僕と彼女の事情
〜彼女の夢〜






この世の中にはたくさんの人間が住んでいる。

その多くの人間を単純に2種類に分けるとすれば、おそらく男と女という2つの性別で分けるのがもっともカンタンだろう。

生まれながらにそのカラダに潜む遺伝子情報がXXかXYか。

ごく少数の例外を除き、すべての人間はこの2つの性別に分類される。

そして一般的には男女それぞれ、相手のことがわからない、という。

すなわち、男は全般的に「オンナってわからない」といい、女は全般的に「オトコって理解できない」という。

僕が当時付き合っていたのはいわゆる女子高生だった。

最初、僕が彼女のすべてを理解できないのは、そういった男女の性別の違いによるものかと思っていた。

*****

その休日の午後、僕と彼女は僕のマンションの部屋でビデオを観ていた。

レオナルド・ディカプリオ主演、『ロミオとジュリエット』。

彼女: 「なあ、こういう禁断の愛っていいと思わへん?」

僕: 「ん〜、そうか?」

周囲のすべてが二人の愛の敵であったとしても、ひたむきにその愛に殉じて貫き通す。

そういった姿にロマンを感じるのが女というものなのかもしれない。

確かに、小説にしても映画にしても女性に人気にあるストーリーには、“何の障害もなく順調に育まれる愛”はほとんどなく、逆に“幾多の障害を乗り越えて成就する愛”のほうがはるかに多い。

彼女: 「だってさー、ロミオとジュリエットみたいにいがみあってる名家の男女が愛し合うのって、すごいロマンチックやんか」

僕: 「オマエんとこのお父さんて、税務署とか???」

彼女: 「違うけど、なんで?」

僕: 「うちの親父はサラリーマンだから・・・」

彼女: 「そういうちっちゃい対立ちゃうねん」

彼女は自分の夢を語りだした・・・。

*****

の夢は、将来お姫さまになること。

真っ白いお城に住んで、お城の周りにはお花畑でいっぱいになってて。

でね、ずっと平和に暮らしてるの。

でもある日突然近くの悪い国が攻めてきて、うちの王国が攻められちゃって。

もうあとわずかでお城もやられちゃう、っていうその時。

同じように悪い国に攻められてほろぼされた国の王子様(そのときはもう平民になってる)が助けにきてくれて!

あっというまに悪い国を滅ぼしちゃうの。

私とその王子様はあっというまに恋に落ちちゃうんだけど、父さまが身分の違いから結婚を許してくれなくて。

駆け落ち同然で違う国にいってね、それで、

それで、商売を始めて成功してお金持ちになってルイ・ヴィトンのマークのついたお城建てるの!

そしたら父様が結婚を許してくれて・・・


*****

彼女: 「ねえ、どう?すごい憧れると思わへん?」

僕: 「・・・。」






ふーん。

一般的に女性の価値観は男のものとは違うということはあらかじめ予測がついていた。

しかし、彼女の夢はどう考えても一般的女性のそれとはかけ離れているのではないか。

ヴィトン・マークのついたお城って何?

僕: 「僕は登場しないの・・・?」

彼女: 「え?話聞いてなかったん?アンタは悪い国が攻めて来たときに・・・」

息を飲む。

彼女の目が僕を見る。

潤んだ瞳に映っている、真剣な顔の僕自身。

彼女: 「・・・私をかばって死ぬ兵士その6やで(笑)

これほど好きなのに!!

名もなき戦死者その6って?

1〜5は誰?

僕: 「もうちょっといい役を下さい・・・」

彼女: 「その1?」

僕: 「いや、その王子様の役を・・・」

彼女: 「ヴィトン買ってくれる?

・・・。

その日、晴れ渡る夜の空に浮かぶ月を眺めて考えた。

少しばかしの笑みが浮かんでいたのかもしれないが、それは幸福の笑みではなく、むしろ降伏の笑みだったのだろう。

なれるものならば、ルイ・ヴィトンの社長になりたい。

というより、一体、ここまで彼女を狂わせるルイ・ヴィトンて、なんなんだろう。

答えは見つかるはずもなかった。



 
教訓「男には理解できないことがある」





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