秋葉原のお店




あれはちょうどイースターで日本に一時帰国したときの話だ。僕は買い物のために秋葉原にいった。いろいろと買わなくちゃいけないものもあって、そして買いたいものもあった。

欲しかったのは3DCGのソフトだった。もちろんHP作成用だ。ただ、どうせ買うなら中国人から、と思っていたのだ(正規ソフトハウスの方ごめんなさい)。

貧乏な学生にとっては簡単に12万とか5万とかいうお金は捻出できないのである。そこで、秋葉原に探索しに出かけたのであった。これはそのときのお話。

 
さて、どういったお店に、海賊版が眠っているのだろうか。僕は考えた。表通りに店を構えているような「まっとうな」店にはまず置いてないだろう。じゃあ…。

ということで片っ端から“ウサン臭そうな”店に入っていくことにした。狙いは主に裏通り、2階、地下にあるようなお店である。おそらくその日一日で、ほぼすべての“うさん臭い”店は網羅してしまっただろう。

しかし、そういった“うさん臭い”ソフトショップというのはほとんどが「アダルトビデオ/CD−ROM」の店だった。
その店も、例外ではなくアダルトビデオ/CD−ROMを置いていた店だった。エレベーターで4階まで上がり、ドアが開くと、目の前には等身大の「ヌードのアニメキャラ」が立っていた。ときメモ系とでもいったらよいのだろうか。

(ちっ、ここも違うか…?)

でももうすでにかなりの数の店を探索し終わっており、一縷の望みをかけて僕は足を踏み入れた。

ん? なんか他の店とはどっかなにかが違うような…

不思議な違和感を覚えた店だった。
やはりすぐそこにはパッケージに包まれた「椎名舞」や「若菜瀬奈」がたくさん微笑んでいた。

(今日は君たちじゃないんだ。ごめんよ)

僕はアダルト以外のビジネスソフトを探しながら、狭い店内を巡回した。そのとき、違和感の素を発見した。

普通、アダルトモノのキャッチコピーというのは、

“ベビーフェイスであんなことやこんなことまで!”
“なぶられ、もてあそばれ、絶叫する(女優名)”
“エッチな(女優名)のエッチな放課後”

とかその程度のシロモノだろう。もはやそんなキャッチコピーはある意味陳腐化されたといっても過言ではない。目にも止まらないという意味ではもはやキャッチコピーとしての機能を失っているともいえよう。

しかし、そのとき僕の目に止まったキャッチコピーはちょっと違った。いや、ちょっとどころかかなり違った。かなりニーズに即しまくっていたのである。CD−ROMの横に飾られたカードに書かれていたのは、
 
“店長3回ヌきました”
“店長4回ヌきました”
“長瀬君2回ヌきました”

とかそんな感じなのである。聞いてないのに、趣味を教えてくれているようなものだ。僕は思わず苦笑してしまった。

長瀬って誰やねん?!

それ以上にすごいのは、新作が出るたびに、果敢に彼らは挑戦するのだろうか。

僕は、時間もなかったので、棚のウラとか陰になっているところまで覗きこんで、海賊版のCD−ROMを探したのであるが、その様子が彼らには違うように写ったらしい。一人の店員が話し掛けてきた。

店員「何かお探しでしょうか?」

僕はここで、3DCGのソフトを探している、と正直に言えばよかったのだ。しかし、もしここに「正規の商品」がおいてあったらまずいと思ったので、一瞬ひるんでしまった。

「あ、いえ…」

平日の午前中で客は僕しかいなかった。もしかしたら彼もヒマだったのかもしれない。にこやかに説明を続けた。

店員「コレなんていいですよ。私は4回いけましたから。レイプされてるときのカオがいいんですよねぇ」

ずいぶんとストレートだ(笑)。

店員「お客さんは何をお探しですか? 女子高生? レイプ? SM? 痴漢もの? それともアニメ?」

「あ、はは、いえ、…」

なんでこうもストレートに言葉を発することができるのだろう。さすがはプロということだろうか。

店員「あ、なるほどね」

何がなるほど、なのだろうか。
彼は手招きをして、僕をちょっと離れた棚に連れていった。
そこには、「スカトロのすべて」と書かれたCD−ROMがならんでいた。

ここまで誤解されてもしょうがないので、しかたなくビジネスソフトを探している旨を告げた。すると、

店員「お客さ〜ん、ポリゴンじゃ抜けないよ?」

大きなお世話である(笑)。
っていうか、その価値観なんとかしてくれ。

店員「コレなんて最高よ。ブルブルいうやつをぬちょぬちょしてるところにズブズブっとね…」

なんだか宇宙人と会話しているようだ。秋葉原にはこういう人種がいるらしい。

店員「コレはこの店オリジナルなの」

押しつけられたCD−ROMには、「新“性器”エヴァン“下痢”オン」と書いてあった。果たしてなかにはどういうシーンが入っているのだろう。どういう意味でオリジナルなのだろう。違った意味で興味をひくシロモノではあった。

しかしそれ以前にどノーマルな人間に対してこういうのをすすめるのはどうかとおもう。

どうやらこの店には僕の欲しいブツがなかったようだった。
しかたない。他をあたるとするか。
僕はエレベーターの前にきて立ち止まってしまった。ここで、下行きのボタンを押せばいいだけの話なのだが、それができなかったのである。

いたるところにポスターが飾られていたのだが、ていねいにもエレベーターのボタンまでポスターが貼られていて、
こうなっていたのだ。
 
(イメージ図)

呆然と立ち尽くす僕を見て、その店員がやってきた。どういえばいいのかわからないが、とにかくエレベーターのボタンを押すのがこれほどまでにためらわれたのは初めてだった。

店員「お客さん、これは、ほら、ここをクリクリ、いや、グリグリっと…」

そういって、純情な僕の代わりに、彼はボタンを押してくれた。

店員「またのご来店をお待ちしていま〜す」

多分、二度とくることはないだろう。ちなみに、火災報知器はこうなっていた。
 
(イメージ図)

もし僕が火事を見つけても、押すのにしばし躊躇してしまうことは間違いない。これはもしかしたら試練なのだろうか。

しかし、このボタンを何のためらいも、自分への恥ずかしさもなく押せる人間にはなりたくないと思う。あなたはどうだろうか。

教訓「親が見たら泣くぞ」




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