僕はその時、とある女のコに気に入られていたようだった。 顔はダダ星人、あるいは西川のりおに少し似ていた。 アメリカのメジャーリーグで活躍している新庄選手は、こう言っている。すなわち、 「来た球を打て」、と。 打てません。 オトコにはストライクゾーンというのがあって、人それぞれ広さが微妙に違う。 でもこれは地表すれすれだよ。 どんなに悪球打ちが得意な人でも手を出せないのではないか。 もしいたとすれば、じっくり人生について語り合ってみたい。 ***** ダダ: 「偶然〜!●くんも来てたんや〜」 僕: 「・・・」 僕の通う大学の学園祭は、もっとも遅い時期に始まる。 木枯らしが吹き始めるようなそんな秋のこと。 僕はとある体育会のクラブに参加していて、当然そこのクラブも屋台をやっている。 自分の大学の学園祭に来るのはある意味で当然だ。 それって偶然じゃないだろ。 僕は校門付近で捕獲され、暗くなりかけた中庭のベンチまで連れて行かれた。 ダダは顔が大きい。物理的な意味で。 やはり「敬遠球」にはバットを振れない。 ダダ: 「なんだか夢みたいやなあ〜」 夢なら早く醒めてほしい。 僕: 「何が・・・?」 ダダ: 「●くんと一緒にいられること♪」 逃げ出したい。 僕は高校のとき陸上部に所属していた。 確かにその頃に比べたらトレーニング不足による速力低下は否めないかもしれない。 しかし全速力で走れば、あるいは。 脚に力を入れたところで別の考えが頭をよぎった。 もし追いつかれたらどうしよう。 必死の形相で追いすがるダダ星人に捕獲されたあとの展開がまったく読めない。 こ、殺されるか・・・? 僕は恋愛は格闘技だと思っている。 すなわち、ヴァーリトゥード。 好きになったのなら相手の弱みや感謝、時には罪悪感さえも利用して自分に気持ちを振り向かせればいい。 その中で僕が目指すのは、いわば「恋愛の魔術師」。 ヴァーリトゥードを標榜するPRIDEにはアントニオ・ホドリゴ・ロゲイラという選手がいる。 相手の行動の2歩3歩先を読んで逃げ道をつぶし、自分の得意な関節技勝負に持ち込み、ふと気が付くとすでに勝負がついている。 負けた相手はどこで勝負がついたのか、わからない。 そういう選手だ。 僕はそういう「恋愛の魔術師」になりたいと思っていた。 対するダダ星人。 得意技は大相撲の浴びせ倒しですか? 力まかせで強引なそのやり方は、横綱・曙を思わせたのだった。 ダダ: 「今度バイトすることにしてん」 僕: 「ふーん」 ダダ: 「●●通りのTsutayaやねんけど」 襲撃だ。 襲撃が始まった。 僕: 「それっておれんちの近くだよね・・・」 ダダ: 「え?そうなの?知らなかった」 ウチにも上がりこんできたクセに、知らないはずがない。 ダダ: 「それならバイトの帰りとかにも寄っていい?」 それなら、って何? 言葉遣いがおかしい。国語審議会が刺しにくるぞ。 ここははっきり言ってやらねばなるまい。 僕: 「多分おれバイトとかクラブとかであんまりウチにいないと思うし・・・」 ダダ: 「待ってる」 僕: 「寒くなると風邪とかひくし・・・、いいよ」 ダダ: 「じゃあ合鍵ちょうだい♪」 日本の政治がおかしいと思う国民は大多数いる。 戦後以来の日本の政治は、アメリカの世界戦略、あるいはアジア情勢によって大きく左右され、日本独自のスジの通った政治は成すことが困難だった。 例えば国連とアメリカが対立したときはどっちの路線につくのか。 あるいは中国と台湾のどちらを正当な主権と認めるのか。 臨機応変とは聞こえがいいが、実はその場その場の状況でフラフラと刹那的な決断をしているに過ぎないのだ。 ダダ星人。 驚愕するくらいスジが通り過ぎだよ。 目的に向かって一直線だった。 僕: 「あうう、鍵?え?合鍵?それはちょっと・・・」 ダダ: 「なんで?」 オマエこそ、なんで? 僕: 「んとね、ピッキング対策とかなんとかで、普通の鍵じゃないから合鍵作れない鍵になってる」 自分が情けなかった。 どうしてもっとキツくはっきりと言えないのか。 ダダ: 「ふ〜ん」 僕: 「とにかくダメなの!おれはオマエがキライだからだ!」 あ。 通常、地上に存在する重力は1Gとして計算される。 これは万有引力の法則により地球があらゆるものを引きつける力と、回転することによって生まれる遠心力の合力によって計算されるものだ。 地球上の重力値はおよそ980Gal(ガル)で、赤道上と極では、遠心力の影響でおよそ0.5%の差がある。 空気が重くて、時間が長い。 凍った空間がどれだけ続いたのかは分からないが、実際は数秒だったのかもしれない。 うつむいているダダ星人の表情が読めない。 先に沈黙を破ったほうが、負けだ。 ダダ: 「キライキライも好きのうち・・・」 ハイ? ダダ: 「“好き”にもっとも近い執着の感情が“嫌い”・・・」 僕: 「・・・」 ダダ: 「ヤダ、もう、冗談よ、冗談。」 僕: 「ハハハ・・・」 ダダ: 「●くんも冗談はほどほどにね♪ で、鍵はいつ作ってくれるん?」 そっちも冗談扱いかよ |