体育会系クラブの新入生歓迎会



 


ひどい頭痛だった。

僕はそのとき、朦朧とする意識を強引に現実に引き戻し、自分の姿を確認した。

幸い、服は着ていた。

僕が大学に入学し、とある体育会系のクラブに入部してしばらくたったときのこと。

正式入部を済ませた僕らは、ちやほやされる対象から、奴隷以下の存在へと一気に転落する。

この新入生歓迎コンパ、通称、新歓コンパはまさにソレだ。

周囲には異様な臭いがたち込めていた。

隣で、同じ一年生のM君は寝ながらゲロを吐いていたらしい。

顔じゅうにカピカピになった嘔吐物がはりついている。

タタミの上にこぼれたM君のゲロの上で、同じく一年生のK君が寝ていた。

その向こうにはN君が仰向けで倒れていた。寝ゲロを吐いていた。

スッパダカであった。

そして。

朝勃ちしていた。

僕: 「・・・。」

地獄絵図とはまさにこのことであろう。

昨晩のことが思い出されるにつれ、吐き気と罪悪感がもよおしてくる。

*****

その新歓コンパで用意されたお酒は、ビールすら用意されていない。

あるのは「鬼ごろし」、「RED」、「CUSTOM」といった、1リットルあたり1000円くらいのお酒だ。

工業用アルコールの臭いがぷんぷんとする。

毒以外の何物でもない。

大部屋の各所に先輩が座り、すでに自分のペースでお酒を飲んでいる。

そして、すべての先輩の前で説教を受けながら杯を空けていくのだ。

こんなカンジだ。

先輩: 「まず名前と学部、そしてこれからの抱負を聞かせてもらおうか」

新入生: 「はい。●●●といいます。経済学部です。これからは・・・」

先輩: 「つまらん!飲め!!」

ここで鬼ごろしがなみなみと注がれるのだ。

先輩: 「それじゃもう一回いこうか。名前と学部と抱負は?」

新入生: 「うぇっぷ。えと、名前は、、、」

先輩: 「ダメだ、もう一杯だ!」

まだ言ってません!

このように極めて理不尽な状況が先輩の数だけ繰り返されるのだ。

ママ、世間って厳しいんだね。

当然、ラウンドも後半になると飲ませるほうも飲まされるほうも酔いのおかげでテンションは上がらざるを得ない。

そのおかげで会話がかみ合うこともない。

先輩: 「よ〜し、それじゃ自己アピールしろ」

N君: 「私は他の人よりもキレイなケツの穴をしていると思います」

N君は確かこのセリフのあとで全裸になったようだった。

気が付くと先輩はとりあげた彼のブリーフをM君のあたまにかぶせていた。

天下の国立大学でイジメがあるなんて、知らなかったよ。

しかもその方法は、上履きを隠すなんてことよりもはるかにタチが悪い。

僕も他人のことを気にかけている余裕はほとんどなく、ストックしていたネタのほとんどを使い果たし、ギリギリの戦いをしていた。

理性は薄れかけていたが、それでも「シモネタと身を切るギャグだけは使うまい」と心に決めていた。

僕の隣では、

N君: 「手品やります。イチゴポッキーを普通のチョコポッキーに変えます!

と言って、イチゴポッキーを肛門に挿し込んでいたのだ。

人類はほ乳動物の中の霊長類に分類される生物である。その霊長類が出現したのは今から約6500万年前、恐竜が絶滅する少し前といわれている。

2500万年前から700万年前の、類人猿に良く似た動物はアフリカやユーラシア大陸で広範囲に渡り分布していた。木の上で生活し、木の実などを食べて暮らしていた。

やがて2500万年前くらいになると木から降りて生活するようになった。

500万年前、人類と類人猿がわかれた。つまり、この頃から人類は他の動物とは異なった、独自の進化を遂げはじめたのである。

人類は進化するにつれ、多種多様な道具を使うようになり、脳の容量も増えていった。

そして社会的な生活はその脳に理性とか倫理とか常識といったものを育成させていったのである。

生物学的にはこの人類の進化は、まさに神さまの存在を信じるに足る、奇跡の過程といっていい。

オマエ人類の進化を何だと思ってる?

その後、僕の記憶もあいまいになった。

気が付くと朝であり、幸運にも服の乱れはなく、吐いた形跡もない。

とりあえずトイレへ行った。

そこで気がついた。

ジーンズの下にトランクスを穿いていなかった。

僕は一体どんな手品を使ったんだろう・・・。





教訓「やはり世の中には忘れたほうがいいこともある」





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