僕は子供が・・・



 

塾講師をしていた。

僕は子供が大好きだ。

まだ世間のしがらみに心を汚されていない、澄んだ瞳の子供たち。

彼ら彼女らには明るい未来が待っている。

きっとこの中には将来総理大臣になったり、宇宙飛行士になったり、世界的な科学者になる子供もいるのかもしれない。

僕は思う。

彼ら彼女らの大切な未来に多少でも、役に立ちたい、と。

子供たちの明るい笑い声や澄んだ瞳を見ていると、現在の日本の暗い世相も不安ではなくなってくるのだ。

僕は、子供たちが好きなんだ。


*****

その日は夏季講習で特別に小学4年生の授業を担当していた。

いつもの通り、授業開始5分前の始業ベルが鳴る。

僕ははしゃぎまわって騒々しいクラスに入って、静かにさせようと努力をする。

この学年の生徒たちは、遊ぶのが普通なのだ。

そういうものなのだ。

こちらも微笑ましく対応しなくてはいけない。

僕: 「ハイハイ、みんな、席に座って授業の___」

準備をしてー、と言おうとした瞬間だった。

脳ミソを直撃する痛みが脊椎を駆け上って僕を襲った。

薄れゆく視界の中で、股間から垣間見える上履きの爪先が見えた。

生徒の誰かが背後からキンケリをした・・・?

カラダを引き裂く、というよりもココロを引き裂くような痛みが中枢神経を駆け巡ってオーバーヒートしている。

小さい頃に死んだおばあちゃん・・・。

川の向こうで手を振ってるよ

一瞬股間のあたりに見えた上履きのつま先は、次の瞬間に引き戻されていた。

背後からはキャッ、キャ、というはしゃぎ声が遠ざかっていくのがわかった。

逃げるつもりだろう。





このクソガキ、ブチ殺す





僕: 「こら、待ちなさ___」

い、と言おうとして振り向いたとき、脚を閉じたのがいけなかった。

二段階目の痛みが再びキンタマから脳ミソへ駆け上がっていった。

僕: 「ふううう、ふうううう」

とりあえずタマが二つあることを確認してみた。

あった、よかった。

逃げたのはどうやらクラスでもうるさいタイプの女子だった。

冷静を装いながら追いかけると、あろうことか彼女らは「女子トイレ」へと逃げ込んだのだった。

そこが安全地帯なのは今も昔も変わらないということなのか。

僕: 「こら、出てきなさい」

女子トイレは別の学年の生徒(中学生)も使用している。

犯人たちが中でこちらの様子をうかがいながら笑っているのはわかるのだが、僕には踏み込むことはできない。

いや、このままでもコカンをもみながら女子トイレの前でうろうろしていたらこちらがつかまってしまう。

と、同じバイトの女子大生の先生に声をかけられた。

女の先生: 「あら、●先生どうしたんですか?」

僕: 「いえ、授業が始まるってのに遊んでる生徒がいて・・・」

キンタマ蹴られて犯人ブチ殺すところなんです、とは言えない。

怪訝な顔をしながら女の先生は別のクラスへ入っていった。

確かに僕が小学生の頃も、「電気あんま」がクラスに感染していたこともあった。

あまり性差の意識がない当時は、男子女子問わずそうやって遊んでいたものだった。

しかしクリティカルヒットは、暗黙のうちにタブーだったはずだ。


死んじゃうから




とりあえず僕はクラスに戻った。

授業は始めなくてはならない。

しばらくして犯人である彼女たちも僕から逃げるようにしてクラスに入ってきた。

僕: 「あれ?A君とB君はどうした?早退か?」

ふとクラスの外をのぞいてみると、階段あたりで二人とも股間を押さえてうずくまっていた。





よだれを垂れ流しながら声もあげずに目は死んでいた。



犯人は悪魔の笑みを浮かべて僕を見ていた。







僕が子供嫌いになったのはその時からである。




教訓「子供は手に負えない」





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