〜その十一 経営は総合芸術〜
松下幸之助は『実践経営哲学』の中で、企業経営を絶えず生成発展していく生きた総合芸術として、次のように述べています。
・一般に芸術といえば、絵画、彫刻、音楽、文学、演劇などといったものを指し、いわば精神的で高尚なものと考えられている。それに対して、事業経営は物的ないわば俗事という見方がされている。しかし、芸術というものを一つの創造活動であると考えるならば、経営はまさしく創造活動そのものである。
・一つの事業の構想を考え、計画を立てる。それにもとづいて、資金を集め、工場その他の施設をつくり、人を得、製品を開発し、それを生産し、人々の用に立てる。その過程というものは、画家が絵を描くごとく、これすべて創造の連続だといえよう。
・経営というものは、いろいろ複雑多岐にわたる内容をもっている。分野ということ一つをとってみても、さまざまである。研究したり開発する部門、それにもとづいて製造する部門、できあがった製品を販売する部門、あるいは原材料の仕入部門、そのほか経理とか人事といった間接部門がある。そうした経営における一つひとつの分野がみなこれ創造的な活動である。そして、それを総合し、調整する全体の経営というものもこれまた大きな創造である。
・経営というものは絶えず変化している。経営をとりまく社会情勢、経済情勢は時々刻々に移り変わっていく。いわば経営には完成ということがないのであって、絶えず生成発展していくものであり、その過程自体が一つの芸術作品だともいえよう。そういう意味において、経営は生きた総合芸術であるともいえる。
・経営は生きた総合芸術である。そういう経営の高い価値をしっかり認識し、その価値ある仕事に携わっている誇りを持ち、それに値するよう最大の努力をしていくことが経営者にとって求められているのである。
経営は創造活動という意味で芸術ともいえるでしょう。構想し、計画し、人・モノ・カネを総動員して、生産し、販売していく過程は、創造活動の連続といえるでしょう。
また、研究部門、仕入部門、製造部門、販売部門、経理部門、人事部門、等々、様々な分野においてそれぞれの創造活動があり、これらを総合する全体の経営もまた大きな創造活動といえるでしょう。
しかも、企業経営をとりまく外部環境は絶えず変化していきます。近年は、経済情勢、社会情勢の変化もさることながら、気候変動に伴う自然環境までも激しく変化しています。その変化に対応して、企業自ら、絶えず変化し生成発展していく必要があります。その意味で、経営は、完成なき生きた総合芸術であり、その過程の創造活動一つ一つが芸術作品と考えることもできるでしょう。
経営者は、企業が社会の求めに応じて社会に貢献すべき存在であり、その経営の高い価値を自覚し、自らの経営を誇りのもってる生きた総合芸術へ高めていくために、たゆまない努力が求められるのでしょう。
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