塾講師をしていた。 小学6年生、受験コースの国語だ。 塾講師をする上で必要なのは、生徒たちからの信頼を得ることだ。 高校生にもなれば、生徒たちは講師の持つその「スキル」でマジメに聞く授業とそうでない授業を選ぶが、小学生は講師を選ぶ基準が違う。 単純に、気に入るか、気に入らないかで授業態度を変えてしまうのだ。 そのためにも講師は、生徒たちのハートをつかむように努力しなければならない。 そしてそのためには生徒たちと同じ目線で会話することが大切なのだ。 生徒たちが本音の部分で何を考えているか、何を感じているか、それを理解することに努めなければならない。 塾には講師室がある。 普段、ここには生徒たちは入れないことになっているのだが、生徒たちはここにたむろするのが好きらしく、集まってくることが多い。 ***** 小学6年生の女子3人。 僕が採点をしている横でしゃべっていた。 女子A: 「最近のオトコって何考えてんだかわかれへんわ〜。オトコはやっぱり年上に限るわな〜」 女子B: 「甲くんと上手くいってへんの?」 女子C: 「キスしたっていってへんかった?」 小学6年生でキス・・・? いや、きっとホッペにチュ、くらいだろう。 女子B: 「え?キスしたん?舌は?」 女子A: 「もちろん入れたよ」 入れたのかよ 僕が小学校のときは、手をつなぐどころか、仲良くしゃべっているだけで周りから冷やかされたものだ。 しかし僕は淡々と、無表情なまま採点を続ける。 女子A: 「でもなー、なんかモズクの味がした(笑)。酢の物が好きやねん、そいつ」 女子B: 「サイテー(笑)」 女子C: 「酢の物って、ジジィかいってカンジやな(笑)」 健康にいいんだよ! 女子B: 「でもアタシも乙くんと舌入れたい〜(笑)」 そういえば、女子Bは同じクラスの乙君とは仲が良いらしく、ノートの貸し借りをしているところを見たことがある。 乙君は、パっと見が冴えない男子で、身長130センチ体重60キロという巨漢だ。 密かに見た彼の個人データには、備考欄に、「高血圧、高コレステロール、糖尿病気味」とあった。 12歳にしてすでに3大成人病を罹患しているのだから、ある意味で大物には違いない。 女子Bは「舌を入れたい」と言っているのだからすでに普通のキスはしているのだろう。 おまえは変態か? 女子A: 「ねえCちゃんはどう?上手くいってるの?」 女子C: 「うん、まだバレてないよ」 ああ、きっと親には秘密にしている付き合いがあるのだろう。 確かに小学6年生の段階で男子と付き合ったり、キスしたりしているのがバレたらただでは済むまい。 女子C: 「このあいだもママにウソついてもらった」 ??? ・・・ママにウソをついてもらった? 女子B: 「丙くんと丁くんのフタマタなんてようやるわ(笑)」 !! 女子C: 「オトコってアホやしなあ、絶対にバレへんて。カワイイ声で『好き』って言うだけでOKやもん。やっぱりオンナの武器を活かしていかななあ〜」 軽く頭痛がしてきた。 と同時に、とても胸が痛い。 女子A: 「なあデートとかって何してる?なんか最近つまらんくて」 女子B: 「ん〜、うちでゲームとか、図書館に一緒に行ったり、あとは夜の公園とか」 最後のがオカシイ 何をするの? 女子C: 「なあなあ先生、先生もオトコやろ、なんか楽しいデートとか教えてーさ」 僕: 「先生にはわからないよ、何もかも。あらゆる意味で」 僕は採点を終え、深くため息をついた。 僕: 「・・・。勉強だけ出来ても、いい人生になるわけじゃないぞ」 僕は、彼女たちの人生に幸多からんことを深く願い、帰宅準備をした。 |