「イノベーションと企業家精神」より、
"人口構造の変化に着目する(第五の機会)"
1.外部者にとってのイノベーションの機会
予期せぬ成功や失敗、ギャップの存在、ニーズの存在、産業構造の変化などのイノベーションの機会は、企業や産業、あるいは市場の内部に現れる。
これに対し、産業や市場の外部に現れるイノベーションの機会がある。人口構造の変化、認識の変化、新しい知識の出現である。これらの変化は、社会的、形而上的(理念的)、政治的、知的な世界における変化である。
2.人口構造の変化
産業や市場の外部における変化のうち、人口の増減、年齢構成、雇用、教育水準、所得など人口構造の変化ほど明白なものはない。いずれも見誤りようがない。それらの変化がもたらすものは予測が容易である。しかもリードタイム(所要時間)まで明らかである。
人口構造の変化は、いかなる製品が、誰によって、どれだけ購入されるかに対し大きな影響を与える。
新しく生まれた赤ん坊が幼稚園児となり、幼稚園の教室や先生を必要とするようになるには5年を要する。彼らが消費者として意味をもつ存在になるには15年、成人の労働力となるには19〜20年以上を要する。
人口構造の変化が企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、ひとえに既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれるからである。彼らが、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるとの仮定にしがみついているからである
通念を捨てて現実を受け入れる者、さらには新しい現実を自ら進んで探そうとする者は、長期にわたり競争にわずらわされることなく事業を行うことができる。
なぜならば、通常、競争相手が人口構造の変化を受け入れるのは、その次の変化と現実がやってきた頃だからである
3.人口構造の変化の分析
人口構造の変化の分析は、人口に関わる数字から始まる。ただし、人口の総数そのものにはあまり意味はない。年齢構成の方が重要である。
この人口の年齢構成に関して、特に重要な意味をもち、かつ、確実に予測できる変化が、最大の年齢集団の変化、すなわち人口の重心の移動である。人口の重心の移動に伴い、時代の空気が変化する。
人口構造の変化については、就業者と失業者の別もあれば職業別の区分もある。所得階層、特に可処分所得による区分もある。共働き夫婦の貯蓄性向はどのようなものになるのか。必要なことは問いを発することである。統計を読むだけでは十分ではない。統計は出発点にすぎない。
現場に行き、見て、聞く者にとって、人口構造の変化は信頼性と生産性の高いイノベーションの機会となる。
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