カナエさんへの手紙





久しぶりです。元気にしていましたか?

なんか突然こんな手紙出しちゃってごめんなさい。

でも、きっとあなたなら笑って許してくれると思って書くことにしました。

いえ、たまたま今日があなたの誕生日だったことを思い出して、つい昔の写真をひっくり返してみてしまったんです。

あのときは僕はまだ高校卒業したてであなたからみたらほんとに子供だったかもしれないけど、いまはもう、とりあえずそれなりに成長したつもりです。

今の僕をみたらきっとびっくりすることでしょう。

京都の哲学の道が満開だった四月のことでしたよね。

僕は大学生活が始まったばかりで、一人暮しも授業も京都の街すらも初めてで、すべてが驚きの連続だった時期でした。

あなたに出会ったのはそんなときだったんです。

二つ年上のあなたと出会ったのはサークルの勧誘と、そして新歓コンパでしたね。

あなたに声をかけられたときから、実はあなたにあこがれを抱いてたんです。今まで秘密にしてましたけど。

偶然を装って密かに聞いたバイト先に行ったのも、あれはわざとだったんです。

いま謝っても遅いのかな。

僕はあなたの笑顔が好きでした。

あなたの僕を叱る声が好きでした。

あなたの考え込む顔も好きでした。

たった3ヶ月しかつきあうことはなかったけど、あなたは僕に大学で勉強する意味を教えてくれた。

あなたは引っ越してきたばかりの僕に京都の街のことを教えてくれた。

あなたはあきらめやすい性格だった僕にがんばることを教えてくれた。

あなたは一人暮しの僕にお金を節約する大切さを教えてくれた。

あなたはいろんなことを教えてくれた。

そしてあなたは恋愛に臆病だった僕に人を好きになることの素晴らしさを教えてくれた。

覚えていますか? こんなことがあったんですよ?

ある日、僕は新しい生活の連続で季節はずれの風邪をひいて寝こんだことがあったの、覚えてますか?

あのとき、カナエさん、一晩中僕の手を握って看病してくれたんですよね。

僕には姉はいることはいるけど「優しい」姉はいないので、ほんとにうれしかったんです。

終バスで帰るから、とかいって、僕が寝ちゃった後もそのまんま床に座ったまま寝ちゃってたんですよね。

眠いはずなのに朝食も作ってくれて。

ほんとにうれしかった。

でも、そういう付き合い方も、カナエさんにはキツイ関係だったんですよね。

僕は、初めっからカナエさんが片思いしてつらい気持ちでいるっていうの知ってて、その相談に乗ってるっていう卑怯なやり方で近づいたんですもんね。

確かに恋愛はなんでも許されるはずだけど、気のすすまない戦法もあるってことなのかもしれません。

カナエさんの弱い気持ちにつけこんだこと、謝ります。

最初からそういう始まりだったから、だから3ヶ月だったのかもしれませんね。

後悔なんかしてないですけど。

あなたは何でも知っていて、僕にいろんなことを教えてくれたから。

人生で大切なことのかなりの部分を、あなたに教えてもらいました。

それで今の僕があるんです。

もし今の僕を見て立派になった、なんて思うようなことがあってもそれは全部あなたのおかげです。

最後に、僕からひとつ、あなたに教えてあげたいことがあるんです。

人生を教えてくれたあなたへの、・・・ささやかなお返しかな?

あなたは大切な人だから。

ウンコしたらあとの人のために、ちゃんと流そうよ。ね?

 
教訓「人生よりも大切なこと、それは・・・」




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