僕は大学でウィンドサーフィン部というクラブに所属していた。 春から秋にかけては琵琶湖で練習を行う。 しかし、冬は琵琶湖は雪さえも降る寒さだ。湖上に出るなど自殺行為に等しい。 そこで、我が大学が和歌山県・白浜に持つ「海の家」を舞台にしてウィンドサーフィンを楽しむのである。 白浜の海は暖流のために、海上よりも海水が暖かかったりもするくらいだ。 加えて冬の気圧配置は強風警報が朗報であるウィンドサーフィンに最適となる。 だから、部員の多くは授業をさぼってこの「某K大学・海の家」に住み着くことになる。 しかし、風の強い日ばかりというわけではない。 たまには風が止まっているような日もある。 することがないのだ。 白浜というところは一応観光地で、それなりの施設や見るものあるのだが、そんなものは初年度でまわりきってしまう。 近所には、マガジンやサンデーが一日遅れでしか届かない古びた本屋とスーパーマーケットくらいしかない。 風のない日は一日中だらだらとテレビゲームをするか、テレビを見るしかない。 2ヶ月もこの「海の家」に住み込んで、廃人同様の生活を送っているツワモノもいた。 そんな海の家の日常を紹介しようと思う。 ***** 風のない、とある日の午後。 僕がクルマを洗車し終わって大部屋に戻ると、後輩の二人が真剣な表情でにらめっこ(?)をしていた。 聞くと、ある勝負をしているという。 後輩: 「どっちが長くまばたきしないでいられるか、という賭けなんですけど・・・」 僕: 「・・・。」 キミらは何のために生きているのだ? 向こう側ではテレビゲームをしている後輩がいた。 昔懐かしい、ファミコン版のドラクエだ。 ん? そういえば昨日の晩からやっていたような気がする。 聞くと、かれこれ15時間以上も続けているという。 ママに一日2時間までって言われたろう? 隣の小部屋に入ってみる。 そこでは数人の女子部員が寝転がって女性誌を読んでいた。 どうやら読んでいるのはダイエット特集らしい。 しかし、あたりには食べ散らかしたお菓子が散乱していた。 人間は理性で行動できる唯一の社会的動物だといわれているが、本当かどうか疑わしい。 やる気ねーだろ? 台所へ向かうと、そこには同輩いた。 インスタントラーメンを作って食べている。 すでに空き袋が6つだ。 ノートの切れ端に、「ギネスに挑戦!ラーメン大食い記録」とある。 シャブでもやったか? 僕は軽い倦怠感を覚えて、海の家の裏手にある海岸に向かった。 相変わらず風はない。 先輩も含めて何人かがそこにいた。 僕: 「何してるんですか〜?」 見ると、後輩の1人が首まで砂浜に埋まっていた。 先輩: 「さっき、コイツが『落とし穴作ります!』ってがんばってたからナ、出来上がったところで落としてやった」 後輩は砂まみれの顔をこっちに向けて、ヘラヘラ笑いながら、 後輩: 「助けて〜」 僕の脳裏には、“墓穴を掘る”という日本古来のことわざが思い浮かんだ。 それを身をもって実行する人間がいたことに軽い驚きがあった。 それよりも驚いたのは、20歳にもなって「落とし穴」を作ろうとしていたその思考である。 僕は軽い頭痛を覚えて、家に戻った。 そこでは、さきほど「まばたきガマン勝負」をしてきた2人(♂)が、野球拳をしていた。 1人は全裸だった。 ジャンケン、ポン! 全裸のほうが負けた。 彼は、股間に手をやって、「ムいたぞ!」と言って喜んでいた。 受験戦争、という言葉がある。 日本の社会は学歴で人生の大きな部分が決定されてしまい、そのためにいい大学、いい高校、いい中学、果てはいい小学校に入学することが重要になってしまっているのだ。 そしてその折々で行われる「受験」というものの重要性が高まり、必死になって受験勉強をせざるを得ないのである。 この受験勉強が過度のストレスを子供に与え、逆にそのストレスに打ち克って好成績を残した者だけが栄光を手にすることができる。 すなわち、輝かしくも大学受験を乗り越えた人たちがこの人たちなのだ。 僕はとりあえず、彼らにこう言った。 僕: 「面白そうやな。おれも参加させろ」 |