僕と彼女の事情
〜少年の心〜






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ねえ、どんな男の人が結婚するのに理想の人なの?

そうね・・・、いつまでも少年の心っていうか、無邪気さを持ってるような人がいいな。

たとえば?

仕事ばっかりじゃなくて、自分の趣味とか、好奇心とか、そういうのを持ってるような人。たとえば・・・? コンピュータでイラスト描いてる藤井フミヤとか、サーフィンにはまってる木村拓哉とか。

ふ〜ん。

●ーくんも、おとなになっても子供の心を忘れちゃダメだよ。

ハイハイ。

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付き合い始めたときにはそう言ってたハズなのだ。

いつまでも少年の心を。

nonnoだってan-anだって、JJだって、JUNONだって、絶対に『理想の男性像』のところには『いつまでも子供らしさ、無邪気さをもった男性』が上位にランキングされているハズなのだ。

好奇心とか遊び心を忘れた大人は、つきあっても面白くないに違いない。

そういう意味では、付き合い始めたときに当時女子高生だった彼女が理想の結婚相手としてそういう条件をつけたことは間違いではないし、一般的にいってもそれは大部分の人が同意するところだろう。

だから、僕は子供心を忘れないように日々努力してきたのだ。

それがなぜ悪いのか。

彼女がいつものようにウチに遊びに来たある日の夕方。

ベッドにうつぶせになった彼女の上に乗って、いつものように肩と背中を揉んでいた僕に、彼女はきいた。

彼女「ねえ、あの棚の上にあるのって、なに?」

「あれはまだ作ってないガンダムのプラモデルだよ。いや、早く作りたいんだけどね、塗料買ってこないといけないし、まとまった時間とれないし、買ったままになってるんだ。作ったら見せてあげるね。あれはガンダムGP01フルバーニアンっていって、宇宙世紀0083年に連邦軍がアナハイムエレクトロニクスに発注した3体の新ガンダムの一つ目なんだ。それを宇宙用に改装したのがフルバーニアンで、・・・」

彼女もうええって。そんなこと訊いてへん! プラモデルっていうのもわかってるねん。あたしが訊いたのは、『22歳にもなってガンダムのプラモデルなんて作ってるの?』ってこと! ちょっとは年齢を考えーさ」

「へ・・・?」

僕は得意満面で説明していたのだが、彼女にガンダムはまだ早かったらしい。

それに、たしか彼女はむかし、童心を忘れるな、みたいなことを言っていたのだ。

なのになぜ?

彼女「いい? 普通の人ならもう来年就職するんだよ? 就職するってことは社会人やねんで? ガンダムとかマンダムとか言ってたらアカン!」

それは笑うところなのですか?

会話の内容が内容だけに、僕は中途半端すぎてツッコめへん! というセリフは飲みこまざるを得なかった。

彼女「なあ、もっと大人になろうや。そりゃ人生には楽しいこともあれば、ツライこともある。ツライときには多少のゆとりが気持ちのなかになかったらしんどいんやろうし、子供っぽさを出して遊ぶのもいいかも知れへん。でもな、もう22歳なんやし、いいかげんガンダムからは卒業しよーや。・・・首の下のほう押して。」

「・・・ハイ」

彼女はまだ高校生だが、大人だった。

それでも僕はひとつだけ、言い返したいことがあった。

言ってもいいのだろうか?

多少の逡巡があったが、思い切って言ってみることにした。

「でも、キミのパンツもキティちゃんでしょ?

ガツッ!

彼女のカカトが僕の背中を強打した。

別れる、なんて僕も彼女も思ってもいなかった、幸せなある日の出来事であった。

いまから思うに、ガンダムが原因なのか?


 
教訓「我々は3年待ったのだ・・・」



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