僕と彼女の事情
〜遊園地のデート〜







僕は男子校でその青春のほとんどを費やしてしまった。

中学1年から高校3年までの多感な時期を男子校という偏った世界で過ごしてしまったことは、どうだろう?よくないことなのではないだろうか?

知らず知らずのうちに僕はある種の「変態」になってしまっていたのではないかと最近思うようになった。

彼女ができたら手をつないで映画を見て感動する彼女の肩を引き寄せささやきを交わす・・・。

花火大会を観にいったら「キレイ」とつぶやく彼女の耳元で「キミの方がキレイだよ」とささやく・・・。

二人きりのドライブでレインボーブリッジを眺めながら無言の二人は口づけを交わす・・・。

こんな末期的妄想を抱いていた僕はやはり「変態」か?

しかし当時の僕の恋愛のバイブルは「BOYS BE…」かコバルト文庫くらいだったのだ。

*****

僕にはそのとき付き合っていた彼女がいた。

職業、女子高生。

ただし、彼女は普通の女子高生とは少し違っていた。

調子に乗っていたのである。

その夏の平日のある日、僕は彼女をクルマに乗せてエキスポランドへ向かっていた。

学校のある時期ではあったのだが、学校行事の都合で平日にも関わらず休校日となっていたからだ。

遊園地には空いている日に来るに限る。

僕は行きのクルマの中でウキウキしながらその日一日の行動をシミュレートしていた。

___お化け屋敷で彼女はオレに抱きついて、そんでそのままジェットコースターだな。

次はマイナス10度の部屋に入ってまた抱きついてもらって・・・♪

いや、確かお化け屋敷みたいなアトラクションはいくつかあったような。

そして最後の仕上げはやっぱり観覧車の中に二人きりになって甘いキス___


気が付くと、僕はよだれを垂らしていた。

そしてエキスポランドに到着して。

「じゃあそろそろコレ行く?」

エキスポランドには毎年、夏季限定で「役者が驚かすお化け屋敷」というのが催される。

古臭い人形が機械で動くお化け屋敷とは違い、迫力と怖さの点ではケタ違いだ。

僕のあたまの中では、怖がって僕に抱きつく彼女と、「大丈夫、僕がついてるから」と優しく声をかける僕がいた。

だが。

その怖さは予想を遥かに超えていた。

おわッ、うわッ、ひょえッ

自分のことで精一杯だった。

そのとき彼女は平然と歩いていた。

そしてそのお化け屋敷も最後あたりに来たとき。

おわッ!

ゴッ。

突然横から出てきたお化けに驚いた僕はつまづいて倒れ、その際に左のこめかみあたりをしたたかに柱にぶつけた。

お化け「あ、すみません、大丈夫ですか?」

お化けの人にも心配させるくらいの音はしたと思う。

「あ、いえ、大丈夫です」

大丈夫じゃなかった。

出口を出たところで心配そうに彼女が覗き込んで、

彼女「ねえ、大丈夫?・・・あ」

「平気だよ。・・・あ」

血が出ていた。

しばらく適当なアトラクションに入ったあと、オロチにたどり着いた。

オロチとは一番チケットの高いアトラクションで、足場のないジェットコースターだ。

ひざから下は宙ぶらりん状態で、踏ん張る場所がないというのは結構怖い。

彼女「あたし、これ乗るの初めて〜。怖いよ〜」

「大丈夫だよ」

僕たちの順番がきた。平日なのですぐだ。

ガタンゴトンガタンゴトン・・・

ガーーーーー、ゴーーーー!!!!!

ウワー、きゃー!!!!!

一周回ってコースターから降りた僕らの足はふらついていた。

彼女「ねえ、あれ楽しい。もう一回乗ろ!」

・・・。

彼女「ねえ、やっぱりあれ楽しい。もう一回乗ろ!」

・・・。

彼女「ねえ、あれ楽しい。最後にもう一回だけ乗ろ!」

・・・・・。

結局通算6回ほどオロチに乗った。

最後に満足げに彼女は言う。

彼女「あ〜、楽しかった」

そのとき僕は気持ち悪くなっていた。

僕のシミュレーションではここらへんでソフトクリームを二人で食べることになっていたのだが、そんな余裕はさらさらなかった。

ああ、そうか。そりゃよかった

彼女「ねえ、じゃあプリクラ撮りに行こ!」

僕は彼女に引きずられながらプリクラに向かった。

「ほんとに撮るの?」

彼女「だってここに来るときクルマの中で○ーくんが言ったんだよ?絶対記念にプリクラ撮ろうねって」

そういえばそんなことを言った気もした。

機械の前に立ち、カメラに撮られる自分の顔を見てみた。

青い顔をして額から血を流していた。

プリクラを撮ったら、ちょうど閉園近い時間だった。

「じゃあ、最後に観覧車乗ろうか」

つくば万博のときに作られ、そしてここに移された観覧車は静かに回る。

二人だけの時間と空間。

回りだす僕らの部屋。

彼女「へ〜、たか〜い。」

僕は彼女の肩を引き寄せ、耳元でささやく。

「今日は楽しかった。ありがと。また来ような」

彼女「うん」

「・・・チュー、しよ」

彼女イヤ〜♪

「な、なんで(焦り)?!」

彼女「どうしてもしてほしい?」

「うん。どうしてもどうしても」

彼女「え〜、どうしようかな〜」

「ほんとに、ほんとに頼むよ(懇願)」

気が付くと僕は土下座していた。

彼女「あのね、かわいいワンピースあんねんやんか〜」

残りわずかになった観覧車の時間に押されて、きっと僕はあせっていたに違いない。

あっさりと駆け引きの勝負を捨てていた。

「何でも買ってあげるから!」

彼女「ほんまに!?じゃあチューしたげる。目つぶって」

僕は目を閉じて、静かに彼女の温もりを待った。

・・・チュ。

ちょ、ちょっと、なんでオデコなんだよ

しかし時はすでに遅し。

観覧車は一周し、ドアが開いた。

僕が彼女に連れられて高島屋に行き、約束の履行を迫られたのはちょうどその二日後のことであった。

 
教訓「小説なんてウソばっかり」




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