〜渋沢栄一『論語と算盤』より”仁義と富貴@”〜
W.仁義と富貴
1.真に正しい経済
実業とは何か。それは、世の中の商業活動・工業活動が利益を上げることには違いありません。それがなければ、社会に豊かさをもたらさないからです。
かといって、自分の利益さえ上がれば、他人はどうなってもいい、と考えていたらどうなるのか。みんなのことを考えずに、自分一人の利益ばかり考えれば、人から欲しいものを奪い取らないと満足できなくなる、といった事態になるでしょう。
だからこそ、真の経済活動は、仁義道徳に基づかないと永続しないのです。
もし、自分の仕事が自分の利益に関係しない、損しようと得しようと自分の幸せには関係がないとなれば、その仕事に全力で取り組まないものですが、その仕事が自分の利益に直結すると思えると、その事業を発展させたいと思えるものです。
しかし、その意識から他人に勝とうとしすぎて、世の中の流れや事情を考えずに、自分さえよければいいという気持ちでいれば、必ず不幸な結果になるでしょう。
だから、私が望むのは、事業を発展させたい、豊かになりたい、という欲望を抱き続けなければならないが、それを道理に従って実践して欲しいということです。その道理とは、社会が求める仁義道徳に基づくということです。欲望と道理が調和しなければ、奪わないと満たされない不幸な状況に陥るのです。
2.お金と人格
お金には実に大きな力がありますが、お金はもとより無心です。お金は、それ自身に善悪を判断する力はありません。善人がこれを持てば、善くなるし、悪人がこれを持てば、悪くなります。つまり、お金は持つ者の人格によって、善ともなり、悪ともなるのです。
3.弱者救済
どんなに苦労して築いた富といっても、それを自分だけのものと思うのは大きな見当違いです。人は一人では何もできない存在です。国家社会の助けがあって、はじめて自分でも利益が上げられ、安全に生きていくことができるのです。だから、富が増すほどに、社会的弱者を救済するのは当然の義務であり、できる限りの社会貢献をすべきであります。
論語に「自分が立ちたいと思ったら、まず人を立たせてやり、自分が手に入れたいと思ったら、まず人に得させてやる」とあるように、自分を愛するように人そして社会を愛さなければなりません。
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