モハメドさん

インドでの話である。

ここでは某一流商事会社支社長の家に居候することになった。

どうやらここではあらゆるものごとが便利にできているらしい。

ちなみに、モハメドという名前はイスラム文化圏では三人に一人の男性が持っている名前だ。

インドは基本的にヒンズー教だが、イスラム教徒も少なくはない。

今日は、インドで出会った(?)モハメドさんの話である。

ある日、しょうゆが切れた。

日本食には欠かせない調味料である。これを欠いたら、それはもう日本食とはいえまい。

インドの食事がまずいとは思わないが、それでも長期に滞在する駐在員の場合、日本食を現地で日常的に食べられることは、精神衛生上望ましいことである。

さて、そのしょうゆが切れた日。

僕「あ、しょうゆ切れちゃったみたいですね。僕、買って来ましょうか」(←居候)

メイド「あ、いえ、いいですよ。モハメドさんに頼みますから」


僕「モハメドさん? (誰やねん?)」


メイド「すぐ近くに店があるんです」


ふ〜ん。

食品スーパーが近くにあるのか。

しょうゆまで扱ってるんだし、結構でかいんだろうな。

そして電話後の数分後、小汚いジーサンが紙袋を持ってやってきた。

彼がモハメドさんらしい。

そして数日後。今度はトイレットペーパーが切れた。

インドのトイレットペーパーは基本的に質が悪い。

もともとインド人はトイレで紙を使わない。

左手の方に水道の蛇口とカンカラが置いてあるだけである。

これで“洗い流す”のだ。

さて、トイレットペーパーがなくなった日。

僕「近くにいって買ってきましょうか?」(←居候)

メイド「あ、いいわ。モハメドさんに頼むから」

またもやモハメドさんである。

彼の店は食品スーパーではなかったか。

そして電話後数分して、小汚いジーサンが紙袋を持って現われた。

どうやら彼の店は、雑貨スーパーらしい。数日後。

今度は水道の調子が悪くなった。パッキンが緩んだのか、水がポタポタと滴っているのだ。


僕「水道屋呼ばないとダメですねえ。」

メイド「あ、いいの。モハメドさん呼ぶから」

そしてやはり小汚いジーサンが現われて、瞬く間にパッキンを交換して去っていったのである。

モハメドさんは、やたらと手際がよかった。あれはもはやベテランの手腕であった。その日のうちに、今度はテレビのアンテナが風に揺られてずれてしまったらしい。

しかし、よくモノが不調になる家である。

僕「…やっぱりモハメドさんですか?」

メイド「そうね。呼びましょうか」


モハメドさんは、ましらのように屋根の上に上り、そしてアンテナを設置しなおした。

小汚いジーサンが高いところで白い歯をむき出して笑う様はまるで
サルだった。

次の日、運転手付のクルマで街に出ることになった。

家の人「あ、モハメドさんのお店だよ、これ」

そして指差されたのは、やはり小汚い小さな店だった。

しかしそのショーケースには、


靴、電化製品、お菓子、パン、水道の蛇口、ワイシャツ、かがみ、などなど。


おまえの店は、いったい何屋やねん!!


モハメド。謎の商売人であった。

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