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「裸都」バルセロナ

Barcelona (I)

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マールベリャ・ビーチ全景
 

 

 

 

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バルセロナ市街
ランブラ通りから海岸方向を望む

この雰囲気は何と言ったらいいのでしょう。これまでに訪ねたスペインの他のNaturistビーチが大自然のまん中にあるような所ばかりだったのとは全く状況が違って、左右に続く砂浜は遠く先まで人、人、人・・・。ビーチの背後にはビルが建ち並び、前方の海面には泳いでいる人がいっぱい、その先にウインドサーファーたち、さらに幾隻もの船。頭上からは「ここはカタロニア国」と書かれた横断幕を垂らしたヘリコプターが騒音とともに幾度も旋回しながら近付いてきます。そして私の周りはどちらを向いても全裸の人だらけ。それに、つい10数分前のことを思い出すと私はたしかに地下鉄を降りて、大都会の市街地の真ん中を歩いていたはず。

これまでスペインのことについて知ったかぶりをしてきた私ですが、実を言うとスペイン第二の都市ここバルセロナを訪れたのは今回が初めてなのです。なぜかといえば、これまでに出会ったバルセロナを含むカタロニア地方出身者が、他の地方の人のことを少しバカにしたり田舎者呼ばわりしているのを何度か目にして以来、カタロニア地方やバルセロナに対していいイメージを持てなくなってしまいどうしても足が向かなかったのです。

 でも次第にスペインの歴史や文化のことを知るにつれ、彼らカタロニア人たちの気持ちがだんだんと分かるようになって来ました。スペイン北東部フランスに接したカタロニア地方は元来マドリードを中心とするカスティーリャ地方とは別個の言語や文化を持ち、中世の時代までは別の国として栄えていたのですが、その後統一スペイン国家に併合されてしまいました。特に20世紀のスペイン市民戦争ではバルセロナは民主主義政府の拠点となりながら、結局は軍事政権に敗北したため徹底的に弾圧されて自分たちの言語であるカタロニア語の使用さえ長年禁止されてきたのです。そしてやっと民主化がなされて以後、この地域にはまるでこれまでの抑圧のうっぷんを晴らすかのように自治と自由と開放の気風があふれ返り、現在に至っているというわけです。

 Naturismもまたしかり、1977年にスペイン最初のNaturism協会が誕生したこの地方にはNaturistキャンプ場や数多くのビーチが生まれ、近年バルセロナの市民プールが週一回Naturistデーになったりと開放化が進んでいましたが、中でも1997年夏にバルセロナ市内のマールベリャ・ビーチがNaturistビーチとして公式に指定されたというニュースは、私を驚かせるものでした。何しろ「todo naturismo」誌(スペインのNaturism専門誌、残念ながら現在は廃刊)の記事では、市街地のビル群を背景に砂浜で全裸で寝そべる人たちの写真にそえて、「バルセロナ周辺のNaturistたちは仕事の行き帰りに(ちょっと立ち寄って)Naturismを楽むことができる」と書いてあるのです。

 

 

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マールベリャ・ビーチ手前
この先にビーチが


 

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マールベリャ・ビーチ
入口付近はごく当たり前の光景

 

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マールベリャ・ビーチ
ところがちょっと左手を見ると・・・
・・

 

「これは行ってみるしかない!」と思いながらも多少は半信半疑な気持ちで、やっとここバルセロナへやって来てみたら、間違いなく本当だったのです。市街地の、観光の中心であるカテドラル脇のジャウマ・プリメール駅で地下鉄に乗って北へ5つ目のポブラノウ駅で降り市街地を海の方向に500メートルほども歩くと海岸高速道路の上の緑地帯に出ます。その先に見える土が小高く盛り上がったところのすぐ先がもうビーチであることは、いかにもビーチへ行き帰りするといった格好の人たちが歩いているので分かりました。海側への視界をふさいでいる小高い盛り上がりに突き当たってすこし右側に迂回すると、「マールベリャ・ビーチ」と書かれたポールの向こうに広がった海が現われます。でもだんだんと視野にはいってくる砂浜の人たちは、女性こそトップフリーがほとんどであるもののみんな水着を着けているではありませんか。ちょっと不安になって左右をきょろきょろしてみると、やはりありました。ポールの左手、ちょうど小高く盛り上がった土で市街地側からの視線から遮られていたあたりは、ほとんどの人が素っ裸です。

 マールベリャ・ビーチは突堤と突堤の間に挟まれて長さは600メートルほどで、左右どちらも突堤の先には同じような規模のビーチが見えます。いかにも市内のビーチらしく赤十字マークを着けた監視員が何人も常駐していますし、数カ所にシャワーが立っています。浜茶屋こそないものの、「水、コーラ、ビールはいかがー」と呼び掛けながら売り子たちが所狭しと寝そべっている人たちの間をぬって回って来ます。どうやらNaturistたち専用の場所はこのビーチの中央周辺の150メートル位の間で、その左右各100メートル程は混在地帯、残りの場所は水着着用地帯といった状況であるように見受けられました。

 ここは、「まわりが全員裸でないと裸になるのは恥ずかしい」といったタイプのNaturistには不向きな所かもしれません。何しろオープンなビーチですからNaturist地帯は周りから丸見え、水着を着た人たちが歩き回っているだけではなく、ちょっと浜辺を散歩に来たような一般市民たちもそこらへんを歩いています。でも今の私にはそういったところ、つまり着衣の人も水着の人も裸の人も、お互い全く気にしないで共存している雰囲気がとても心地よく感じられます。

 海水はやはり人口数百万都市のビーチだけあって薄緑色に濁っていますが、変なにおいとかは全くありません。真夏の地中海の水はまるで温水プールのように暖かいので、私は幾度となく海へ入って飽きるほど泳ぎ回ることができました。ビーチの砂は薄茶色の大粒とパウダーが混じっています。風の強い日にはきっと少しほこりっぽいでしょうが、今日は軽い微風のみなので問題ありません。日ざしは大都会とは思えないほどのさわやかさで、何度か幸せな気分でうたた寝をしてしまいました。

昼過ぎに着いた頃には平均2メートルほどはあった周囲の人たちとの間隔が、時間とともにますます人が増えどんどん狭まって来ました。寝そべっている私の視界を占めるのは裸、裸、裸のオンパレード。いやがうえにも周りの人たちが目に入るので、観察者とならざるをえません。目立つのは一人で来ている人の多さで、彼らは先ほどまで寝ていたのがちょっと振り返るともう帰り支度をしていたり、新しい顔に変わっていたり、日常生活の合間にちょっとNaturismを楽しみに立ち寄りに来ているみたいです。もちろんカップル、ファミリー、グループもいっぱいいます。ただスペインのどこでも同様なのですが、10代後半から20代前半の世代だけは少ないようです。どうしても「意識してしまう」年代なのでしょうか。

 

 

 

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マールベリャ・ビーチ
裸の人が多い一帯

 

 

 

 

 

 

 

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マールベリャ・ビーチ
だんだん芋の子を洗う状態に・・・

 

 ほとんどの人たちがスペイン語ではなくカタロニア語で話しているので周囲の会話がほとんど分からないのは残念ですが、見ているだけでもいろんなタイプの人がいるのが分かります。3メートルほど離れた所にいるハンサムな中年男性はよく見ると先ほどからずっと私の方ばかりを微笑みながらじっと見つめています。その反対側にいる初老の男女3人組は先ほどまで大きな声でスペイン各地のビーチについてここが良かった、あそこがどうのと話していたようですが、ふと気付くと女性一人だけが仰向けになって眠っています。どうやらグループで来たわけではなく、ここで知り合った初対面同士で話に夢中になっていたようです。この女性の幸せそうな寝顔には、こんな気持ちよさそうな顔にはなかなかお目にかかれないものだ、女性の幸福感にひたりきった表情は年齢や人種に関わりなく本当に美しいものだと、ついつい見とれてしまいました。2メートルほど先にやって来た若いカップルは、不思議なことに男性は全裸なのに、女性の方はボトムだけ、それも極々小の水着を着けています。何でここへ来てわざわざ、それも着けていないも同然の水着を着けているのだろうと思っていたら、いつのまにか二人は海に入って、周りの目を全く気にする風もなく波間で楽しそうにじゃれあったり抱き合ったり、というか固くからみ合ったりしています。そうか、きっと女性の水着は彼らなりの節度なのでしょう。いくら何でも両方が全裸でこんなことをしては、Naturismの域をを通り越してしまうでしょうから。

 私の周囲に寝そべっているのはもちろん裸の人たちばかりなのですが、その間をぬって水着の人たちも通り過ぎていきます。彼女らの水着からはみ出たお尻や脚が眼前に現われるので、正直言って私の男性としての「エッチな」視線がついちらちらと向いてしまいます。ところが一方全裸の人たちに対しては、例えば私の目と鼻の先に寝そべっているカップルらしき若い女性二人連れの背中から尻のラインは手を伸ばせば触れてしまいそうなほどの近くに見えているのですが、それはただただ「美しい」という賛嘆の気持ちを呼び起こすだけなのです。これはいつも感じる、われながら不思議な現象です(でもどうやら世の中一般の真理なようです)。

午後4時をまわるとますますビーチは混んで来ました。ちょっと寝返りを打つと近くの人の足にぶつかってしまうくらいになったので、そろそろここを立ち去ることにしました。もう1か所の目的地があることですし。そこはサンサバスティア・ビーチという場所で、ここから南へずっといくつもの埠頭を隔てて連なっているビーチの市内中心部寄り、日本人観光客もよく訪れるラ・バルセロネータ地区の端っこにあるらしいのです。「カタロニア・ナチュリスム協会」のホームページでNaturistビーチとして紹介されているのを見たときにはここマールベリャ・ビーチよりももっと半信半疑だったのですが、さきほど私の隣の、一人で来ていて私同様泳いだり砂浜に上がって寝そべったりを繰り返している同世代の女性に尋ねてみたところ、地図上を指差してここだ、と行き方まで親切に教えてくれたので、ぜひ訪れてみようという気になっていたのです。


 

 

 

 

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ラ・バルセロネータのビーチ

 


 

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サンサバスティア・ビーチ

 

 地下鉄のポブラノウ駅まで戻り、都心に向かって3駅戻ったシウタデリャ駅で降りると観光名所のオリンピックポート、そこから南へと続くのはバルセロナ市の正真正銘のメインビーチ。そこの突き当たりがNaturistビーチだというのです。そちらへ向かってビーチを歩き始めるとここはさすがにメインビーチだけあって海岸にはこぎれいな店が連なり、砂浜には外国人や10代、20代らしき人も多く、相変わらずトップフリーやTバック等身に着けているのが少しだけの人が多いとはいえ何となく先ほどよりはちょっと「着飾った」雰囲気です。でもやっぱりバルセロナらしいなあと思うのは、観光客や市民たちがひっきりなしに行き交うビーチでありながら人々は砂浜に柱のように立っているシャワーで体を洗う際、子供たちの多くは裸になっているし、大人たちも男女を問わず何の気後れもなく、着ている水着を引っ張って中に入った砂を洗い落としている光景です(後にバルセロナを訪れた友人の話によると、3月にこのあたりでも全裸で寝ている女性を1人見かけてびっくりしたということでした)。

800メートルばかり歩いたころでしょうか、前方に裸でシャワーを浴びている男性が目に入って来ました。どうやらその先あたりが目指すサンサバスティア・ビーチのようです。いよいよ到達してみると、そこはマールベリャ・ビーチよりもっと人通りが多く、目の前が「バルセロナ・スイミングクラブ」であるのにもかかわらず、100メートルくらいの間にはにたくさんの裸の人たちがいます。ところがよく見ると先ほどのビーチとはちょっと雰囲気が違っているのです。圧倒的に男性の比率が高く、筋肉質の人たちや、男性二人連れがやたらと目につきます。もちろん女性も少なからず見かけはするのものの、どうやらここはNaturistビーチとはいってもゲイビーチの色彩が強いようです。ここカタロニア地方はこの分野でもスペインの最先進地域といわれており、バルセロナ南方の町シッジャス(シッチェス)はゲイのメッカとして世界中から観光客を集めている地域柄ですから、こんな一等地にこのような場所があるのも当然のことなのかもしれません。

 せっかく来たことですしまだ陽は高いので服を脱いでビーチに横になってはみたものの、やはり私は先ほどのビーチほどの幸福感にひたることはできませんでした。なにしろすぐ脇の5人連れの若者男性グループでは、一人が寄り添って寝そべっている仲間の青年の腰を愛撫し続けているのが目に入って来ます。今しがたそばを通り過ぎていった男性の股間はたしかになかば勃起していたような・・・。また少数派ながらも辺りにいる女性たちは、なぜかボトムだけ水着を着けている人が多いなあと思っていたのですが、どうもそのうち幾人かは体つきや話し声から、胸はふくらんでいるものの男性(元男性?)ではないかという気がして来ました。

 このような日本人の感覚からすると「すごい」雰囲気の中を、親子連れやスイミングクラブへ通う子供たちが何組も通りがかって行きます。でも誰も、何ら気にとめているふうには見えません。これこそある意味もっと「すごい」ことではないでしょうか。

 

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バルセロナ
市内のバス停の広告

 

以上のように、私のわずかな体験からしてもバルセロナおよびカタロニア地方は今や、裸に対する偏見や抵抗感はほとんど存在していないように見受けられます。例えば、バルセロナと南方のタラゴナの間の国鉄の路線はその先マドリードやバレンシアへと続くスペインでも一番の幹線鉄道というべき路線ですが、この車窓から私がちょっと眺めた限りでも裸の人々が丸見えのビーチが2か所もありました。また私がバルセロナ空港で搭乗時にもらったカタロニアの主要新聞「エル・ペリオディコ」紙にはたまたま「カタロニアのヌーディストビーチ」特集が組まれており第1面の写真をはじめ3面にわたる特集記事には、全裸のカラー写真やイラストとともに27か所にわたるビーチが紹介されています。この地域ではNaturismはもはや意識的にも空間的にも、日常生活からの距離が全くなくなっていると言ってもいいのではないでしょうか。

(01年夏 訪)

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Viaje por las Playas Naturistas

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