かちかち山

 

判決全文

平成●年●月●日 第1089号かちかち殺人事件

被告: ラビット莵

△県△区△町△番地△

検察による求刑:刑法第199条殺人および死体遺棄の疑いにより、懲役12年

主文

被告、ラビット莵を有罪とし懲役6年5月を命ずる。

事実および理由

第一 検察による請求

被告は、△県△区△町△番地に住む無職男性、ラクーン狸に火傷をおわせるなどの傷害を加えたのち、意図的に水没する仕組みになっていた船に乗せ、水死させた。その後警察に通報することもなく遺棄した疑い。

第二 事実の概要

本件は、ラクーン狸による殺人事件に端を発している。平成●年●月▲日に発生した(第1085号おばあさん殺人事件。なおこの事件は被疑者死亡のため不起訴のまま書類送検された)を参考にする。同事件においてラクーン狸は、△県△区△町△番地○在住、農業を営む年齢60歳の男性Aさんに近づき、その農作業を邪魔した模様。ついで、Aさんはラクーン狸の捕獲に成功したものの、農作業の手伝いをするというラクーン狸の言葉を信じ、のち開放した。しかしラクーン狸は近くにあった杵をもって妻であるB(58歳)を殺害し、逃亡した。

翌日、Aさん宅を訪問したラビット莵はその話を聞き、本件であるラクーン狸に対する殺人を計画した。まずラビット兎は、ラクーン狸に「今年の冬は寒いから石油ストーブが必要だろう。でも第3次石油ショックがあるという話だから、今のうちに大量に買っておいたほうがいい」などと話し、ラクーン狸に石油缶を購買させることに成功した。同月○日、ラビット兎は、同石油缶を運搬中の、ラクーン狸が運転する軽トラックの荷台に自動発火装置を備えつけ、同軽トラックを爆破した。

さらに翌日、病院に収容されていたラクーン狸を訪問したラビット兎は、「よく効く薬」と称し、唐辛子から抽出した錠剤を与えた。

ラクーン狸が退院したころを見計らって、ラビット兎は、ラクーン狸を海釣りに誘い出した。ラビット兎が木製の船を用意したのに対し、ラクーン狸に与えられたのは泥製の船だった。海岸からほぼ100メートル付近で泥の船は浸水、損壊し、ラクーン狸は溺死した。ラビット兎はおぼれるラクーン狸を放置し、警察・消防に連絡することなく帰宅した。よって本件はラクーン狸に対する殺害、および死体遺棄の疑いを持つ。

 

第三 判決解説

本件は、ラビット兎が善意によってラクーン狸を殺害した点が際立った特徴として認められる。すなわち、A氏の妻Bをラクーン狸が殺害したことに対しての報復殺人といっても過言ではない。しかし、その動機が善意であったとしても、その復讐の方法は計画的であり極めて卑劣かつ冷酷と言わざるを得ない。また、ラクーン狸が繰り返し被告人のあからさまな嫌がらせ、犯行に対してなんら疑惑を持たなかったというバカさかげんを考慮したとしても、ラビット兎の行為は、A氏に対する過度のおせっかいであり、A氏に対しての殺人教唆は認められない。

本件は、ラビット兎の独断的かつひとりよがりなおせっかいによって引き起こされたものであり、「誰もおまえに復讐なんか頼んじゃいない状態」であることが認められる。一個人の正義感が一般的な価値観と合致するかどうかについては常に疑問符がつき、一個人の独断によって私刑が行われるようになれば、法治国家の基盤がゆるいでしまう。本件はその観点からしても容易に看過することはできない。

なお、請求事由にはラビット兎の計画性についての卑劣さをもって12年としているが、ラクーン狸のアホさかげんと相殺して6年5月に減殺した。

ラビット兎は本公判中、再度に渡って「おれはカメとの徒競争でも負けた。おれが主人公の、この物語でもこれかよ!」とうそぶいていたが、この発言は無視することにした。

(以下省略)

教訓「いらぬおせっかいは身を滅ぼす」

 

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