4月某日
〜 辞 令 〜





僕は某機関投資家に所属している。

年金などの基金を請け負って株式や債券などに投資してリターンを得、手数料を稼ぐ。そういう職種だ。

そして僕はファンドマネージャー見習いとして、アメリカ株式を担当していた。

「ああ、●君、ちょっとちょっと」

A上司が僕を呼んだ。

A上司が僕を呼ぶときは決まって、思いついたダジャレのテストだったりするのだが、そのときは何か深刻なものを声に含んでいた。

そう、そのとき僕は別室に連行されたのだった。

別室にて、

A上司: 「なあ、●君はニューヨークでお風呂に入りたいとか思うかね?」

それはニューヨークでにゅうよく(入浴)ということですか?

僕は学生生活を9年間送っていた。

幸いにも中途採用でここに入ってきたが、いわゆるサラリーマン生活の日はまだ短い。

サラリーマンて、ツライことがたくさんあるんだね。いろんな意味で。

: 「はあ。えっと、それは・・・」

A上司: 「ニューヨークへ行きたいかー!?(アメリカ横断クイズ風)」

A上司はにこやかにコブシを振り上げて叫んでいた。

それはいったい何のマネですか?

ノドまででかかった言葉を飲み込んで、僕も小さくコブシを挙げて、

: 「お、おおーーー

サラリーマンて、ツライことがたくさんあるんだね、ほんとに。

そして僕は、6月からニューヨークへ行くことに決まったのだった。

詳しい内容を聞かされたのは、僕がそうやって承諾したあとのことである。

*****

僕に与えられた課題は、アメリカの銀行で4ヶ月の研修プログラムに参加し、そしてさらにその後6ヶ月はN.Y.にてアナリストとしてアメリカ株式をリサーチする、というものだった。

とりあえずA上司からの辞令を同チームの先輩、K氏に報告した。

K氏: 「よかったじゃないか。ニューヨークでお風呂に入ったら・・・」

: 「それはもう聞きました

K氏: 「A上司か、、、チッ」

: 「でもなんか突然の話で、青天の霹靂というか、まだ実感がないというか。でもウォール街で働くって、響きがイイですよねー。それは確かにわくわくしますね。ニューヨークの証券取引所にも見学に行け・・・」

K氏: 「帰りの飛行機ではスチュワーデスをナンパして、合コンのセッティングをするんだ。もしくはニューヨークに観光に来てるOLさんとか女子大生でもいいぞ。5件は確実にやれ

: 「・・・。」

K氏: 「それからな、日本語のわかる外人さんでもOKだ。ただし、こっちのメンツに限りがあるからその場合は3人までな。日本人の観光客をナンパした場合は、おれがこっちでケアするからホレ、このメールアドレスを渡すんだ。おれの自宅のアドレスだ。どっちかというとおれは遊んでる風のコより真面目そうなコのほうがいい。そんでもってメガネなんかかけてたらもう最高!。メガネッ娘萌え〜〜〜」

K氏は東大卒MBA取得者である。

東大に入るには、もうそれこそ地獄のような勉強をしなければ入れないという。

受験戦争の弊害がここにあった。

: 「合コンはがんばりますが確約はできません。メガネっ娘もお約束できません。ところで今からJ氏に渡米の件報告してきます。では」

K氏は宙を見上げて妄想に入っていた。

*****

別の上司にも報告に行かねばならない。

: 「・・・というわけで6月からニューヨークに行くことになりました。」

J氏: 「ニューヨーク、で、入浴、か・・・」

: 「・・・もうそれはいいです

・・・・・。




2004年、春の出来事だった。









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