現代訳・桃太郎

おれはオヤジからもらった日本刀に日本酒をふりかけ、そしてさらしで一気に拭いた。

これはこれから行く殴り込みの前にする儀式のようなものだ。

脳内麻薬が噴出し、カラダ中をアドレナリンが駆け巡る。この昂揚感、たまらない。

その鋭く光る刃越しに、おれらのシマを荒らすヤツらの事務所があった。

ここ最近のこと、ヤツらがのさばるようになり、

今じゃおれらのかつてのシマの半分をも奪い取りやがった。

そんな状況を一転するために、おれはここにいる。

今、おれは黒いベンツのなかでひっそりと突入の機会をうかがっているのだ。

オヤジのためといっても、本当の親じゃない。おれを拾って育ててくれたこの組織の総長だ。

おれは本当の親を知らない。総長は、「桃」から生まれてきたなんてことを言ってるが、

それはさすがにウソに違いない。それじゃまるで寄生虫じゃないか。

しかも、もし摘み取る時期を間違えたら、桃の中で腐っちゃうじゃないか。

まして総長は食べようとおもって日本刀でばっさりやった、なんていってるけど、

そしたらおれまで真っ二つじゃないか。あれ? この顔の斜め傷はそれか?

どうでもいいが、さっき中に潜入して門の鍵を開けてくるといった喜次がまだ連絡をよこさない。

 

なにしてやがる? 

やつは、駅の周辺に寝泊りしてたのをさっき見つけて、

「こりゃあ鉄砲玉にぴったりだ」と思って連れてきたのだ。

どうやって10分もしないうちに手なづけたのかって? ふふん。それはね…

同じようにしてここへの道すがら無理矢理クルマに押しこんで連れてきたのが、

今運転席に座ってるブルドッグみたいなやつと、助手席にいるちんちくりんのサルみたいなやつだ。

「おい、喜次のやつ、いっこうに携帯で連絡よこさねーな。どうなってやがる?」

「…」

前の席の二人はおれの言葉にたいして微動だにもしない。おまえらぶっころすぞ。

「おい!」

おれはブルドッグの髪をつかんで、力づくでおれの目を見させた。おれの眼力に恐れないやつはいない。

恐怖におののけ!

しかし。

ブルドッグの目は幸せそうな光を発して、イッてしまっていた。

ふと見るとサルの目もそうだ。おそらく、喜次もそうなのだろう。

おれはあることに気がつき、そして少し後悔した。

連れこんだとき、やつらには覚醒剤を団子状にしたものを無理矢理口に押し込んだのだが、

それがいけなかったようだ。たしかに従順に言うことは聞いてくれたが、

これでは何の役にも立たない。おれは鬼組への殴りこみは来週にすることに決めた。

今週のジャンプ、「魁!男塾」でケンカの勉強をしよう。

あ、もう終了してるか…

教訓 「覚醒剤ダンゴは強すぎ」

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