サルカニ合戦
〜新・仁義なき戦い〜



 


蟹江は新宿のとあるビルをオフィスにする日本最大暴力団の幹部である。

しかし、ここ新宿ではまだ弱小組織に分類される規模に過ぎない。

本部の武装力をもって本気でここ新宿に攻め込むことができればカンタンに話はつくのだがそうもいかない。

何の理由もなしにいきなり他の組に殴りこみをかければ関係のないあらゆる他の暴力団からも疎んじられ、あるいは友好的な組織からも見切られてしまうことになるからだ。

何らかの理由が必要だ。

ある日のこと、猿渡組から一本の電話があった。ビジネスの用件だという。

猿渡組は全国規模で見れば弱小に分類されるが、逆にここ新宿では最大派閥の組織だ。

今のところ敵対関係でもなく、友好関係でもない。

猿渡組の提案とは、蟹江の持つコネクションにより一定期間トカレフ・手榴弾といった武器を提供する代わりに新宿のある地域をナワバリとして進呈しよう、とのことだった。

その地域は現時点では利益をあまり生まないが、やり方次第ではカネを生む地域にすることができる。

基本的に歓楽街はヤクザが育てるのだ。

そして蟹江の組はまだコレといったナワバリをもっていなかった。

蟹江はその申し出を受けた。

蟹江「どっかとドンパチやってるのか・・・」

猿渡組は事実別の組織と敵対関係にあり、その摩擦は激しいタマの取り合いに進展していた。

*****

しばらくした後のこと。

蟹江はドラッグ、セックス、ギャンブルといった違法産業の新名所として自分の得たナワバリを育て上げた。

と、同時に蟹江は膠着状態に陥っていた猿渡組の抗争の仲裁をすることになる。

ヤクザの組織同士の抗争は決着のつけ方を一歩間違えれば両者共倒れということになり、それでは抗争の意味が無に帰ってしまう。

蟹江が狙っていたのは猿渡組に対する一定の影響力である。

これを機に平和的に猿渡組の頭を押さえつけることができれば自分は無傷のまま新宿の一角をさらに得ることができるだろう。

名目的にそれは猿渡組のナワバリでも構わない。

実質的に蟹江のモノになるのならば。

抗争の仲裁は成功に終わり、若干猿渡組が有利な条件で和解が成立した。

そしてこのときを境に猿渡組への干渉が日増しに大きくなっていった。

猿渡組のヤクザビジネスに必ず同席しコンサルタント料といって法外なカネをむさぼったり、たまに生じる別組織との小競り合いにおいても後ろから傍観するのみで矢面に立つのは猿渡組であったり。

それが明からさまな「ヤクザへのヤクザ行為」となったとき、猿渡組はキレた。

ある日のこと、一人の鉄砲玉が蟹江の組事務所に乗り込んできた。

彼のカラダには爆薬が巻かれていた。

そして、蟹江の部下数十名が爆死した。

難を逃れた蟹江はその晩、高笑いが止まらなかった。

これこそが蟹江の求めていたことなのだから。

蟹江は新宿に根をはる、猿渡組を除くすべての組に伝達した。





猿渡組に仁義はない。

猿渡組には義侠心もない。恩義を感じる心もない。

かつて猿渡組は私のところに武器の無制限の提供を要求した。

その見返りに受けたのは何の利益も生まない寂れた一角のナワバリだけだ。

その後も交友関係は続き、猿渡組には協力を惜しまなかった。

猿渡組に提供した労力、資金はどれだけになるのだろうか。

しかし今、猿渡組はその恩義も忘れ、筋の通らない行為に及んでいる。

我々が得て育て上げた新宿の一角を、今になって取り戻そうというのか!

猿渡組の理不尽な行為に関して我々は組織全体の力をもって対抗する。

爆死した数十名の部下に誓ってここに宣言する。

すべての持ちえる力をもって猿渡組を壊滅する。

これは暴力団同士の抗争ではない。

人間として理不尽な行為に反撃する戦いである。

新宿のみならず、すべての組に伝える。

猿渡組をかくまったり、援助したりする組はすべて猿渡組と同義とみなし、報復の対象とする。

決定せよ!

猿渡組について筋の通らない行為に加担し我々に壊滅させられるか、あるいは我々と一緒に仁義ある世界を守り抜くのかを。





そもそもが日本で最大規模を誇る組織の暴力団組織である。

この全国的な宣言に同意しない組織があるはずもない。

そして猿渡組は本家から破門を宣告された。

蟹江は今、猿渡組を除くすべての新宿に存在する組織の中心にいた。

あとはいかに迅速に猿渡組のナワバリを自分のモノにするか、だ。

名目上はおそらく猿渡組の本家から配属された別組織のモノになるだろう。

しかし実質上蟹江の影響下にあればよい。

明日、猿渡組のすべての構成員のアジトに踏み込み、抹殺することになっている。

このコロシに関して資金やヒットマンはすべて他の組に任せた。

彼らだって近いうちに新宿の実質の影響力が誰の手にあるかは理解できるはずだ。

ここでコビを売っておけばいいということもわかっているだろう。

蟹江は自分の手は極力汚さない。

自分のカネも使わない。

そして周囲を納得させうる理由が生じるのを待つ。

特に自分が被害者の立場であることをアピールすれば正当に報復ができる。

まして誰かが死んでくれればなおさら組織力も上がるというものだ。

おそらく猿渡組はあっけなく壊滅するに違いない。

もはや逃げ場はない。日本全国捜せるのだから。

壊滅させることだけなら自分の力でもできるのだが、肝心なのはそのあとのことで、やり方を一つ間違えればもっとも大切な『影響力』というのを失ってしまうのだ。

蟹江は、もっとも狡猾でずる賢いヤクザであった。



教訓『カニは本当に被害者なのか?』


【解説】

カニは正しく、かわいそうな被害者。

そしてサルは悪いヤツで狡猾な加害者。

物語の中のカニとサルはこういうふうに描かれています。

そしてカニは周囲の同情と協力を得てサルを殺します。

しかし現実の社会ではむしろこういうカニこそがもっとも計算された狡猾な生き物である可能性も否定できません。

最近のニュースを見ているとどうしてもサルカニ合戦のサルが過剰な制裁を受けているという懸念が消えません。

みなさんはカニの言い分は常に正しいと思いますか?

 

 
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