室町時代、戦国の世、あるいは安土桃山とそれ以降の江戸時代、それぞれの時代の将軍や地方に君臨した殿様たちは強かった。 (イメージ画像) 己の野望と知性をいかんなく発揮し、男として立派に生きたのだと思う。 世を治め、そして女を抱き、カネを集める。 なんと憧れることか。 そう、かつての日本の歴史の中には「強い男」が実際に存在したのである。 知略謀略に生き抜き城の中では息抜き。 外では男としての野性味を如何なく発揮し、内では男性味を如何なく発揮する。 戦場では敵の兜を脱がし、褥(しとね)では数多の女を脱がす。 これが男としての生き様ではないのか。 神様に問いたい。 なにゆえ現代の日本の男はこうまで男としての威厳を失ってしまったのであろうか。 ***** 当時、僕がつきあっていた彼女は怖れ知らずの女子高生だった。 いつものように彼女が僕の部屋に来て、僕の手料理を食べて、レンタルしてきたビデオを見てくつろいでいた。 彼女「ねえ、なんかゲームかなんかない?」 オセロくらいならあるのだが、それは彼女が不貞腐れるので却下だ。 僕「ゲームかぁ。テレビゲームはないんだよな。コンピュータのゲームくらいならあるけど。今洗いものしてるから・・・、そこのコンピュータに電源入れてみて」 僕が手料理を作って、そして僕が食器や鍋を洗うのだ。 そして彼女は面倒なCDーROMのゲームはせずに、WIN98に入っているマインスィーパを始めた。 洗いものが済んでPCの前に座る彼女の横に行くと、夢中になっていた。 こういうときは黙って見守るほうが正解だ。 彼女「ねえ、コレどうやってやるの?ルールはわかるんだけど・・・」 僕「ほら、数字の周りの9つのセルの中に、数字の個数だけ地雷があるってことだから、、、」 彼女「え、じゃあ、ココは地雷で、えっと、ココはなくて・・・、あ、間違えた」 僕「だから、数字の個数だけ周りの9個のセルの中に地雷があるってことは、逆に数字よりも多く地雷はないってことでしょ」 彼女「えっと、ココがあいて、ココが開かない、で、ココが・・・、あ!間違えた!!もう一回」 僕「だから、ココは地雷でココはなくて、でココが・・・」 彼女「もう、○ーくん、うっさい!!横からあーだこーだ言われたら集中できないでしょ!!」 僕は最初は黙っていたのだ。 そう、僕は最初は黙っていたほうがいいと思って、ただ、横で見ていたのだ。 彼女「もう○ーくんとはチューしないからね」 例えば時代劇では。 水戸黄門でいうところの印籠。 遠山の金さんでいうところの桜吹雪。 あるいは白州の上の罪人に向かう大岡越前の啖呵。 世の中には相手の反論を一切許さない強力な切り札がある。 そしてその切り札を出されたとき、相手はこれ以上ないくらいに無力となってしまうのだ。 そのセリフを聞いたときの僕はシャアのズゴックに一撃で粉砕されたファンファンよりも無力だった。 僕「・・・ごめんね」 ***** その日の帰り、彼女を送っていくクルマの中で。 BGMはスローなバラードソング。 さっきまでの二人のはしゃぎぶりが嘘のように変わって、なんとなくしとやかな密室の空間。 僕「今日も楽しかった。ありがと。またうちに来て一緒にビデオでも見よ? おまえが彼女でおれ、幸せだよ」 彼女「うん、あたしも。だって、○ーくんと一緒にいるとあたしも楽しいし、それに・・・」 僕「それに?」 彼女「○ーくんって超アホやし、あたしくらい出来た人やないと相手できひんもん」 僕が警察官でなくて本当によかった、とそう思う。 もし僕の手許にニューナンブ38口径があったら0.5秒で彼女のこめかみを打ち抜いていただろう。 世が世なら、僕が将軍で彼女が大奥にいる一人の侍女であったならば一族郎党すべて打ち首になっていてもおかしくないセリフだ。 なんと男をバカにした言葉か! あたしくらい出来た人間でないと相手できない? つまり僕は彼女につきあってもらっているということか? 僕は彼女の憐れみにすがっているだけだということなのか? 僕はちょうど信号待ちで停車したところで、助手席の彼女に向かって言った。 そのときの僕の顔は、「鉄道員(ぽっぽや)」で最後の電車を見送る高倉健よりもシリアスでシュールな表情だっただろう。 言わなくてはならない。 僕「そうでちゅー、僕は○○○(彼女の名前)じゃないとダメなんでちゅ。ね、チューしよ?」 やっぱり僕は頭悪いですか? 戦国時代を生き抜いた、例えば伊達政宗、上杉謙信のようになりたいとどんなに願っても、僕は、広間で侍女の帯をクルクルほどいてアレーと言わせているバカ殿様くらいにしかなれそうになかった。 (イメージ画像) |