色彩

 「光に色はない」のをご存知でしょうか.色は人が頭の中で心理的に見ています.このことに最初に気が付いたのは”万有引力の法則”で有名な ニュートン(Isac Newton,1642-1727)と言われています.彼が光の屈折の研究に使ったプリズムは今でもケンブリッジ大学に保管されているそうです. 色は勝手に各々の人が頭の中で感じているので同じ物体を見て同じ色に見えているか誰にもわかりません.色を表すのに単に言葉で赤,緑,青などと 表現するだけでは不確実なので色を測る(表現する)方法が考えられ実際に使用されています.   色々な方法がありますがここではよく利用されている二つの方法を紹介します. 一つは混色の原理(三つの異なった光を混ぜ合わせると一つの色に見える人の目の特性)を使った方法でXYZ表色系といい,色をx,y,zの値で表します. 但しx+y+z=1の関係があるので通常x,yの値だけを使います.右の図が国際照明委員会(CIE)が1931年に発表した色度図でxy座標の馬蹄形の 中の部分のx,yの値が色を示します.この色度に基づいた色度計が市販されていますが数十万円の価格で手軽に購入する機器ではありません. 馬蹄形の中の赤,緑,青の丸を結んだ青色の線の三角形はsRGBといい,1998年に国際電気標準会議(IEC)が決めた色再現性の規格で, 皆さんがお使いのPCのモニタ,TVやディジタルカメラなどの色再現の規格に使われています.言い換えるとモニタやTVはこの三角形の内側の 色しか再現できません.これらの機器は人が感じている色の一部しか再現していないことがお分かりになると思います.
 もう一つの方法は,アメリカの画家であり美術教育者であったマンセル(Albert H. Munsell, 1858-1918)が1905年に創案したカラーシステムで 縦軸に明度(Value: V),縦軸の円周方向に色相(Hue: H),半径方向に彩度(Chroma: C)を表したものです.明度は無彩色を基準とし反射率0の 理想的な黒を0とし実際に顔料で実現できる1-9.5までの範囲を色標化しています.色相はR(赤),Y(黄),G(緑),B(青),P(紫)を主要5色相とし, それぞれの中間にYR,GY,BG,PB,RPを加えた10色相を基準とし環状に時計回りに循環させてならべ,さらにそれぞれの間を10分割して目盛りをふって1R~10Rと 表示し色相全体を100に分割しています.彩度は無彩色の彩度を0とし,等明度の無彩色から離れて特定の色相の特徴が強くなるにしたがって1,2,3,・・・10と 彩度の尺度値は高くなります.マンセルシステムでの色の表示方法は,有彩色の場合は色相,明度,彩度の順に連記し,明度と彩度の間を/(スラッシュ)でつないで HV/Cと表します.例えば色相5R,明度4,彩度10の場合は5R4/10(5アール4パー10)と表示します.無彩色の場合はN5のようにNの後に明度の値を表示します. マンセルシステムは「色の表示方法‐三属性による表示」として日本工業規格JIS Z 8721に登録されています.また,各種色見本が市販されていて,安価なものは1万円程度で購入できます. このシステムは洗濯機,電子レンジなどの工業製品の色指定や色の計測に使われています.

  ではマンセルシステムで指定された色,例えば5Y8/10はいつも同じ色に見えるかというとそうではありません.照射する光の違いによって違った色に見えます. また,写真で撮ると同じ光でも周囲の明暗や色合いによって違った色で記録されます.右の写真は5Y8/10を曇天の日に数秒の時間差で色見本の周囲の明るさを変えて撮ったものです. 写真機は自動露出で撮影すると画面全体は17%の反射率として露出を決定します,ですから背景が暗いと露出オーバーに,暗いとアンダーに撮影します.またホワイトバランス機能が働いて人が感じる色合いに画面の色調を変化させます. したがって,同じ色5Y8/10が違った色に記録されます.写真の色合いを識別の基準にしてはならないことがこの例からわかります.

トップページ