嫁ぎゆく最愛の娘へ



我が最愛の娘よ。パパは今はちょっと複雑な気持ちだ。おまえが生まれてから、もう24年間もたってるなんて信じられないよ。ついこのあいだまでリカちゃん人形で遊んでたかとおもうと、もう結婚だなんて。

うれしいやら悲しいやら。信じられないっていうのが本音かな。24年間なんてあっというまなんだね。覚えてるかな。むかしは「パパのおよめさんになるぅ」なんてうれしいことを言ってくれたんだよ。でもとにかく、気持ちの優しい、いいコに育ってくれて本当にありがとう。今日は心から祝福するよ。

誠一郎君はとてもいい青年だ。名門の麻布中学・高校から東大法学部を出て、現在は外資系の銀行に勤めているし、勤務2年目でアメリカに渡ってスタンフォード大学でMBAを取得してきているなんて、普通の人にはできないよ。彼はとても勤勉だね。

だからあの若さで年収も1000万円を超えるんだろうね。人間、努力するっていうことはとても大事なことなんだ。

それでも彼の素晴らしいのは、そういった学歴を一切口にしないことなんだ。パパもね、彼がそんなすごい人間だって知ったのは、ずいぶんと後になってからだったんだ。普段は本当に明るくて活発そうなひとだから。

勉強ばっかりやってた人によくあるような、暗い部分とか、ヘンなコンプレックスとかそういうのが一切ない、とてもいい好青年だね。背も高いし、痩せてるし。

食べても太らない体質っていうのは、パパにはちょっとうらやましいかな。いつもおまえには食べ過ぎを注意されてたからね。でもこれからはそうやって注意してくれるおまえがいなくなるのはさみしいな。

誠一郎君は、大学時代には体育会系サッカー部キャプテンだったらしいね。ミッドフィルダーっていうのかい? パパはよくサッカーのことはわからないけども、スポーツに長けているというのもいいことだね。インターカレッジでは国立大学で唯一ベストイレブンに選ばれたっていうじゃないか。いや〜、すごいねえ。

だって、私立にはサッカー推薦で入学してくる学生も多くいるというのに、彼は国立大学だからそういったことはなかったわけだろ。彼には資質もあったのだろうけど、やはり努力をしていたんだと思う。努力できるひとっていうのは、尊敬しなくちゃいけないよ。

誠一郎君は、大学のころはアルバイトで雑誌のモデルにもなってたみたいだね。パパはそういうのは苦手でよくわからないんだが、話に聞くと、彼は自分の学費は自分で払ってたみたいだね。

たしか彼の両親は、財閥系の役員を勤めていらっしゃったはずだから、おカネには苦労してなかったはずなんだけど、多分、自分がだらけてしまわないようにそういったことを自分に課していたんだろうね。つくづく頭が下がる思いだよ。彼はとてもリッパな青年だ。

このあいだ、本屋さんに行ったらね、彼が書いた本が売っていたから、買ってきて読んだよ。あまりに面白くて、一晩で読んでしまった。気がついたら朝だった。しかし彼はほんとにすごい青年だ。趣味で一冊の本を書いて、それがベストセラーになるなんて。

彼の観察眼、洞察力、文章力はプロ顔負けだよ。彼は法学部出身なんだけど、この本は、医学分野についても深く研究されていることがよくわかるよ。誠一郎君は、片手間でこういったことも勉強しているんだねぇ。

いろいろと長く書いてしまったね。とにかく、明日はおまえの晴れの結婚式だ。パパは遅刻しないように早めに寝るとするよ。おまえの幸せそうな今後の生活のことでも夢にでも見るとしよう。

ところで、おまえにひとつだけ質問してもいいかな。

なんでおまえはコースケなんていうクズみたいな野郎と結婚するんだい?

P.S. 先日、彼が駅で痴漢してつかまったのを見たよ。相手は小学生だったかな。 



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