僕が好きだったキミへ
〜手紙、届いたよ〜







今、僕の手許には一通の手紙がある。

まだ、開封はされていない。

僕にはこれを開けて読む勇気はないし、資格もない。

僕はただ、僕の名前が書かれた封筒の表と、キミの名前が書かれた裏を眺めるだけなんだ。

*****

数年前。

僕とキミは本気でつきあったよね。

確かに僕はキミが好きだったし、キミも僕のことが好きだったんだと思う。

ずっと一緒にいたいね、って言ったのは本気の言葉だったんだ。

でも。

キミは留学を選んで僕をおいて日本を離れていった。

僕は、僕とキミの距離が物理的にどんなに離れてても心は一緒だと思ったし、数年間の留学くらいで気持ちが離れるなんて全然思わなかったから、キミの長年の夢だった留学が実現して、僕もうれしかった。

キミが留学に出発する一週間前、ささやかだけどお祝いしたよね。

僕が好きだったチーズケーキと、キミが好きだった大福餅で。

そのとき僕はまだイギリス留学の話も本格化してなかったし、学部を卒業したら就職しようと思ってたんだ。

だからキミが留学から帰国するくらいには僕が立派に社会人になって、それこそ結婚できるくらいにはなってるかな〜、なんて思ってたりした。

キミと結婚して、白い家に住んで、子供は二人。

あ、ここ、笑うところじゃないし。

そんなことを本気で考えるくらいには、僕はキミが好きだった。

それでも、会わないとダメなのかもね。

僕は一生懸命手紙を書いたよ。

毎日便箋3枚くらいの手紙を書いて、投函した。

土日は配達がないから、月曜日に一度に3通の手紙がくるって、キミは笑いながら電話で話してくれたね。

やっぱり日本人が外国で勉強するのは大変だからって、そのうち楽しみにしてたキミからの手紙も回数が減って・・・。

僕は休みを利用して遊びにいって。

耐えられなかったんだ。

ほんとにキミが好きだったから。

その外国の地でキミを見たとき、僕はそこまでかかった時間と飛行機のチケット代を思い描いたよ。

日本からの往復チケット15万円。時間にして乗り換え時間も含めて約24時間。

医学的に考えたらきっと環境が変わったことに対するストレスとか、勉強にかかる精神的負担とか、そういう説明になるんだと思う。

僕だってイギリスにいったときは毎日毎日忙しくて食事さえ美味ければ僕も太ってたかもしれない。

でも、なんでそんなに太ったの?

脚なんてまるでボンレスハムじゃん。

中島啓子もビックリだ。

ブラジャーがCからEになったっていってたけど、腹回りもかなりのもんだよ。

そんな姿を僕に見せて・・・、なんかウラミでもあんのか? コラ。

やっぱり、真実は常に哀しみの向こう側にしかないのかな。

僕がそのときにキミと何回かデートしたけど、Hしなかったのはそのせいなんだ。

ここだけの話だけどね。

長旅で疲れた、っていうのはちょっとウソだったんだ。

ごめんね。

*****

そして、僕は今、留学から帰国したキミからの手紙を開封する。

この封筒には僕の心のなかに封印された数年前の思い出が詰まってるといってもいいのかもしれない。

胸のなかを、懐かしさと当時のキミの雰囲気が駆け抜ける。

ゆっくりとペーパーナイフを入れる。

まるで封印していた自分の過去を自ら解放するかのように。

そう。僕はこの想い出は一生封印しておこうと思ったのだ。

だって、その国に遊びに行ってから、僕はショックでキミに手紙を出せなかったから。

電話もしなかった。

ただ、キミが帰国して元通りになることだけを祈っていた。

開封して中をのぞくと、一枚の便箋と、一枚の写真。

写真のウラ側が先に見えた。

『正月。振袖着ました。ちょっとヤセました』

高鳴る胸を抑えて写真を表に向けた。

これで元通りのキミに戻ってるんなら、僕とキミもまたやり直せるかな。

そしたらまた一緒に映画観に行って、おいしいもの食べて、デートしよう。

・・・・・。

依然として森公美子状態!

これでヤセた?

彼女、ピーク時にはいったいどれだけあったというのだろうか。


 
教訓「留学したらデブになるのか」



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