Wの喜劇






昨日のことだ。

僕はちょっと頼まれていたことがあったので元のバイト先、ホストクラブへ行った。

すべてがそのままの懐かしい仕事場。

僕と同年代の一人の同僚がいた。

W。

彼とは非常に感性が似ていた。

「今のお客さん、見た?上半身はスマートなのに、足が異常に太かった・・・」

「何言ってるんだ?あれは究極の二人羽織だ

「(笑)」

あるいは、

「今のお客さん、見た?なんていうのか・・・、上手い表現の仕方がわからないんだが、ウマ(笑)?サラブレッド?」

いやむしろ農耕馬だろう(笑)

女のコを見る目も一致していた。

ヒマな時間があるときにヤングジャンプのグラビアクィーン特集などを一緒に見ていると必ず好みのコは一致した。

「マジ?おれと一緒じゃん。オマエこっちのコにしろよ」

「おまえこそ」

不毛な会話だ。

そんなW。

*****

「久しぶり。元気?」

「最近はほとんどウチか図書館で本読んでるよ」

「そっか・・・。まあ勉強がんばってくれ。ところでさ、・・・」

Wにはとうとう念願の彼女ができたらしい。

「マジっすか?これまでオンナ関係といえば風俗しか行ってなかったのに!」

彼は給料が入ると必ず一人で雄琴へ行っていた。

「まあ見てくれ」

彼は僕にプリクラや写真を見せてくれた。

そこにはかつて僕と意見が一致したWの姿はなかった。

丸大ハムのキャンギャルのような。

酒樽のキャンギャルのような。

養豚場のイメージガールのような。

容積の申し子のような。

み、水に浮く・・・?

「?」

古くから言われている言葉というのは長年培われてきた生活の姿、一般的に起こりうるであろう出来事の表象などが含まれている。

その真実に近いであろう言葉の一つに、恋は盲目、というのがある。

恋はモウモク。

モウドクに侵されてしまったのですか?

Wの目は猛毒に侵されていた。

「かわいいんだって!。多少写真映りは悪いかもしれないけど」

例え準備したカメラが普通のカメラでも、例えシャッターを押す瞬間までは普通のカメラでも、

きっと分泌される猛毒にヤられてしまうのだろう。

「絶対に毒だしてるよ、これ」

「相変わらず言ってることがわからないヤツだな」

「悪いことは言わない。昔のオマエに戻ってくれ。そんでヤングジャンプのグラビアの奪い合いしよう!」

「結婚しようかとも思ってる」

生まれてくるコの頭にはきっと“666”ってアザがあるぞ

「おれは悪魔か?」

オマエじゃない。

「ところでどこで出会ったの?」

基本的にプライベートな出会いというのはこういうところの人間にはない。

「お客さんの紹介。」

彼の手帳のプリクラをチェックしていくと、最後に一枚だけ一人で映っている女のコのものがあった。

「誰?このかわいいコ?」

「それくれたんだよ、そのお客さんが。紹介してあげるからって」

「そんでついていったのか?」

明らかに別人だろう。

「予定のコじゃなかったけど。いいんだ。予想以上だったし」

「確かにある意味予想以上だ。しかも斜め上いってるし」

「・・・?」

「まあ幸せにやってくれ。結婚しても尻には敷かれるなよ。死んじゃうから

「・・・?」

「圧死には気をつけることだ。」

僕はそのあとメニューその他の変更点を聞きに常務のところへいった。

この店の印刷業務担当なので。

しかしWよ。

シンデレラは魔法が解けても事態はいい方向に進展したが、魔法が解けたら事態が悪化するということもあるんだぞ?





教訓「たで喰う虫も好き好き」




 
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