カニ頭の少年
僕が高校生のころの話である。 当時、おそろしい勢いで、流行していたファッションがある。 それはヘアスタイルだ。 いまではあまり見かけない、というか全然見かけないヘアカットなのだが、当時は、10人中8人はそのヘアスタイルだった。 残りの二人のうち、一人は寺の息子で、もう一人が今回の主人公である。 10人に一人も寺の息子がおるわけないやん!しかも、その息子だって、坊主にする必要ないやん!! という突っ込みはとりあえず自分で入れておく。 本論とは関係ない独り言だが、「一時的にめっちゃ流行ったモノ」というのは、その後かなり時間がたたないと復活しないような気がする。 たまごっち、ラルフの紺ブレザー+ローファー、シドネックレス、女子高生の持ってた『花』、ミサンガ、エビアン少年、バンソンの革ジャン、ショットのピーコートなどなど。 それぞれモノ自体としては流行になるくらいおしゃれなんだろうけど、爆発的な流行が、その後の使用を控えさせることにつながるんだよね。 なんか、そう考えるともったいないね。そういうわけで、 僕はあまり本流の流行には乗らないようにしている。亜流の美学だ。 当時、サラサラヘアのツーブロックというヘアカットが爆発的に流行した。 どんな髪型かといえば、長めの髪(真ん中分け)で、サイドおよびバックを刈り上げたところを覆うようにするのである。 吉田栄作や、ドラゴンボールのトランクスの髪型である。 この髪型は、ヒッピー的な長髪と違って、サラサラ感と清潔感が必要だった。 従って、必要になる髪質は当然、コシのないストレートなのだ。 T君。かれの髪質は、剛毛の上、くせ毛で縮れていた。 最もそのツーブロックに適さない髪質である。 10センチも伸びると、あらぬ方向へ髪が伸びていくのだ。 しかもいくら抑えつけても、剛毛なので、全然応じてくれない。 まるで、実験に失敗した博士のようである。 ちなみにツーブロックには最低20センチ程度の長さは必要であったのだ。 しかし、そんな彼でも、流行には敏感だった。 おれにはその髪型が必要なんだその髪形じゃなきゃダメなんだその髪型が命なんだ その髪型じゃないと女のコにも嫌われちゃうんだその髪型が… といったような脅迫観念にも似たものが彼を襲っていたらしい。 彼は、髪を伸ばし始めた。 ある程度の長さがないと、「ツーブロックにしてください」というカッコイイセリフもいう資格がないのだ。 当時はまだ世間では知られていなかったが、今なら彼のことをこう呼んでいただろう。 サイババ、と。 当然、周りのみんなは、心の中で 「プ。かっこわり(笑)」 と思っていたのだが、現実には、 「やっぱ、今の時代、ツーブロック?(半疑問)」 と口にしていたのだった。 さて、ちょっと長めのサイババ期を経て、彼もとうとう脱皮する時が来たようだ。 ある日、彼は「オレ、明日オトコになってくるよ」とワケのわからんことを言って、美容院にいく決意をした。 例え、結果が同じでも、おしゃれを自称する少年は、まちがっても「床屋」あるいは「理容院」というところには入っちゃダメなんである。 強いて許されるのは、「カットサロン」だろうか。 そして次の日。 その前に、想像してほしい。 もし、サイババが、サイドとバックを刈り上げにした場合、どうなるか_? ツーブロックのツーブロックたるユエンは、トップの長めの髪がサイドとバックを覆うところにある。 ここがブロック状になるから「ツーブロック」なのだ。 しかし、剛毛で縮れ毛の場合、キレイに被さってくれないのは明白であろう。 彼の頭は、刈り上げたところが、傘のように広がっていた。 キノコの山状態である。 まるで何か悪い生物が頭の上に乗っかっているかのような。 真ん中分けの黒い髪。 その状態から、彼の頭は、カブトガニと呼ばれた。 そして彼は、「頭に天然記念物を飼う男」として、しばらく有名だった。 |
教訓「カニは頭で飼うものではない」