1.同じ花でも
『富貴名誉の、道徳より来たるは、山林の中の花のごとし。自ずからこれ舒徐繁衍(じよじよはんえん)す。功業より来たるは、盆檻(ぼんかん)の中の花のごとし。すなわち遷徙廃興(せんしはいこう)あり。権力を以って 得るもののごときは、瓶鉢(へいはつ)の中の花のごとし。その根植えざれば、その萎(しぼ)むこと立ちて待つべし。』(前集五九)
(訳)徳望によって得た富貴名誉は、野山に咲く花のように、自然に枝葉が生い茂る。
功業によって得た富貴名誉は、鉢植えの花のように、よそに移されたり捨てられたりする。権力によって得た富貴名誉は、花瓶の花のように、根がないからたちまち萎んでしまう。
功利的に得た富や名誉は、利害の対立する者に奪われる危険があります。権力を乱用して得た富や名誉は、人々の反感を買って、転覆させられる危険はさらに高まります。一方、徳望のある者は、人々の中に信頼の根が張り巡らされるので、自然と富や名誉を得ることができ、失う心配もなくなるのでしょう。
リーダーたる者は、富や名誉を目的とするのではなく、人格を磨き世の中の役に立つ働きをすることで、自然と安定的に得られる富や名誉に満足することが大切なのでしょう。
2.満つれば欠ける
『欹器(いき)は満つるをもって覆(くつがえ)り、僕満(ぼくまん)は空しきをもって全(まつた)し。ゆえに君子は、むしろ無におるも有におらず、むしろ欠におるも完におらず。』(前集六三)
(訳)「欹器」(水を入れる銅器)は口まで水を満たすとひっくりかえる。「僕満」(銭を貯める土器)は中身がいっぱいになると壊される。君子もまた満ち足りた状態を求めず、不足を良しとする無の境地に身を置くべきである。
器以上のものを入れると器ごとひっくり返ってしまうように、人も必要以上に欲望を満たそうとすると転落の元となるでしょう。人の欲望は追えば追うほどエスカレートし、その結果、身の破滅を招いた例は、枚挙にいとまがありません。
リーダーたる者は、身の丈に応じて得られるものに満足する姿勢を持ち続けることで、自分を見失うことがなくなり、いつまでも人として成長することができるのでしょう。
3.安きにおりて危うきを思う
『君子はただこれ逆に来たれば順に受け、安きにおりて危うきを思う。』(前集六八)
(訳)君子は逆境が来ても順境と受けとめ、平穏無事なときにも危機が来たときの対処を考える。
人は往々にして、逆境のときは悲嘆に暮れ、順境のときは有頂天になるものですが、そういった姿勢では、逆境を克服することも、順境を伸ばすこともできないでしょう。
「危機は好機なり」と言われるように、ビジネスにおいても、モノが売れないときこそより必要とされる製品・サービスを開発するチャンスと捉えたり、トラブルが起きたときこそ、業務改善やサービス向上のチャンスと捉えたりすることが、企業の発展にもつながるのでしょう。
また、順調なときこそ、そこに内在するリスクを検証し、時代の流れを先読みし、変化に対応できるよう準備を整えることが、危機を回避することにつながるのでしょう。
そのためにリーダーは、目の前で起こることに一喜一憂することなく、深い洞察力をもって冷静に組織を引っ張っていく努力が必要になるのでしょう。
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