マイケルの店は歩いて数分のところにあった。 迷路のような細い路地の両側に所狭しと店が構えられている。 そして店の中も所狭しとモノが並んでいる。 彼の店はいわゆる雑貨屋、昔でいう「よろず屋」をさらに退化させたものだった。 簡単にいえば、「とりあえずゴミを並べてみました」というカンジ。 軒先にぶらさげられたバナナは腐っていた。 マイケル: 「見てくだサーイ」 店の奥の薄汚れたガラスケースの中にいくつかウォークマンらしきものが並んでいた。 鍵のかかるところにおいてあるところを見ると、きっとこの店の中でもっとも高価な商品なのだろう。 ん? それはAIWAではなかった。AIMAだった。 え? それはSONYではなかった。SOMYだった。 あれ? それはPanasonicでもなくSONYでもなかった。Panasonyだった。 マイケル: 「どれを買うカ?」 どれもイラナイんですが 僕: 「いや、いいです・・・」 マイケル: 「今なら100ドルを60ドルにするヨ」 12,000円を7,200円に値下げ、か・・・。 おっさん何考えて生きてるんだ? しかもなんて適当な値段設定なんだ・・・。 僕: 「いや、ほんとにいいです」 マイケル: 「これもあげるよ」 そういって取り出したのは自家製と見えるカセットテープだった。 明らかに「歌がそこそこ上手な素人がマイクに吹き込んで作ってみました」的テープだ。 だまされたと思って10ドルくらいで買ってもいい気もしたが、にもかかわらずだまされたくやしさの方が大きかったら最悪だ。 むしろその可能性が高い。 僕: 「ウォークマンはもうあんまり使わないんだ・・・」 マイケル: 「じゃあコッチのテープあげるよ」 問題はテープじゃないんだ。 マイケルおじさんは自分のペースで話を進めていた。 ある意味セールスマンとして正解なのかもしれない。 僕: 「ありがとう、でも残念ながら買いたいモノないから行くね。それじゃ」 マイケル: 「チョト待って。じゃあコレ・・・」 マイケルは奥に何かを取りに行った。 僕: 「?」 店の奥で僕を呼んでいる。 マイケル: 「ヒミツね」 イスラム教は性に対してかなり厳格だ。 日本ではコンビニで簡単にアダルトな本やビデオを買うことができるが、ここモロッコではそうはいかない。 マイケルがコソコソと僕に見せたのは、10年以上も前のPLAYBOYを切り抜きしたスクラップブックだった。 僕: 「マイケル・・・」 僕は彼の無駄な努力に涙を禁じ得なかった。 アガディールの夕陽が目に染みる午後のひと時だった。 |