昨日のことだ。 僕はちょっと頼まれていたことがあったので元のバイト先、ホストクラブへ行った。 すべてがそのままの懐かしい仕事場。 僕と同年代の一人の同僚がいた。 W。 彼とは非常に感性が似ていた。 僕「今のお客さん、見た?上半身はスマートなのに、足が異常に太かった・・・」 W「何言ってるんだ?あれは究極の二人羽織だ」 僕「(笑)」 あるいは、 僕「今のお客さん、見た?なんていうのか・・・、上手い表現の仕方がわからないんだが、ウマ(笑)?サラブレッド?」 W「いやむしろ農耕馬だろう(笑)」 女のコを見る目も一致していた。 ヒマな時間があるときにヤングジャンプのグラビアクィーン特集などを一緒に見ていると必ず好みのコは一致した。 W「マジ?おれと一緒じゃん。オマエこっちのコにしろよ」 僕「おまえこそ」 不毛な会話だ。 そんなW。 ***** W「久しぶり。元気?」 僕「最近はほとんどウチか図書館で本読んでるよ」 W「そっか・・・。まあ勉強がんばってくれ。ところでさ、・・・」 Wにはとうとう念願の彼女ができたらしい。 僕「マジっすか?これまでオンナ関係といえば風俗しか行ってなかったのに!」 彼は給料が入ると必ず一人で雄琴へ行っていた。 W「まあ見てくれ」 彼は僕にプリクラや写真を見せてくれた。 そこにはかつて僕と意見が一致したWの姿はなかった。 丸大ハムのキャンギャルのような。 酒樽のキャンギャルのような。 養豚場のイメージガールのような。 容積の申し子のような。 僕「み、水に浮く・・・?」 W「?」 古くから言われている言葉というのは長年培われてきた生活の姿、一般的に起こりうるであろう出来事の表象などが含まれている。 その真実に近いであろう言葉の一つに、恋は盲目、というのがある。 恋はモウモク。 僕「モウドクに侵されてしまったのですか?」 Wの目は猛毒に侵されていた。 W「かわいいんだって!。多少写真映りは悪いかもしれないけど」 例え準備したカメラが普通のカメラでも、例えシャッターを押す瞬間までは普通のカメラでも、 きっと分泌される猛毒にヤられてしまうのだろう。 僕「絶対に毒だしてるよ、これ」 W「相変わらず言ってることがわからないヤツだな」 僕「悪いことは言わない。昔のオマエに戻ってくれ。そんでヤングジャンプのグラビアの奪い合いしよう!」 W「結婚しようかとも思ってる」 僕「生まれてくるコの頭にはきっと“666”ってアザがあるぞ」 W「おれは悪魔か?」 オマエじゃない。 僕「ところでどこで出会ったの?」 基本的にプライベートな出会いというのはこういうところの人間にはない。 W「お客さんの紹介。」 彼の手帳のプリクラをチェックしていくと、最後に一枚だけ一人で映っている女のコのものがあった。 僕「誰?このかわいいコ?」 W「それくれたんだよ、そのお客さんが。紹介してあげるからって」 僕「そんでついていったのか?」 明らかに別人だろう。 W「予定のコじゃなかったけど。いいんだ。予想以上だったし」 僕「確かにある意味予想以上だ。しかも斜め上いってるし」 W「・・・?」 僕「まあ幸せにやってくれ。結婚しても尻には敷かれるなよ。死んじゃうから」 W「・・・?」 僕「圧死には気をつけることだ。」 僕はそのあとメニューその他の変更点を聞きに常務のところへいった。 この店の印刷業務担当なので。 しかしWよ。 シンデレラは魔法が解けても事態はいい方向に進展したが、魔法が解けたら事態が悪化するということもあるんだぞ? |