「イノベーションと企業家精神」より、
"認識の変化をとらえる(第六の機会)"
1.半分空である
コップに「半分入っている」と、「半分空である」とは、量的には同じである。だが、意味はまったく違う。とるべき行動も違う。世の中の認識が「半分入っている」から「半分空である」に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる。
1960年代の初めから今日までの20年間に、アメリカ人の健康度が未曾有の増進をみせたことはあらゆる事実が示している。新生児の生存率や高齢者の平均余命、あるいは癌の発症率とその治癒率などである。ところが今日、アメリカ人は、健康ノイローゼにかかっている。突然、あらゆるものが癌、心臓病、ボケの原因に見え始めた。明らかにコップは「半分空である」。
この20年間においてアメリカン人の健康に関して悪化したものがあるとすれば、それはまさに健康と体形に対する関心の異常な増大であり、加齢、肥満、慢性病、老化への恐怖である。わずか25年前には、ごく小さな医療の進歩でさえ、大いなる前進とされていた。ところが今日では、きわめて大きな進歩さえ、さして驚かれない。原因が何であれ、この認識の変化はイノベーションをもたらす大きな機会となる。
例えばそれは、健康雑誌を生み出した。健康食品チェーンも生まれ高収益を誇っている。ジョギング用品も大きな産業になった。屋内運動器具メーカーも急成長した。
2.タイミングの問題
いかなる分野にせよ、イノベーションに成功する人たちは、そのイノベーションを行なう場所に近いところにいる。彼らが他の人たちと違うのは、イノベーションの機会に敏感なところだけである。
認識の変化に基づくイノベーションには、タイミングが決定的に重要である。
例えば、シティバンクは、他の企業が、最高の男子学生を採用すべく努力している中で、女性の社会進出が大きな機会をもたらしていること、金融とマーケティングの分野で最も成績のよい学生は女性ばかりであることに気づき、この変化をイノベーションの機会としてとらえた。
もし、シティバンクが女性のMBAを採用する初の企業になっていなかったならば、企業におけるキャリアを求める優秀で意欲的な若い女性たちに最も人気のある企業にはなれなかったかもしれない。
認識の変化をイノベーションの機会としてとらえるうえで、模倣は役に立たない。自らが最初に手をつけなければならない。ところが、認識の変化が一時的なものか永続的なものかはなかなか見極めがつかない。したがって、認識の変化に基づくイノベーションは、小規模に、かつ具体的に着手する必要がある。
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