マッチ売りの少女
〜それが核燃料ウランだった場合〜


 
寒い、雪が降って暮れた大晦日の街の通りに一人の男が歩いていました。

彼は手に核燃料ウランを持っています。

この男は何もかぶらず、おまけに素手です。

その全身は放射能のためにぶどう色に変わっていました。

しかも遺伝子異変のために各所にガンが発生していました。

おまけに、今日一日中誰もこの男からウランを買ってくれませんでした。これでは「もんじゅ」に帰ることもできません。

「誰か、このウランを買ってください」

しかし道行く人は誰も立ち止まってはくれませんでした。

「せっかくこんなに大量にバケツで作ったのに・・・」

男は座り込んで一本のウランに火を入れました。

指先を暖めようと思ったのです。

しかし放射能がキツくてその指は瞬時に焼け落ちてしまいました。

残った指は左右ともに薬指と小指のみでした。

これではオナニーできません。

でも鼻くそはほじれます。

男はちょっとがっかりしましたが、ちょっと希望が持てました。

核反応を起こしたウランは青白い光(チェレンコフ光)を発生させながら燃え、その炎は、男の眼球の水晶体を激しく焼きました。

しかし男は自分が大きなストーブの前に座っているような気がしました。

「ああ、なんてあったかいんだろう。なんて不思議なんだろう。」

けれども、その暖かさはウランが核反応を終わらせるとなくなってしまいました。

そこで、なんとかして核分裂反応を連鎖させつづけるために、ウランを追加していきました。

すると、そのチェレンコフ光の中に、バニーガール姿の市原悦子が見えました。これはおかしい、と思い、男はウランを追加してみました。

その次のウランでは、ウガンダ・トラがにた〜と笑ってこちらを見ています。

ウガンダ・トラは幸せそうな微笑みを湛えながら、一生懸命キャベツを千切りにしていました。

さらにその次のウランに火を入れると、その青白い光の中には首から上は深田恭子、首から下は森久美子という実に中途半端な女性が立っていました。

男は、飛びついていこうかいくまいか真剣に悩みました。

そして、「ダイエットは可能か?」「がんばれば『めっちゃ巨乳の深田恭子』で納得できるか?」と考え、とりあえず引き止めておこうと、大急ぎで残っていたウランを全部追加しまいました。

というかそのときにはもう、ウランの激しい放射能で男の脳みそは溶けていたのでした。

そうなのです。男は死ぬ間際の幻覚を見ていたのでした。

あたりは一面に明るくなりました。すべてのウランが5.0シーベルト以上の強い放射能を撒き散らしてチェレンコフ光を発生させたのです。ちなみにシーベルトとシューベルトは別人です。

寒い夜が明けたとき、この男はよだれを垂れ流して死んでいました。そのかたわらに核反応を終えたウランの燃えかすを見つけて、人々はいいました。

「きっと、ウランで少しでもあたたまろうとしたんだよ。このバカヤロウが。迷惑なんだよ」

男が客死した東海村は30万人以上の人々が避難するという大惨事になってしまいました。

村には時の総理大臣までが来訪し、放射能汚染の重大さを説明していました。

男のクビは獄門にハリツケにされ、死体は賽の河原に投げ捨てられました。

けれども、この男が放射能に焼かれながらどんな気持ちよく死んでいったか、それを知っている人はだれもいませんでした。

男は逆に、残された家族が日本中から村八分にされてどんなにつらい思いをしたのかを知る由もありませんでした。

そしてもっとも重要なことは、男がなぜ大量のウランを売らなければならなかったのか、それが謎のままに終わってしまいました。

そのときグリーンピース団体の事務所で、とある男がほくそえんでいたなんてことはだ〜れも知らなかったのです。


教訓「小指があったら、大丈夫だよね」



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