プロレスといって思い出すのはT君だ。あれは小学校にあがるかあがらないかのころの話だった。 当時、僕たち子供のあいだでは、土曜日の夕方から夜にかけての番組は豊富なものだった。 まず6時から戦隊ヒーローものがあり、サザエさんという休憩を経て7時から「SF西遊記スタージンガー」、7時半から「あばれはっちゃく」。 そして8時からは「8時だよ全員集合」。 9時から土曜サスペンス劇場で天知茂主演の明智小五郎シリーズ、近藤正臣主演の神津恭介シリーズなどがあれば、もう6時から11時まで5時間ブラウン管に釘付けだった。 正直、眠かったが(笑)。(上記番組、時間軸がずれてるかもしれません。) で、土曜サスペンス劇場は別格としても、あばれはっちゃくや、ドリフターズのコントネタは当然月曜日に学校に行ってからの話題となったのだ。 よくヒゲダンスのマネをしてあそんだものだった。 だがしかし。クラスメイトの中で、不遇なヤツもいた。 彼の名はT。 どうやら彼の家ではチャンネル権は父親にあるらしく、ドリフの時間は彼には「ワールドプロレス」の時間であった。 僕らが休み時間にヒゲダンスをしていると、彼は決まってそれをうらやましそうに眺めているのであった。 ある日、彼は行動を起こした。 つまり、ドリフにあった僕らの興味をワールドプロレスに引きこもうとしたのである。 「起こせ、プロレスムーブメント!」活動であった。 一人一人にプロレスの素晴らしさを語る彼は、あたかもバテレンのザビエルのようであった。 残念ながら、しばらくの間、かれの活動は見を結ばなかったのだが、3代目だったかのタイガーマスクがあらわれたあたりから、徐々にプロレスがうちのクラスに浸透し始めたのだ。 休み時間にはヒゲダンスではなくプロレスごっこが主流になっていった。 彼の活動が巧を操したわけであり、今後はT君がプロレスごっこの中心を担っていくはずであった。 しかし、ここにきて異変が起きた。 T君の家に2台目のテレビが入ってきたのである。 彼には、プロレス以外の番組を見る機会を与えられたのであった。 そして彼は、志村ケンの面白さにはまってしまったらしい。 なんやねん、おまえ。 |
教訓 「時代先取りしたって、遊ばれへんやんけ」