奇妙なウチの親







一人暮らしを始めて数年になる。

年に数回は神奈川の実家に帰ることもあるが、最近はめっきりその回数も減った。

うちの親は、子供の僕から見ても子煩悩の種類に入るだろう。

だからたまに「次はいつ帰ってくるのか」という電話がかかってくる。

基本的に学校、バイト、家庭教師などでまとまった休日は取れないのでこれといった用事がなければ実家に向かうことはない。

そして、お金がかかること以外に関して連絡することのないめんどくさがりの僕はその近況を詳しく伝えることもしていない。

うちの親は僕の最近がどんなものか正確につかめていないというのが現実だ。

それが1つ、大きな失敗の原因だったのかもしれない。

*****

その年のこと。

僕には彼女がいた。

(ちなみに言うと他のページで登場する女子高生ではない)

そういえば、まともにデートってしたことなかったな。

彼女「ディズニーランドいきたい」

「あ?じゃあ行く?」

ちなみに今もそのときも住んでいるのは京都だ。

「来月ならちょっと東京に資料集めに行くし実家に帰るから。そのときでいいならディズニーランドいけるよ」

彼女「どこに泊まるのさ」

「うちでいいんじゃない?」

もし僕にタイムトラベルができたなら、このときの僕を射殺してその口を永遠に封じているに違いない。

愛車マリノ。

おそらくダンボールで2箱分くらいは本とかコピーとかを持ち帰ることになるだろう。

新幹線で神奈川に向かってもいいのだが、それでは帰りが厳しい。

神奈川へと向かうその日、京都四条で彼女を拾った僕は驚いた。

「なんでそんな“おめかし”してるのだ?」

彼女「まあ一応・・・」

おそらくこのときにも僕は何かを感じ取らねばならなかったのだ。

名神・東名高速を5時間ほど走るクルマの中で、そういえばまだ彼女を2泊させるということをウチに伝えていなかった。

まあ別に明日ディズニーランドに行き、明後日には京都へ新幹線で戻るだけだ。

たいした問題ではない。

客間は普段滅多に使われることもなく空いているはず。

「ああ、お父さん?うん今クルマの中から携帯電話。そうそう、言ってなかったけど女の子も一人連れて帰るから。客間の雨戸くらい開けておいてよ」

5時間の運転の後、ウチに到着すると家族が総出で出迎えてくれた。

一体何を考えているのだ?

僕の疑問はその二日後に解けた。

ディズニーランドに行った次の日に彼女を駅まで送ったのだが、そのときの彼女のセリフで。

彼女「引っ越すの?」

「ハイ?」

次のセリフはそのとき彼女から聞いたウチの母親のセリフだ。

そういえば前日の夜、ディズニーランドから帰って疲れた僕はさっさと寝たが、彼女はキッチンでウチの母親、姉と遅くまでしゃべっていた気がする。

母親「一緒に住むなら今住んでるワンルームのあの部屋じゃ狭いわねえ。いっそ引越ししましょうか。2LDKくらいのマンションなら月10万円くらいかしら」

ウチの母親はいつから起きながら寝言を言うようになったのか!

僕が駅から戻ると父親と母親がいた。

平日の昼間のことである。

仕事もせずに何をしているのかと思ったが、両親は僕をテーブルに座らせて、

父親息子よ、お金のことは心配するな。もう1つ家族を養うくらいの稼ぎはあるから

母親今のマンションには来月までに退出届出さないといけないから今のうちから次のところ捜さないといけないわね

平日の真昼間。

外では秋の心地よい風が吹いている。

きっと今夜は晴れるし、いい満月が見られるに違いない。

そうだ、今日は確かダウンタウンの特別番組があったはずだ。

寝る前にそれを見よう。

しかしダウンタウンは確かに天性のセンスをもったお笑い芸人ではあるが、どちらかというとやはり、まだ計算されたところがある。

昼間からトンチンカンなことを言うこの二人の親には勝てまい。

この摩訶不思議な展開は一体何なんだ?

プリンセス天功のイリュージョンもMr.マリックの超魔術もこれに勝つことなど敵わない。

「いや、僕は引越しとか全然考えてないんだけど・・・」

沈黙。痛い沈黙。とても痛い沈黙。

母親「じゃあなに?あのコは遊びなワケ?キーッ!!

キレていた。

外には心地よい秋風が吹いている。

こんな中、だらだらと公園を歩くのも悪くはない。

しかしなぜかこの一部分の空間だけ極寒で、シロクマさんも住めそうなほどだった。

「ハイ?」

僕は考えていた。

彼女がディズニーランドに行きたいと言った。

ちょうど僕は東京に資料集めにいく用事があった。

泊まるところを捜すのもお金ももったいない。ウチに泊まればいいと思った。

しかし今、僕は引越しをしてあわや結婚することにさえなっていた。

僕の知らないところで。

加えて、母親は目の前でキレている。

なぜだろう。不思議だ。

「うるさいな。過剰な干渉は勘弁してくれよ」

僕も語気が荒くなる。

部屋に戻って、再び考える。

ディズニーランドに行くのが便利だったからウチに彼女を泊めた。

そしてこの何年かぶりの親子ゲンカに結びつく理由がまったくわからなかった。

何かわからないけど、何かがおかしい。

仕方なく、コトの顛末を知らせるために彼女の携帯に電話した。

ウチの親が何を言ったか知らないが、気にしないように言わねばなるまい。

「あ、オレ」

彼女「ありがとう。楽しかったよ」

「こっちは大変だよ」

彼女「ん?何かあったの? 今新幹線の中だから後でゆっくり聞くね。それから一つだけいい?・・・」

「なに?」

彼女「さっきウチの親に電話して話したんだけど、ウチの親が会いたいって♪

「・・・」

















ふ〜ん・・・。

それ以来、彼女に電話はしていない。

僕はやはり悪いヤツなのだろうか。



教訓「たまにウチに電話くらいした方がいい」




 
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