〜渋沢栄一『論語と算盤』より”理想”〜
X.理想
1.熱い真心
どんな仕事でも、人が自分の務めを果たすときには、ワクワクするような面白み、つまり興味を持って欲しいと希望します。
仕事をする際、単に自分の役割分担をただ命令に従って、処理するだけなら、それは、単なるお決まり通りに過ぎません。しかし、興味をもって取り組めば、自分からやる気を持って、「この仕事は、こうしたい。ああしたい」「これをこうすれば、こうなるだろう」というように、理想や願望を抱いて心がこもった仕事になるでしょう。
孔子の言葉にも「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とあります。自分の仕事に対しても、この熱い真心が必要なのです。
2.道徳は進化すべきか
仁や義といった、社会正義のための重要な道徳を考えてみると、古今東西の聖人や賢人の考え方はあまり変化がないように思われます。
昔の聖人や賢人の説いた道徳というものは、科学の進歩によって物事が変化するようには、おそらく変化しないに違いないと思うのです。
3.人生観の両面
自己の得意な手腕や技術を存分に発揮して、忠義を尽くして、社会に貢献しようとする。自己のためより他者や社会のためにという思いが優っている。このように、他者や社会を主とし自己を従とする考えが客観的人生観です。
反対に、自己を主とし他者や社会を従として、他者や社会のことを考えずに、一方的に自己主張し、自己の欲望を満足させてことを終わらせようとする考えが主観的人生観です。
皆が主観的人生観を押し通すようになれば、国家社会は粗野となり、衰退の道をたどるでしょう。反対に、世の中に客観的人生観が充満していけば、国家社会は理想的なものとなっていくでしょう。
孔子の教えに、「仁者は己立たんと欲して人を立て、己達せんと欲して人を達す」とあります。人の上に立つ者は自分を立てて欲しいと思うなら、まず、人を立てることをし、自分が達成したいと思うなら、まず、人に達成させる。この順序をわきまえるのでしょう。
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