イスキア島の小さな港
この夏の旅のメインはイスキア島でリゾートすること。以前見た、マット・ディモン主演の『リプリー』という映画。イタリアが舞台のお話なのだけど、イスキア島で撮影を行ったとか。映画のシーンはとても綺麗でした。これは、行ってみなくっちゃね!。イスキア島は、ナポリ湾で一番大きな島です。温泉があると聞いたので、プールと温泉施設のあるホテルを友人が探してくれました。その名も『ホテル テルメ ラ・バガテッラ』。港から5キロほどのところにある、2つ星のミシュランおすすめ宿で、『Giardino Fiorito、温泉と室内プール、エアコン、テレビ付き』とのこと。いいねぇ、行くのが楽しみだ。

ナポリのベヴェレッロ港より、CAREMARという会社の船に乗ります。遠ざかっていくナポリがとても綺麗。海岸そばに見えているのは、ヌーヴォ城、隣の大きな建築物は王宮のはず。そのはるか背後に見える山は昨日訪れた、カポディモンテかな?。1時間15分ほどで、予想通りの小さな小さななイスキアの港へ到着しました。思ったとおりの小さい島、緑がかなり多いのがやや意外といえば意外かな?。ナポリから来たので、余計に緑が新鮮に見えます。港のすぐ前にあったインフォメーションへ入り、島の地図をゲット(有料でしたが・・・)。ホテルへの行き方を念のため尋ねたところ、そこに停まっているバスに乗っていけとのこと。タクシーで行くつもりをしていたので、これは予想外。バスの運賃は、たったの1800リラ(約110円)。タクシー代とくらべたらねぇ・・・えへ。
バスに乗り込んだものの、どこで降りれば良いか分からない私たち。インフォメーションの人が知っているくらいのホテルだから、恐らく道沿いに看板があるはず、と必死で窓の外を凝視する私たち。バスは満席で、しかもくねくね曲がる山道なので、スーツケースが倒れないように足元に気を使いながらの看板探しは疲れるものですね。
バスはどんどんと山道を登き、インクをこぼしたようなブルーの海に、思わずため息。15分ほどバスに揺られた頃、見つけた!。私たちの、『ホテル テルメ ラ・バガテッラ』の看板だ!。次のバス停で下車します。看板の下に立ってみたものの、近くにホテルは見当たらず。こっちの道にもないし、あっちの道を覗いてみても、はるか先までホテルらしきもののは見えない。強いてホテルらしき大きさの建物をあげるとすると、あれかな・・・。というものを目指して、とりあえず歩き始めることにします。バスは随分と山道を登ったため、ここから見える景色は最高。そして、私たちはといえば、スーツケースを引きずり、山道をくだる、くだる、くだる、くだる・・・。もしや、あの看板は偽物だったのでは・・・と20分ほど歩いた頃、やっとホテルを発見しました。どうして、バス15分、徒歩20分なのか、まったくもって不明でありますが、ともかく到着です。

しかし、このホテル、なにか違和感が・・・。メインエントランスの門のところ。地面の石畳に、白いペンキ(!?)で、星が4つ書いてあります。そして、フロントにあったパンフレット、カード、看板、いたるところの表記が『Hotel Terme La Bagattella ★★★★』。ん?ミシュラン2つ星おすすめホテル、じゃなかったの??。『Giardino Fiorito(花の庭)』のミシュランの言葉通り、緑の綺麗な、美しい庭。その庭のあちこちに、なんて言うだろう・・・、正式な名前は知らないのだけど、屋根のついた揺りブランコ。そして、建物のトーンは、ピンク。私たちが宿泊した部屋の中も、トーンはあくまでも、ピンク、ピンク!。なんともメルヘン。とりわけ不思議なのが、窓の形。これはいったい何様式というの?。私たちの頭に浮かんだのは、『ハク○ョン大魔王』。

山を下ること20分

これが宿泊施設です
島の探索がてら、昼食をとりに行くことにします。ふう、おなかペコペコです。港からホテルまでこんなに時間がかかるとは思ってなかったから・・・。友人が、予約をする際にやりとりしたeメールを印刷したものを取り出し、実は分からない単語が書いてある、と。確かにそこには、『mezzo pensione』の文字が。『mezzo』は『半分』なので、英語のハーフ・ペンションと同じなら、食事が含まれてるはずなんだけど・・・。出かける前に、フロントで尋ねることにします。どういう風に聞こうか悩んだのですが、いいアイデアがひらめきました。『mezzo pensione』私たちの勘違いで、まったく違う意味だと恥ずかしいので、フロントのお兄さんにイタリア語で、「私たちの宿泊には、朝食は含まれてる?」と聞いてみました(これ、いいアイデアなのか?)。これだと、例え『mezzo pensione』が『部屋にタオルがある』という意味だったとしても、恥ずかしくないかな・・・と思ったの。確認してみますね、とノートをめくった彼の答えは、「あぁ、夕食がついていますね。もちろん、朝食もですよ」とのこと。ありゃ、知らなかったよ。ここで質問していなければ、確実に、わたしたち、このままどっかのレストランで夕食を食べて帰って来てました。あぶなかった・・・。

地面の4つの星と、変な窓

『Giardino Fiorito』花のお庭
ホテルから少し歩き、海沿いにある感じの良いレストランで昼食。イタリア旅行に焦りは禁物。ゆったりとした時間を楽しみに来ているんだから・・・というのは真実ですが、お腹がペコペコの時には、本当に勘弁していただきたい。レストランの椅子に座って飢え死にしかけた経験が何度もありますもの。今回も、あれだけ歩いた後の午後2時。とりあえず、パンだけで良いので持ってきてはいただけませんかねぇ・・・(泣)。注文したものは、まず、『Insalata mare e monte』。直訳すると、『海(の幸)と山(の幸)のサラダ』。ここ、イスキア島で食べるのにピッタリのお皿じゃないですか!。運ばれてきたのは、蛸とフンギ(きのこ)のサラダでした。そして、えびの串焼きと、ラザニアにコロッケの盛り合わせ。昼食後は(食べ終わると4時です)、ホテルへ戻り、プールに行くことにしました。

少なくない宿泊客がプールにいたのですが、メルヘンチックなこのホテルにはどうも似つかわしくない風景。プールに入るには、どうもスイミングキャップを義務付けられているようなんですね。真ん中の部分は白色。両脇の色が、赤・青・緑の3種類あります。白色の部分には、ホテルのロゴマークと★★★★。うーん、帽子も、あくまでも星4つ!なんですね。
8時ごろにホテルへ戻り、豪華な食堂へ向かうと、多くの人はもう夕食を済ませた後のようでした。周りを見回すと、ものの見事にご年配の方々ばっか。そりゃそうですよね。なんてったって、テルメ、温泉ですものね。黒い髪に黒い瞳のウエイターのお兄さんは、私がイタリア語を理解するということが分かると、ホッとした様子。きっと裏で、メニューの内容を英語に訳すのに苦労してたんでしょうね。数種類のコースの中から選択するんだけど、今日はもう遅いので、いくつか既に終了しちゃったものがあるのだとか。すごく申し訳なさそうなお兄さん。遅く来た私たちが悪いので構わないよ。普通はイタリアの夕食タイムって8〜9時ごろからだから、ついその癖がついちゃって。私が選んだのは、サラダ、バジルソールのラザニア、バジルソールの白身魚ソテー。ヴィーノ(ワイン)をどうするか尋ねられたので、グラスワインを頼んだところ、グラスだと普通のワインしか出せないが、ボトルだとイスキア島産のワインがあり、すごく美味しいんだって。友人はお酒を飲まないため、量が多すぎると断ると、残った分は明日の夕食の時に飲めばいいと。なーるほど!。mezzo pensioneに泊まったのは、初めてなんだけど、そういうことが出来るのね。食事は、もちろん、とても美味しくいただきました。食後にはジェラートとカフェ。ごちそうさまでした。

部屋に戻ろうと食堂のある建物から庭に出て、うわぁ!驚いた!。はぁ??なんなん?これいったい!?。あのメルヘンな庭を照らす怪しげな光。昼間、優雅だったプールも怪しい色に光っています。美しい庭がライトアップされているのですが、どうして、そのライトに青やら緑やらを選択しちゃったんでしょう。すっごく、不思議な光景なんですが・・・。「椰子の木を緑のライトで照らす神経が分からん・・・」と、首を捻る友人。だいたい、『ラ・バガテッラ』というこの覚えにくいホテルの名前、どういう意味やねん!。ということで、私の持っている伊和辞典をくってみました。『ラ』は、女性名詞につく定冠詞。英語の『ザ』みたいなもんですね。さて、辞書によると・・・、『bagattella』取るにたらぬもの。はい、そういうことですか・・・。
翌朝、朝日のまぶしいテラスで朝食を。食べていると、昨夜の黒い髪のお兄さんがまぶしい笑顔とともに近づいて来ました。手にしたものを差し出すので、朝から、何を食べさされるのか!!とびっくりしたら、今日の夕食のメニューでした。昨日、私たちは午後チェックインしたので、食堂で注文したけれど、長期滞在している人は、朝、注文しておくのね。私たちはたった2泊しかしないのに、それでも気分だけは、リゾート地長期滞在者!?

朝食後は、テルメへ行ってみます。テルメ(温泉)といっても、日本の露天風呂があるような温泉旅館とはまったく違います。ヨーロッパでは、あくまでも治療目的。処方箋がないと入ることができないところもある、と聞いたことがあります。このホテルも、プールは屋外、テルメは室内で、雰囲気は日本のシティホテルの温水プールという感じでした。私たちが入っていくとウォーキングをしている先客がいました。彼は、日本にも来たことがあるんですって。九州、箱根、神戸にも。神戸ってもしかして、有馬温泉?。優雅ですね。お金持ちなのね。
この日は午後から、お隣のプロチーダ島へ行っていたので、夕食のため食堂へ行ったのは、やっぱり遅めの8時すぎ。テーブルに着くと、あのお兄さんがやってきて、ものすごーーーーく申し訳なさそうに、私たちが今朝注文したメニューが品切れになっちゃったと。私たちの到着は、やっぱり今日も遅すぎたのか。でも、朝、注文を尋ねる意味はどこにある?。私たちが帰って来ないと思ったのか?。それとも、数を数え間違えたのか?。ま、深い意味はまったくないと思われるので、朝も適当にメニューを選んだことだし、再び、今から用意できるものの中から適当にチョイス。赤キャベツとパルメジャーノ(チーズ)のサラダに、Occhi di lupo。牛肉のレモンソース、そして昨夜の残りのヴィーノ。

プリモ・ピアットに頼んだ、Occhi di lupo。直訳すると、『狼の目』。何を食べさされるんだろう・・・と、響きだけで注文しちゃいました。手打ちらしいパスタに、かぼちゃのソースと海老が入ってました。初めて食べる味。こいつは、美味しいや。すると、あのお兄さんが、何かを手に持ってやってきました。「かけましょうか?」と、手にしている瓶の中身はペペロンチーノ。パスタにかけてもらったんだけど、こんな料理なのか?。私としては、かけなかった時のほうが美味しかったような・・・。

イスキア島。結局、島の多くは見られないままだったけど、素敵なホテルに巡り合えて、大満足です。それにしても、やっぱり、たった2泊の滞在は少なすぎました。『取るにたらない』ホテルで怪しいライトに照らされながら、ひと夏のヴァカンスを過ごすことが出来たら素敵だろうな・・・。

2001.7