アリとキリギリス
〜戦後日本の歩み〜



 

戦後、物資に不足していた日本人はとてもよく働いた。

日本にはそもそも資源がない。

資源のない国は輸入した資源に手を加え、高い付加価値をつけて輸出するという基本姿勢を選択することになる。

いわゆる加工生産である。

そして輸入した資源は効率的に運用することを要求される。

効率性が高くなればその分付加価値が相対的に高くなるからである。

日本人はよくがんばったと思う。

それに対して、アメリカはもうダメだ・・・。

確かに先の戦争では日本はアメリカに負けたかもしれないけど、今の経済競争では圧倒的に日本人が勝ってるよ。

みんなそう思いました。

アメリカ人は家計の貯蓄率も低いし、だから投資が少ないし、いいものが作れないんだ。

それを棚に上げて貿易赤字のツケを日本に回すのはおかしいよ・・・。

ある日、日本人はふと気づいた。

あれ?ずいぶん貯蓄が増えたなあ。

でもこの貯金どうしよう・・・。

効率性を重視して建設した工場とか施設はもう十分にあるしなあ・・・。

よし、このお金は土地とか高い絵とか海外のビルに投資しよう。

土地の値段だって、ゴッホの絵だって、エンパイアステートビルだって、値段が落ちることはないもんな。

そして日本人は貯金の多くを株券や土地に投資しました。

もちろんそのあいだも効率性を重視した製造業もがんばっています。

しばらくたったある日のこと。

とある日本人が気づきました。

あれ?おれがこのあいだ買わされたこの土地って、こんな高い値段するほど意味ある土地だったっけ・・・?

そのときには、たとえ細い路地裏の奥の何にも使えない土地にも高い値段がつけられていたのでした。

彼はその土地を売って、二度と別のヘンな土地は買わなかったのです。

その話を聞いた別の人も急に不安になって彼と同じように土地を売り、別の土地を買うことはありませんでした。

そしてその話を聞いた別の人も急に不安になって彼と同じように土地を売り、別の土地を買うことはありませんでした。

さらにその話を聞いた・・・。

買い手を失った土地は価値がどんどん下がっていきました。

いえ、正確にいうならば、どんどん本来の価値に戻っていったのです。

しかし。めでたしめでたしにはなりません。

高い値段の土地をもっていた人はその土地を担保にして銀行からやはり高い金額の借金をしていました。

借金をしてお店を開いたり、建物を建てたり、別のことにつかっていたのです。

担保というのは、「借金を返せなかったときに、代わりに銀行に返すモノジチ」みたいなものです。

銀行は、土地の価格が高かったときにはそれを代わりに返してもらえばよかったのですが、残念ながら土地の値段が下がった今、そんな価値のない土地を渡されても困ります。

銀行はとんと困りました。

銀行は本来、預かったお金を別の誰かに貸し与えた利息が利益となる業種です。

わかりやすく言えば、Aさんから預かった100万円をBさんに120万円で返すように言って貸し与えるのです。

Aさんに支払う利息を20万円から差し引いた分が銀行の取り分です。

銀行にはたくさんの土地が借金の返済のモノジチとして入ってきましたが、これを運用する力はありません。

これらの土地を、「お金を貸した当時の地価」で売らないといけないのですが、こうなってしまった世の中でそんなバカな買い物をする人はいません。

かといって、現在の地価でそれらの土地を売却すると、極めて大きな損失が銀行に出てしまい、破綻してしまうかもしれません。

そうなったら銀行の信用性が失われて、お金の巡りが悪くなり、さらに困ったことになります。

お金を貸したい人と借りたい人が出会えないのですから。

そうして、日本には使い物にならなくなった土地や建物がまるで「アリの巣の奥で腐っていく食べ物」のように蓄積することになりました。

アメリカは、お金を貯蓄から投資にまわすのではなく、消費にまわしました。

日本人からみたら、それは遊びだったのかもしれません。

しかし、消費されたお金は再度投資にまわるのだということをアメリカ人は知っていたのでしょう。

日本人が勤勉に働いて「腐った食べ物を蓄積して、実は食べられる食糧は少しだけ」という状況に陥った一方で、アメリカ人はおおいに楽しく、そして派手に遊びました。

そして実はアメリカもこの後、ギャンブル好きが昂じてお金を見事にスってしまうのだけど、それはまた別のお話・・・。






教訓『遊ばずにがんばればそれでOK?』


【解説】

20世紀の負の遺産として残った不良債権。

その本質は何であるかを考えたとき、それは懸命に働き、遊ぶことを我慢して個人的消費を抑えてしまったところにも原因があるのではないでしょうか。

だとすれば、破滅に向かって努力してきたことに等しくそれは甚だ皮肉なことですね。

 

 
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