ホイグリンカモメ Larus fuscus heiglini

 種ヒメセグロカモメの5亜種の中で冬羽の換羽時期が遅いのはホイグリンカモメとバルトカモメの2亜種だけです. 2亜種は頭部が冬羽へ換羽するのは11月からです(6).他の亜種は10月すでに冬羽に換羽しているのでこの時期に観察するとこれら2亜種は他の3亜種と簡単に区別できます. ヒメセグロカモメとは翼,初列風切の模様が違いますので簡単に識別できます.Fig.1は2016年11月8日に撮影したホイグリンカモメです. この個体はまだ頭部および後頸は純白で,初列風切P6-10は旧羽が残っています. この時期他の3亜種はすでに頭部は冬羽で初列風切のP6-7は伸長中または新羽が完了していますので容易に識別できます. Fig.2は2014年3月12日に撮影したものです.頭部および後頸には茶褐色の縦斑が残っていて,初列風切P10も換羽が完了していません. 識別のポイントは以下の5項目です.


雲仙市 2016年11月8日

雲仙市 2014年3月12日

 日本のほとんどの図鑑にタイミールカモメ(タイミールセグロカモメ)'taimyrensis'がホイグリンカモメまたはヒメセグロカモメ(ニシセグロカモメ)の項目に記載されています. 分類学的にはタイミールカモメは亜種ホイグリンカモメの一つのグループとされていて学名は認められていません(亜種の下の階層の名前は国際動物命名規約では認められていません). 多くの文献にその識別方法が記載されています. 文献(9)では,ホイグリンカモメとセグロカモメの中間的な特徴をもち,換羽時期はホイグリンカモメ同様遅いが,成鳥の上面はより薄く,セグロカモメに近い個体が多いとされています. また,繁殖地のタイミール半島で調査した報告(10)には現地で捕獲した個体の計測値が記載されています.嘴の形状はホイグリンカモメとセグロカモメの中間の大きさ(文献(6)の計測値との比較)で, 足の色は黄色,オレンジ,ピンクなどさまざまで,翼の模様ははセグロカモメとモンゴルカモメの両方に似た写真が示されています. 背の濃度はGS6-8(6),初列風切の換羽時期はステップカモメbarabensisより1-2ヶ月遅い(6)とされています.これはホイグリンカモメと同じ時期です. ホイグリンカモメの頭部と初列風切の換羽時期はモンゴルカモメと同じです.またモンゴルカモメの背の濃度はGS5-6(6)でタイミールカモメと一部重なっています.さらに足の色は黄色,オレンジ,ピンクなど様々で これもタイミールカモメと同じ特徴です.タイミールカモメの嘴の赤斑は横長で大きく,上嘴まで及ぶことが多いとされています(14).しかし,繁殖地の報告(10)では長い赤斑は下嘴に限られる とされています.モンゴルカモメの赤斑はおよそ7%が上嘴に及んでいます(雲仙市での実測値).これらのことからタイミールカモメとモンゴルカモメを識別するには背の濃度だけが唯一の手がかりです. フィールドで背の濃度を計測できるのは全天雲で覆われた曇天の日に限られますので現在確証がもてる写真は撮影できていません. (10)には現地で足環をつけて放鳥した24羽の個体の観察記録5箇所が記載されていて,いずれも樺太以北の場所となっています.

参考文献:6, 9, 10, 14

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