牛飼いとやまんば
〜現代の渋谷が舞台だった場合〜


 
あるところに某PCメーカー営業部門の販売員がせっせとコンピュータを売っておったそうな。

男「だっり〜な、まったく、こんな仕事させんじゃね〜よ」

しかし、バブルが崩壊して以来、世の中はいまだに不況の波から脱出できません。

ここで辞めてしまったら再就職は困難です。

特に、彼のような技術職ではなく営業部門はそう簡単にいい就職先が見つかるとは思えません。

男は営業の仕事をさぼってテレクラに入りました。

一時間3000円の渋谷のテレクラです。

時間はまだ午後に入ったばかり。

こんな時間にかけてくるのはヒマな主婦に決まっています。

しかし、男が2本目にとった電話は明らかに主婦ではありませんでした。

男「え? 何歳なの?」

電話の向こうではキャッキャとした笑い声が聞こえる。

どうやら数人の女子高校生のようでした。

男「え? 4人なの? じゃあ一人ずつに2万円づつ援助するから、どう?」

今年秋改正になった児童福祉法および東京都条例、そして売春防止法違反だがそんなことはおかまいなしです。

渋谷のBUNKAMURA近くで待ち合わせることにして、男は早速そこに向かいました。

もう心臓はドキドキしています。

男は、純真な女子高生が好きだったのです。

三つ編みでメガネをかけていて、三つ折ソックスだったら、もういうことはありませんでした。

もちろん愛読書は中原中也やランボーのはずです。

しかし、待ち合わせ場所で待っていたのは、アダモちゃんのような、アフリカからの留学生のような、いや、カリブの原住民のようなそんなガングロギャルでした。



一瞬、男の目の前が真っ暗になりました。

ギャルA「チョーおっさんじゃん、ちょーキモい!」

なんで初対面のガキにこんなことを言われなくてはいけないのでしょうか。

男はこれまで生きてきた32年間がムダだったように思えてしまいました。

ギャルB「ねぇねぇ、おこづかいくれるんでしょ〜?」

どうやらもう後戻りはできないようでした。

意を決して財布を握り締めます。

別のギャルが男の腕をとって、円山町のほうへ引っ張っていきました。

ギャルC「あたし今日彼氏とデートあるからぁ、さっさとすることしてお金ちょーだい」

ギャルD「え〜、お小遣いだけくれるんじゃないの〜(笑)?」

男が気弱なことをいいことに、勝手なことを言いたい放題です。

それでも男は言い返すことができませんでした。

なぜなら、引っ張られてる腕に、そのコの胸が押し付けられてあたっていたからでした。

ああ、あたってるよ・・・

そしてガングロギャル4人と男は、円山町のホテル街に入っていきました。

***

しばらく後。

男は、なぜ自分がこういう状態にいるのか、理解することができませんでした。

ここはホテルの一室。

高級なラブホテルの中でさらにいちばん高い部屋です。

カラオケやサンベッドまでが備え付けてあるのです。

これからじっくり楽しもうと思って、ドアノブに『Don't disturb』の札を掛けたところまではよかったのです。

しかし、男の左手は手錠につながれ、その手錠はテレビスタンドの足につながれていました。

なんでこいつら手錠なんて持ってるんだろう?

男の疑問をよそに、4人はカラオケを楽しみ、シャワーを浴び、持ち込んだお菓子を食べながら騒いでいます。

くたびれた30男など眼中にありませんでした。

興味があったのは財布の中身だけだったのです。

男はせいいっぱい手足を伸ばしてみましたが、せいぜいつま先がサンベッドに届くくらいです。

さらにその向こうのカラオケやテーブルには届きませんでした。

しばらくして、カラオケで疲れたらしい彼女らは、2台のサンベッドに二人ずつ入って、横になりました。

日焼けサロンは一回につき3000円くらいかかります。

それ以外にも化粧品、ブランド品などにお金がかかるギャルは、こういうところでお金を節約しないといけないのです。

それでなければ『エゴイスト』で毎週お買い物なんてできません。

ギャル4人はビキニに着替えてサンベッドで横になってます。

男はそのフタをされたサンベッドの内側にいる彼女ら4人を許すわけにはいきませんでした。

なぜなら、総額8万円のつもりだったのが、集金したお金までとられて、全部で20万円も抜かれてしまったからです。

これは明らかに強盗行為でした。

彼女らが20歳以上であるか、婚姻済みであれば間違いなく5年以上の有期懲役が課せられるはずでした。

しかし、未成年者の犯罪は一般の刑法でも普通の裁判所でもなくて、少年法を用いて家庭裁判所で裁かれるのでした。

それでは有期懲役にはなりません。せいぜい鑑別所どまりです。

そんなんでは勘弁つきません。

男はつま先をなんとか伸ばして、2台のサンベッドの取っ手に電源ケーブルをひっかけることができました。

これで、サンベッドのなかに彼女たちは閉じ込められてしまったのです。

フフフ・・・。罰として焼け死ぬがいい。

男は、待ちました。

数時間。そのあいだ彼女たちは眠ってしまったようです。

そして、サンベッドのなかからフタを持ち上げようとしているらしいことがわかりました。

ギャル「ちょっと、あかないよ、コレ、なんで〜?」

男「フフフ・・・罰なのだよ。焼け死ぬがよい!」

バカ、サル、アホ、デブ、ハゲ、トンチンカン、などあらんかぎりの罵声が男に向けられます。

しかし、男は動じません。

バカなギャルが賢い大人を舐めるからだ。

男は勝ち誇っていました。

紫外線を長時間浴びていたら、ヒフがヤケドを起こし、最終的にはヒフ呼吸が出来なくなって人間は死んでしまいます。

このまま死んでも事故死ってことになるだろ。

男は甘く考えていました。

そうです。

男の手錠も外れないままだったのでした。

数日後、ラブホテルから5人の遺体が見つかったのだそうな。

ドアノブにかけてあった『Don't disturb!』の掛札が仇となりました。

ナンマンダブ。



解説:

日本昔話のなかにはよく『やまんば』が出てくる。これは山に住み、人知を超えたおそろしさを持った「鬼」に近い存在として語られることが多い。実際、ほとんどの昔話では「やまんば」は人に危害をあたえ、脅威をもたらすものとして描かれている。

さて、今回は現代に生きる『やまんば』を人に危害を与える脅威として描いてみた。つまり、平凡に生きていてもいつのまにか『やまんば』の被害にあい、そして自らの人生をも破滅させかねない、その恐ろしさである。

しかし、実際になにが恐ろしいかといえば、至近距離でその顔を眺めてみたとき、恐ろしさよりも『笑い』の方がこみあげてしまうことであろう。

筆者は実際、太ったガングロギャルの逆パンダメイクを見て笑ってしまったことがある。にらまれて困った私はしかたなく『がちょ〜ん』と言って逃げるしかなかった。

忘れたい過去である。

 
 
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