オフィス街の悪夢



 


僕の所属するチームのリーダーはアメリカの某有名大学を卒業したJ氏だ。

顔は少しブルドッグに似ている。

チームメイトの各々もMBA取得者だったりそういう人たちばかりだ。

J氏: 「そういうわけで、キミの仕事は、この職場での派遣事務の女のコの人気ナンバーワンになってもらうことなんだ」

僕: 「・・・はぁ」

そういうわけって、どんなわけなのだろう。

セパレーションで区切られた向こう側には別のチームがいた。

現在の女性職員の人気ナンバーワンはそこにいるのだという。

J氏: 「なあ、オトコの価値って何だと思う?」

僕: 「やさしさ、ですか・・?」

J氏: 「ハズレ」

僕: 「顔立ちですか・・・?」

J氏: 「ハズレだ」

僕: 「すみません、わかりません」

J氏: 「トークの面白さだよ、キミ

どっかで聞いたセリフだった。

僕: 「はぁ」

J氏: 「まあ何にせよ、キミが来てくれてヨカッタ。このチームは動物園みたいだとかって言われててね。」

僕: 「・・・(約1名?)。はあ。」

J氏: 「チューチュートレインなんて踊れないからそんな風に言われてもねえ・・・

それはZOOということですか?

僕: 「・・・。」

J氏は一瞬僕を見て、そして咳払いをして、

J氏: 「まあがんばりたまえ」



僕はがんばれるのだろうか。



*****

隣の席のK氏は東大卒MBA取得者だ。

独身。

勉強ばかりしてきた、という雰囲気は微塵も感じさせない明るさの持ち主だ。

K氏: 「合コンしたいよね?」

僕: 「はぁ。まあ・・・」

K氏: 「組んでくれ」

僕: 「ええッ!いや、それはちょっと・・・」

K氏:
 「オマエ今日も10時まで帰れると思わないでくれ」

僕: 「合コン、何とか努力してみますが・・・」

K氏: 「今日は9時で許す。でも全員カワイイ系かキレイ系でそろえるんだ」

僕: 「はぁ、一応努力してみますが・・・」

K氏: 「合コンできなきゃ、何のために来てもらったのやら・・・。オレの青春、いや性春はどこへ行ってしまったのか?!

何なんだろう、この人は・・・。

そして、このK氏に何年か前の自分の姿が映って見えたのだった。


*****


僕はふと思うことがある。

あれほどイヤだった経済で生業を得るなんて、人生って皮肉だなあ、と。

人生にはあまり役に立たないと思って辞めたバイトも、必要とされる場面があるなんて、皮肉なことだなあ、と。

そして。

こんな人たちと仕事するなんて、大丈夫なのかなあ、と。




教訓「人生は困難の繰り返しであり、そして皮肉なモノだ」





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