〜「イノベーションと企業家精神」より、"産業構造の変化を知る(第四の機会)"〜
1.産業構造の不安定性
産業や市場の構造は非常に安定的に見えるため、内部の人間は、そのような状態こそ秩序であり、自然であり永久に続くものと考える。しかし現実には産業や市場の構造は脆弱である。小さな力によって簡単にしかも瞬時に解体する。
そのとき、その産業に属するあらゆる者が直ちに行動を起こさなければならなくなる。昨日までと同じ仕事のやり方をしていたのでは惨事を避けられない。つぶれる。少なくともトップの地位を失う。その地位はほとんど取り戻せない。
産業と市場の構造変化はイノベーションの機会である。それは業界に関わるすべての者に企業家精神を要求する。あらゆる者が『我が社の事業は何か』を問わなければならなくなる。新しい答えを出さなければならなくなる。
2.外部者にとってのイノベーションの機会
構造変化は、その産業の外部の者に例外的ともいうべき機会を与える。ところが、産業の内部の者には同じ変化が脅威と映る。したがって、イノベーションを行う外部の者は、さしたるリスクを冒すことなく急速に大きな勢力を得ることができる。
3.産業構造の変化が起こるとき
イノベーションの機会としての産業構造の変化は、次のようなとき、ほぼ確実に起こる。
(1) 最も信頼でき、最も識別しやすい前兆は、急速な成長である。ある産業が経済成長や人口増加を上回る速さで成長するとき、遅くとも規模が二倍になる前に、構造そのものがほぼ間違いなく劇的に変化する。
(2) 産業の規模が二倍に成長する頃と時を同じくして、それまでの市場の捉え方や市場への対応の仕方では、不適切になってくる。それまで業界トップの地位にあった企業の市場の捉え方が現実を反映せず、歴史を反映しただけのものになってくる。しかるに報告や数字は、古くなった市場観に従ったままである。
(3) いくつかの技術が合体したときも産業構造の急激な変化が起こる。
(4) 仕事の仕方が急速に変わるときにも産業構造の変化が起こる。
4.単純なものが成功する
産業構造の変化をとらえるイノベーションが成功するためには、一つだけ重要な条件がある。単純でなければならないということである。複雑なものはうまくいかない。成功のチャンスは、単純で具体的なイノベーションにこそある。
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