星になったキミへ


とうとう天国に行っちゃったね。空を見上げるたびに、オリオン座が好きだったキミのことを思い出すよ。キミはどの星になっちゃったのかな。多分、どの星よりもキレイで、キラキラと輝いてると思う。今は、満天の星のしたでこれを書いてる。書いてるうちに字が涙でにじんじゃったら、ごめんね。

実をいうと今でも手が震えて、なさけないことに、まともに字がかけないんだ。ちょっとでも気がゆるんだら、涙腺もゆるんで、涙が流れ出てきそうだ。

キミに出会ったのは、去年の夏だったっけ。白い砂浜と青い海。そしてぎらぎらと照りつける太陽がまぶしいグァムの海岸だった。ボクは会社の慰安旅行だったけど、キミたちは高校の卒業旅行だったんだよね。

黄金色に日焼けしたキミの肌がまぶしかった。ボクが会社連中との観光を抜け出して一人で日向ぼっこしてたところにキミたちのビーチボールが転がってきたのは、偶然だったのかな。それとも、神様のいたずら?

ボクは、その瞬間にキミに心を奪われてしまったのかもしれない。キミはハートの大泥棒だよ。怪盗ルパンも真っ青さ。キミはそんなボクの心を見透かしたように、いつもいたずらっぽい笑いを浮かべて、ボクを見てたよね。

ボクはチビでデブで若ハゲだ。初めは、なんでキミみたいな明るいコが話しかけてくるのか、不思議でたまらなかった。でも、「人間は、外見じゃない」っていうキミの言葉はそんなボクの疑いを打ち消してくれた。ボクも、へんな疑いをもった自分がちょっと恥ずかしくなった。でも、なんでそのあとボクの年収を聞いてきたの?

そうそう。キミが欲しがってたから、その次の日には免税店に行って、ヴィトンとかプラダのバッグとか財布を買いに行ったんだっけ。いつも大事に使ってくれてたよね。

とても大事にしてくれて、「ううん、外にはもったいなくて持ち出せないの」って、家に保管してくれてたんだよね。キミの友達が似たようなバッグを持ってたのは偶然だよね。

あのときは、言わなかったけど、カードの決算がちょっと大変だったんだ。だって、一度に30万円も使っちゃったからさ。でもパパに言っておこづかいもらったからなんとかなったけど。びっくりされちゃったよ。

あれはキミの誕生日の日だったっけ。忙しいのに、時間とらせちゃって、ごめんね。でも昼間だけでも会ってくれてうれしかった。夜は、なんだったっけ? そうそう、バイトが入ったっていってたっけ。

いつも忙しいんだよね。携帯もいつも留守になってるし。そんな忙しいのに、ランチつきあってくれてありがとね。ボクが持っていったプレゼントのブルガリの時計、喜んでくれてうれしかった。ボクはその笑顔が見たかったんだ。なんてね。

クリスマスの日にも、キミはたしかバイトしてたんだっけ。「朝しか会えないの、ごめんね」って言われて、その日は会社を休んで朝の9時に迎えに行ったんだっけ。朝9時から11時までの二人だけのクリスマスデート。ボク、これまでクリスマスに女のコと二人っきりでいることなんてなかったから、朝から浮かれちゃって。

たしかそのときはロクな会話ができなかった。ごめんね。あんまりデートって馴れてないんだ、ボク。小学校の時もなかったし、中学校のときも塾に行ってたし、高校のときはクラス仲間のクリスマスパーティにも一人だけ呼ばれなかったんだ。大学に入ってからはパパの会社関係のクリスマスパーティに出席しなくちゃいけなかったし。

だからこの30年間でキミが初めてのクリスマスデートのパートナーだったんだ。記念すべき第1号。
そのときのボクのプレゼント、奮発したんだゾ。キミが友達と行きたがってたアメリカ旅行のチケット。10日間分のホテルとか食事とか全部込みで80万円。これだけのお金はちょっとボクのポケットからは出ないから、会社の会計をちょっとごまかしちゃったんだ。ここだけの話だけどね。特別背任横領罪? そんなの気にするな(笑)。

キミがアメリカから帰ってきてしばらくしてからだったっけ。珍しく、っていうか、初めてキミがボクをデートに誘ってくれたんだよね。そして、そしてその日が初めてボクとキミが結ばれた日だった。ついでに言うなら、初めてボクがソープ以外の女の人とHをした日だった(笑)。そのときのことは鮮明に覚えてるよ。

一緒にシャワー浴びてるとき、キミはていねいにボクの体を洗ってくれたんだよね。その洗い方がとてもていねいで、ていねいで。でも、キミが不意に言った、「お客さん、こういうとこ初めて?」っていうセリフはどういう意味だったんだろう。キミはそのあとすぐに打ち消してたけど。それから、タクシー代で10万円って、どこまで帰ったの? キミの家って仙台とかそっちの方?

それから数日後のことだった。キミが入院したっていうのを聞いたのは。ボクは心配で心配で、毎日見舞いに行ったんだ。キミは、見る影もなく、可哀相なくらいやせ細って、黄金色の肌もつやを失っていったんだ。ボクはキミのことが好きだったから、とてもやるせない気持ちで、切なくて。でもその思いをどこに向けたらいいのかわからなくて。

キミが入院してから2ヶ月くらいたった日のこと。ボクが見舞いに病室に入ったら、そこにはお医者さんと看護婦さんがいて、キミのお母さんとポツリポツリと話をしていた。意識不明。その言葉だけがボクの耳に入った。正直、信じられない気持ちだった。信じたら何かが崩壊してしまいそうで。

ボクは、キミの手をとって、キミの寝顔を見ていた。そっか、キミはもうすぐ天国に行くんだね。ボクにはそれがなんとなくわかった気がした。そして、ボクがそこに、そのときにいたのは運命だったのかもしれない。意識不明のはずのキミの口から、一言だけ、

「ありがとう、コースケ…

そのあと、キミの鼓動は、永久に止まってしまったんだ。

もしキミがボクの目の前に現われてくれたら、聞きたいことがひとつあるんだ。

コースケってどこの誰やねん! 

キミの愛を信じてるよ。

p.s. ボクの命もあと3ヶ月ほどだそうだ。キミからもらったエイズが原因らしい




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