とても寒い冬の日。 その日はクリスマスイブでした。 町にはイルミネーションがキレイに飾られて、町行く人たちはプレゼントの箱を抱えて楽しそうに歩いていました。 しかし、街角にたたずむ一人の女の子だけは寂しそうな顔をして、そして寒そうに立っていました。 手袋をしていない手はかじかみ、靴下もはかずに穴のあいた靴をはいている足は赤くしもやけになっています。 冷たい雪から頭を隠す帽子もありません。 女の子「あの、マッチいりませんか?お願いです、マッチ買ってください。」 女の子はそのとき財布の中にわずかなお金しか持っていませんでした。 女の子の家はとても貧乏だったのです。 お父さんは長い間病気で床に臥せっており、お母さんは小さい頃に死んでしまっていました。 女の子は小さいながらも町でマッチを売ってその日その日の生活費を稼ぎ、お父さんのクスリ代に充てていたのです。 女の子は必死に毎日マッチを売りに村から町に出てきてマッチを売っていました。 しかし質の悪いマッチを買ってくれる人などおりません。 ちらちらと降る雪のせいでカゴに入ったマッチもしけってしまっています。 手持ちのお金ではお父さんのクスリと一人分の食事を買うのが精一杯で、明日からの食事もままなりません。 あまりの寒さに女の子は思わずマッチを一本レンガで擦ってしまいました。 その火で暖まろうと思ったのです。 シュッ。 何という輝きでしょう。 その輝きはこれまでも見たことがない暖かい光でした。 するとその光が広がって、中から光をまとった姿が浮かんできました。 女の子は胸の前で手を合わせ、ひざまずきました。 女の子「神さま。いつも私たち親子を見守ってくださってありがとうございます」 神さま「毎日お祈りをして、おまえが正しく生きていることを私はよく知っているよ」 神さまはクリスマスイブのこの日、女の子がこれまでずっと正直に暮らし、お祈りを欠かしていないことを知って目の前に出てきてくださったのです。 神さま「何か困っていることがあるのなら、言ってごらん」 女の子は神様にお祈りをしました。 女の子「神さま。どうかお助け下さい。マッチも売れません。もうお金もありません。お父さんのクスリと明日のパンを買うお金がありません。このままでは私たちは二人とも死んでしまいます。」 神さま「家に帰って、鍋のフタを開けなさい。」 女の子「はい」 神さま「その中にある二つのうち、一つを選びなさい。どちらを選んでもおまえの願いは叶えられるだろう。しかしどちらを選ぶかはおまえ次第だよ」 女の子「はい」 神さまはすうっと消えていきました。 あたりは再び寒いクリスマスの夜になったのです。 女の子は喜んで家に帰りました。 一体神様は何を贈り物してくださったのかしら? おそるおそる鍋のフタを開けました。 すると、中にはコンドームが1箱と、鋭く研ぎ澄まされたオノが一本入っていました。 ・・・。 女の子はあきらめとも決心ともつかない顔でそれの一方に手を延ばしました。 |
【解説】 他力本願の者には現状の困難を打破することはできないのではないか。 本来童話の中では、正直者のところには外部からの援助として神さまが登場するが、現実の社会にはそういうことはありません。 確かに中世のヨーロッパなどには才能を持っている音楽家などにはパトロンと呼ばれる出資者がいたがそれも才能ゆえのことです。 見合う才能以上に何かを得ることはできないのが現実なのです。 今回の話の中に登場する神さまは、より現実的で、他力本願の者には力を貸さないという立場をとっています。 お祈りするのみに留まり、社会構造の中で合理的に現状を打破しようとする姿勢のない人間を救いません。 言い換えれば、「自ら助ける者を神は救う」というスタイルなのです。 売春をしてお金を得るか、父を殺して負担を減らすか。 その選択肢を与えたに過ぎないこの神さまは確かにストレートで馴染みにくいかもしれないが、その姿勢が間違っているとも言えません。 さて、あなたならこの神さまの与えた言葉、受け入れますか?拒否しますか? |