僕が小学校に上がるか上がらないかの頃のこと。 僕はその頃相模原市相模台というところに住んでいた。 初恋の相手、優子ちゃんに出会ったのもその時のことである。 が。 今回はまったく別のお話。 当時、テレビで放映されていて、チビッコたちの心をわしづかみにしていたのは新・仮面ライダーすなわちスカイライダーであった。 仮面ライダーストロンガーより数年、帰ってきたスカイライダーは、空を飛ぶというすごいワザを身につけて僕らの前に現れたのだった。 僕が住んでいた家の近所にはまだ雑木林や木材置き場などが残っており、チビッコなどの遊び場には事欠かなかった。 学校も午前中のみしかない小学一年生くらいの頃、僕らは学校から帰ったらランドセルを置き、おにぎりを袋につめて即、再び外へ出て行ったものである。 近所に住むジロウ君はどっちかというと気も体もちっちゃいほうで、6〜7人いる遊び仲間の中ではいつも後ろを追いてくる存在だった。 ある日のこと、僕らは木材置き場でいつものごとく、仮面ライダーごっこをして遊んでいた。 仮面ライダーごっことは。 じゃんけんで負けた一人が悪魔提督になり、数人の仮面ライダーの攻撃から逃げ回る、という非常に理不尽なゲームであった。 今から思えば明らかに多人数で攻撃する仮面ライダーのほうが悪者である。 ちなみに遊ぶ人数が9人までならよかったのだが、10人以上になるとライダーの数が足りなくなるため、魔神提督の他にジェネラル・シャドウなどが登場する。 攻撃側のライダーはさらにじゃんけんで自分が変身するライダーを選べるのだが、やはり人気薄なのがライダーマンであった。 確かにライダーマンは厳密には右手が義手なだけのただの人間だったりする。 それはさておき。 その日も確か、仮面ライダーごっこをしていたのだが、じゃんけんで負けて逃げ回る役になったのはジロウ君であった。 体力があったり敏捷だったりする別の誰かであれば結構な時間、逃げ回り、攻撃をかわし、木材置き場はアスレチックジムのごとく面白いのだが、彼はすぐにつかまってしまうのだった。 ある一人が言った。 「ジロウってすぐにつかまるから面白くないよなー。んじゃ、ライダーキックの練習しようぜー」 ライダーキックとは、歴代仮面ライダーが必殺技にするキック技のことである。 電キック、スカイキック、スーパーライダー月面キックなど呼称こそ変われど基本は同じだ。 しかし、しょせんはチビッコ。いくらジャンプすれども、テレビの特撮のようにそんな長い距離や高さを跳べるわけはなく。 別の一人が言った。 積んである木材の上からジャンプしたらどうか、と。 ジロウ君を除くすべてのチビッコが木材の上にあがり、彼を囲んだ。 冷静に考えれば、それは集団リンチクライマックスの図である。 しかしチビッコたちにはイジメをしているとか悪いことをしているとかいう罪悪感は一切なく、ただ、憧れのヒーローになろうとしていただけだった。 「ゆくぞ、魔神提督!ネオショッカーの最期だ!」 一人の掛け声とともに全員が跳んだ。 1号・2号はライダーキックを。 V3はV3きりもみ回転キックを。 Xライダーは空中地獄車を。 ストロンガーは超電ドリルキックを。 スカイライダーはスカイキックを。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 周囲から浴びせられるキックにびびったジロウ君はとっさに身をよじった。 1号と2号は標的を失ってバランスを崩し、着地に失敗し、強烈に足首をひねって転げまわっていた。 空中できりもみ回転をしてからキックするV3は、その場で後頭部から木材に激突し、声も上げずにうずくまっていた。 月面宙返りを何度もするはずのXライダーはバク転に失敗し、ひざを鼻にぶつけ、鼻血を噴出していた。 体をひねりながら相手にドリルキックを与えるストロンガーは、方向感覚をずらしたのか、あらぬ方向の木材に激突。 高い高度からキックを打ち落とすスカイライダーは跳ぶ瞬間にその高さにビビり、中途半端にジャンプしたため途中の木材に引っかかって地面まで転げ落ちていた。 血みどろの地獄絵図であった。 うずくまる6人のライダーたち。 言葉もなく一人立ち尽くすジロウ君(魔神提督)。 無敵のライダー軍団、自滅!! その日以来、仮面ライダーごっこが禁止されたのは言うまでもない。 |