カンボジア・プノンペン郊外の道路沿いにある寂れたカフェ。 カフェというより屋台のジュース屋に近い。 プノンペン市内にあるいくつかの有名なカフェなら話は別だが、どうやらこういう場所に外国人が来ることは珍しいらしく、道行く人々がじっとりとした視線で僕を見つめていく。 見つめる視線がかわいい女の子からのものなら構わないどころかうれしいのだが、そのほとんどの視線は身なりの汚いジジイやババアからのものであり、つまりお金を持っている日本人からお恵みをもらおうと狙っている視線でもあるわけだが、その黄色い目でねっとりと見つめられるとまるで目で姦されている気分になる。 生きる気力すらもじんわり奪われかねない。 僕がそこでやけにあまったるいコーヒーを飲んでいると一人の日本人の青年が相席を求めてきた。 市内ならまだしもこんな郊外の道沿いで日本人に会うのは珍しい。 そして、どことなく出川哲郎に似た彼はとてもおしゃべりが好きだったらしく、まるで精子のように言葉を浴びせかけてきた。 ***** ・・・ふーん、ここは二度目なんだ。 あ、吸う? 結構質のいい大麻だけど。ふーん、吸わないんだ。じゃあドラッグとかもしないの? ほらここって最近まで内戦あったでしょ。だから法律なんてものなかったんだよね。 赤3とか青3とかL.S.D.とかも結構簡単に手に入るよ。インドほどじゃないけど。 でも最近は取り締まりがあるらしくって市内のマーケットには置いてないみたいなんだ。 もう一回くらい戦争でも起きてくれたらドラッグなんて一山いくらの世界になるぜ、きっと。。 女は? 一回5ドルだぜ? いいの? ふーん、そうなんだ。スワイパーなんて行ったら10才から20才まで年齢刻みで女いるのに。 ちっ、物乞いのガキが来やがった。 失せろクズ! おまえみたいなのは生きてても意味ないからさっさと死んじまいな。 ま、言葉理解できないかもしれないけどな。 え? お金いつもあげてるの? それ、やめたほうがいいぞ、ウジムシがもっとわいてくるから。 かわいそうなことなんてないって。 所詮、クズはクズなんだから。 この国には頭のイカれた売春婦かドラッグで脳みそ溶けたヤツしかいないんだ。 あ、ところでどこに泊まってるの? ふーん、あ、あそこのホテルか。なかなかいいところに泊まってるね。 でも夜中とか出歩かないほうがいいぞ。 頭のイカれたヤツが多いから夜は危険だ。 ・・・あ、もうそろそろ行くの? おれはまだもうちょっとここで休んでいくけど。 それじゃ、この先も食あたりとかには気をつけて。 ***** そうして僕は彼の座るテーブルから立ち去った。 彼は夜の市内のことを案じてくれたが、 僕はあんたのほうがこえーよ。 人間ってなんだろうと考えさせられたコーヒータイムだった。 教訓「『人間愛』ってなに?」 |