは言えないかもしれませんが、かえって何もさえぎるもののない開放感にひたることができます。波は少し高めではあるものの水は澄み砂は心地よく、出来ることならもう少し暑い季節に再び訪れて思う存分泳いでみたいものだと感じさせられる場所でした。

(10年春 訪)

 

 

Alicante
アリカンテ
市中心部のプスティゲット・ビーチ

Urbanova
アリカンテ南郊の住宅団地
この右手すぐ先にもNaturistビーチが

 

 

 

Playa de La Marina
ラ・マリーナ・ビーチ
まさに「MENTIRAS Y GORDAS」冒頭の雰囲気

 

周辺の見どころ

アリカンテ(アラカン)

バレンシア州南部の中核都市。商業都市であると同時にコスタ・ブランカの中心としてリゾートタウンの要素もあわせ持ち、16世紀の城を戴く岩山を背後にしたメインビーチは都市型ビーチとしては最も魅力的なところの一つだと思います。また南北の郊外にはいくつものNaturistビーチがあり、目立って有名なビーチこそはないものの、周辺に抱えるNaturistビーチの数の多さではスペインNo.1の都市だと言えるかもしれません。

 

cine映画に見るコスタ・ブランカ

「MENTIRAS Y GORDAS」(英題:Sex, Party and Lies、邦題:セックスとパーティと嘘、アルフォンソ・アルバセテ/ダビド・メンケス監督、09年スペイン)
 英題と邦題はなんだかアメリカ映画「Sex, Lies, and Videotape」(89年)のパクリっぽいですが、原題は直訳すると「嘘とデブ」。スペイン東部海岸の町を舞台にクラブのレイヴパーティに集う若者たちの姿を描いた作品。アリカンテ、サンタ・ポラ、グアルダマルといったコスタ・ブランカ中南部のリゾート地でロケされています。冒頭シーンではいかにもこの地らしい誰もいない広いビーチで寝そべって「この夏はどうする?」とか話し合っていた主人公トニと親友のニコの二人がいきなり裸になって泳ぎ始めます。べつにNaturistと自認していなくても日常生活の中で自然にこういったことが出来るのが、この地域の環境を端的に表しているように思われます。
 映画はそのあとはひたすらドラッグとセックスのシーンが続くばかりでいささか辟易しますが、「海、太陽、ドラッグ、セックス、ホモセクシュアリティ、死」となるとイビサ島を舞台にした伝説的映画「MORE」(69年西独/仏/ルクセンブルグ)を想起せざるをえません。「MORE」当時のスペインはまだ軍事独裁政権下で、地元の若者たちにとってスペインに旅して来て自由を満喫している外国人たちは別世界の人種だったはずですが、ちょうど40年経った今の若者たちがある意味「MORE」と共通した自由と同時に孤独・閉塞感の中でもがいているのを見ると、もしかしたら制作者には「MORE」へのオマージュの意図もあったのでは?とも勘ぐりたくなります。
 この監督コンビには他の作品にも共通して、いわゆる退廃的な世界を描きながらもスタイリッシュな美しさを指向しているところがあるようで、この映画ではドラッグにまみれた青年達の姿が意外にもまるでスペインの教会内で見る宗教画のような聖性をたたえているように感じられるシーンがいくつかあります。例えばトニがレイヴに踊り狂う若者達の口にドラッグの錠剤を入れていく場面はまるで聖体拝領ですし、終わりの方には十字架降下みたいな情景も。
 現代スペインの若い世代の孤独感・閉塞感には世界の先進国と共通する部分の他にこの国独自の要素として、70年代まで強固であったカトリック的伝統秩序が急激に崩壊していったことが開放感(これがNaturismにとっては発展の原動力となった面もありますが)と裏はらに大きな喪失感を生み出しているのではないかと私は感じています。そして近年のサンティアゴ巡礼の道ブームなどを見ると若者達の多くは今、教会に対して絶望的なミスマッチを感じて離れてしまってはいるものの、心の底では伝統の中に精神的よりどころを求めようと願っている部分があるのではないかと想像されます。この映画の中でトニと女友達でレズのマリーナが失意の中で語り合う場面、「(子供の頃)修道女になりたかったの」と言うマリーナに対しトニは「教会は俺を受け入れてくれない。ゲイだから」と応じています。スペインでこの作品が大ヒットした理由の一端はもしかしたらこういったところに?

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Viaje por las Playas Naturistas

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