白雪姫

ミラー誌はアメリカではフォーチュン、プレジデントなどと並ぶ、トップマネージャーのための経営雑誌だ。辛口な評価のなかにも的確な指摘が豊富に盛り込んであり、ほとんどの管理職ビジネスマンは購読している。そういう信頼性の高い雑誌だった。

この雑誌は毎年高い業績をあげているトップ50の企業を発表しており、そのランキングに名前を載せる、というのは非常に名誉なことであった。

その年のミラー誌の年間総合評価を読みながら、「マジョキサキ・エンタープライズ」社社長は臍を噛んで悔しがっていた。マジョ社はここ数年毎年ベスト1の栄光に輝いていたのだが、今年は、2位の位置に甘んじてしまったのだ。

しかも、悔しいのはただ単純に一位の座を奪われたからではない。その、今年一位になった「スノーホワイト・リミテッド」は、もともと他ならぬマジョ社の子会社だったのだ。

いまでは完全別会社になってしまったが、数年前まではそれこそマジョ社の情報システムを預かる一部署だったのだ。いわば飼い犬に手を噛まれた状態?(半疑問形)

たしかに、マジョ社の一部署だったときから、その経営状態と情報システムに関する手腕は非常に良好で、将来性は充分以上にあったのだ。だが、だからといって安穏としているわけにはいかなかった。マジョ社は、この状態を打破すべく、陰謀を企てることにした。

マジョ社は、スノー社がイントラネットを全面更新するといううわさを聞いた。これはチャンスだと思ったマジョ社社長は、あるものを持参して早速スノー社におもむいた。

マジョ社社長は、うまく営業マンに変装して、イントラ端末を売りこみに行ったのだった。だが、しかし。そのイントラ端末にはおそろしい仕掛けがしてあったのだ。

「…で、いかがですか? このiMACは。安いだけじゃないですよ。フロッピーなんて時代遅れなもんはついてません。そのかわり10ベースのイーサーが標準でついてますし、キーボードもマウスもUSB対応です。これからはUSBですよ。こいつは買わなきゃダメですよ。NTワークステーション? あんな、NTサーバーの番号違い、買っちゃダメですよ。ライセンス料はクソ高いし。これからのイントラネットはJAVAベースで端末はアップルで決まりです」

「まあ、なんてかわいらしいフォルムでしょう。素晴らしいわ。色もキレイだし。え? 5色全部買わなくちゃいけないんですか? ええ、でも、それでもかまいませんわ。是非ウチで導入したいと思います。」

そうして、スノー社はウィルスに侵されたマックを導入してしまったのだった。

そして数日たつうちにはそのウィルスがスノー社の基幹情報システムをことごとく破壊し、すべてのファイルは失われてしまった。顧客情報から業務用ソフト、LINUXまで白紙に戻してしまったスノー社が信用を失って、破産に追い込まれるまでそう長い日月はかからなかった。

一方でマジョ社社長は笑いが止まらなかった。

「ハハハ。スノー社のバカオンナ社長め。ウィルスの詰まったiMACにまんまとひっかかりおって。もうわしらのマジョ社をおびやかすものはない! ぐわはははは。」

そして心待ちにしていたミラー誌が届いた。しかしそこには驚くべき内容の記事が書かれていた。
『スノー社、マイクロソフト社と合併! 株価急上昇』
産状態に追いこまれたスノー社は、しかし、その潜在的な良質経営を見込まれて、マイクロソフト社による救済が行われようとしていたのだった。いわば白馬の王子のようなものか。

裏では、
「ま〜た、ゲイツがスノー社の若い女社長に一目惚れしたんだよ。あいつはモテないから」

とかいわれていたが、そんなことはどうでもよかった。問題は、スノー社がマイクロソフト社に支援されて経営を再開したことだった。
一方で、スノー社は、基幹情報システムのダウンがiMAC導入にあったことまでは突きとめていた。

役員A「社長、これは絶対マジョ社のやつらのしわざに決まってます。訴訟を起こして叩きのめしましょう!」

役員B「これを契機にマジョ社の信用を失墜させてやるんです」

「そうねぇ〜、でも…」と女社長は弱気だ。

役員C「こちらには天下のマイクロソフトもついてるんです! きっと我々の力になってくれるはずです。」

そんな会話がスノー社で行われていた頃、意外な結末がマジョ社を襲っていた。

数週間前からNTサーバー・ワークステーションの全社導入を図っていたのだが、先日、IE5.0をとある端末にインストールしたところ、支社サーバーを含むすべてのネットワークがイカれてしまったのだった。IMACにはわざわざウィルスを仕込まなくてはいけなかったのに対し、NTにはそんなことをする必要はなかったのだ。そもそも、強力なバグが仕込まれていたということだった。

システムアドミニストレーターが必死の修復を試みても、

「エラーが発生しました。このプログラムは異常終了します。詳しくは“システムアドミニストレーター”にお尋ね下さい」

とかいう訳のわからないメッセージが出るだけだった。彼は『おれが管理者なんだが…』と頭を抱えてしまった。ビル・ゲイツは図らずもスノー社の復讐を果たしたのだった。

教訓「マイクロソフトはたまには活躍するが、滅多にない」 



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