ふられた男の苦悩

そうして、キスのあと、何日か電話を繰り返すことになった。

が、そのうち、様子がおかしくなった。

塾でもないのに夜の10時に家にいなかったり、

会話自体に興味がなくなったようになったり、

たまに面白い話題になったかと思ったら、

それは原チャリを盗む話だったり、

どうも違う世界の話のようだ。

 

彼女にはヤンキーの血が入っていたらしい。

 

その彼女に、おれとはまた別の男の話がある、

ということを聞いたのは、ほんの偶然からだった。

おれと正式に付き合ったわけでもなければ、

おれからそのコに好きだといったわけでもないから、

それこそ舌を入れたのはほんの酔狂といわれたら、

おれは単に遊ばれた男ということで済んでしまう。

 

ある日、例の3人のグループのうちの一人と某私鉄駅で偶然会ったのである。

まあ、その駅はT蔭の使ってる駅だし、

おれは日能研のバイトで降りたわけだし、

別にそこで見かけてもなんの不思議もないんだけど。

 

そこで、挨拶をして、ちらっと立ち話をしたのだ。

あのコと上手くいってるの?

…いや、どうかな。

・・・やっぱりねー。やめといたほうがいいよ。

なんで?

よくないよ、あのコ。

そうなの?

今、地元のヤンキーとなんかいい話があるらしいよ。

 

一緒に行動した友達にもそんなことを言われるなんて、

評価が悪いんだな、と思った。

 

そういうことだったらしい。

たしかに思い当たる節は多いにあった。

でもだからといって、あきらめるには、ちょっとまだ、

否定要素が少ないような気がしたのだ。

結局、数日後の電話でかなり強引に学校帰りの

約束を取りつけた。

たまP駅、18:00。

しかし現れたのは18:30で、おれの知らない女のコを連れて、だった。

そんなおまけがついてるというのは、

おれになにもさせないつもりなんだろう、と思われた。

たしかに突っ込んだ話なんて全然できなかったんだけどさ。

そこらへんは思う壺にされた気がする。(参照:ZEROの法則)

 

デパートの3階かなんかの喫茶店で

1対2でしゃべったんだけど、おれのペースにできるはずもなかった。

そんで、ついでにつまらないものも見つけてしまった。

根性焼きと根性彫り。

根性焼きは知ってると思うが、根性彫りというのは、

カッターと鉛筆をもって自分でする刺青みたいなものだ。

薄く皮膚にキズをつけて、鉛筆でなぞると

そこに黒い跡が残る。左の内ヒジあたりに、

“I LOVE YUYA”

おれのなまえはユウヤではない。

加えて言うなら、好きだからといってそういう彫り物をする文化もおれにはない。

 
つまり、完全におれとは違う世界の人間なんだということに気がついたのだ。

ふられたわけではないし、好きだといって断られたのでもない。

それ以前の前提で、拒否されたようなものだ。

いずれにしても、これ以上仲良くなるのは不可能なように思えたから、

その日は結構ショックだった。

当時は、まだ大人じゃなかったから、

「かといって自分もヤンキーになるわけにはいかないだろう」

「向こうがこっちの世界にくる可能性だってないんだろう」

というような論理的思考もできなかった。

だからなんとも納得しきれない思いで一杯だった。

 

そういう中途半端な精神状態だったから、

思わずまた電話をしてしまったのである。

何かを話したかったわけでもないし、したところでどうなるものでもなかったのだが。

一人で解決できなかった以上、当事者に連絡をしてみたくなるのは確かに道理だ。

でも、それは失敗だったらしい。

引き際を過ったのだ。

多分、向こうも、向こうで駆け引きに忙しい時期だったのかも知れない。

そんなときに、彼女のなかですでに終わった話(=おれ)なんて、

時間の無駄以外の何物でもなかったはずだ。

 

そういうわけで、最後は、まだしこりが残っているにも関わらず、

相手の気分を害して終わったということだ。

そして、こっちがまだあきらめきれてないことを相手に悟られてしまったということでもある。

おれと彼女の男と女としてのお話はここまで。

でもその最後のあがきが後日の笑えるエピソードを生んだのだ。

 

後日・・・。

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