John Mayall & BluseBreakers
Wake Up117 digrees
ウェイク・アップ・コール

 
ひとりで守ってきた彼のブルース  

 1993年夏当時、僕はレコード店で働いていた。そこは小さくはないが取りたてて大きくもない規模のレコード店だった。そういうところだから店内で掛かる曲も雑多なわけで、当時はZARDやチャゲアス、岡村孝子なんかよくかかっていたんだけど、はっきり言って趣味じゃなかった。
 そんな時に突然流れてきたのがジョン・メイオールの新曲だった。すぐに彼だと分かったわけではない。疾走する流麗なエレクトリックギターが心地良いブルースロックだったが、音も新し目だからアメリカのバンドかとか思って聴いていた。
 しかし邦楽かダンスミュージックばかりかかる店内ではオアシス的爽快感を受けた。時々ギターにブルースハープが性急に絡んでくる。おお!バトルしてるよ。やるねえ。?今時こんなサウンドのバンドがいるとはね嬉しいね。突っ立っているだけの事が多い客のいない昼間なんかは曲に合わせてギターを弾く振りをしてみたり・・・・他の店員が笑ってたっけ。恥ずかし。 
 しばらくはアーティストも曲名も確かめないままだったけど、たまたま曲が掛かっている時にCDプレイヤーに近づいてCDケースを見て見るとビクターからのサンプル盤だった。その1曲目に「ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ」のクレジット。え?新作?まだやってるの?え〜!カッコイイじゃん!それまでの“単なるかっこいい”ブルースロックが突然30年の重みを持ちだし、ただの流麗なギターがクラプトン、テイラーなどの歴代ギタリストのオーラを纏った気がした。ブランドものには弱い僕です。 
 
 この時聴いた曲「メイル・オーダー・ミスイテイクス」にはメイオールがデヴュー30年経っても追い求めるブルースがあった。白人ブルースマンとしてはおそらく最年長のあたりである彼が、今も自らのブルースを求めて新しいメンバーを探し出し、名作と言われる「ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン」スタイルの作品を作ろうとしている。これは驚異だ。ただ、時代が違うから当時のようなインパクトを与える事はできないだろうが、クラプトンはおろかストーンズでさえも30年前とは明らかに違う音楽を表現しようとしているのに、メイオールの頑固一徹な良い意味での変化の無さにはほんと驚かされる。60年代と同じく、テクニックあるギタリストを全面に出し、やや朴訥な彼のボーカルとオルガン、ハープがフィーチャリングされる方法論はまさに当時のまま。しかし全く古臭いかというとそうではなく、彼がクラプトンとともに手本を見せたブルースロックのスタイルは古くならないエヴァーグリーンな音楽だったのだ。 この曲が収録されているのが「ウェイク・アップコール」で彼にとって37枚目のアルバムだという。そしてアルバム発表時には60歳を迎えて いた。  
 
 本作には自信があったのかこの年の9月には来日クラブツアーも敢行している。アルバムでは達者でもまさかライヴまでは・・・と思いきやライヴではアルバム以上のエネルギーを発散し独りでソロプレイを延々とやってのけていた。ボーカルもオルガンプレイもしっかりとしたもので年齢の若い他のメンバーよりもスタミナはあるようだ。他のメンバーが休憩でステージに下がっても尚周囲かまわず弾き続けるオルガン&ハーププレイ。“この世に俺ひとりしかいなくても俺はコイツを演り続けるぜ”と言いたげな、ブルースに向ける並々ならぬ熱いエネルギーが感じ取れた。
 50代を迎えて尚転がり続けるストーンズも驚異だが、デヴューから35年近くたったひとりで守ってきた彼のブルースの牙城では今も彼がキングでありづつけているのだ。 彼のライヴに満足した僕は会場内に貼ってあったポスターを頼み言って譲り受けた。部屋に帰って貼られたそのポスターはしばらくの間僕をじっと見詰め続けていた。 
(19980812)