1999.4.13.
増補改訂 7.20.
ヨーロッパでCDを買う
1.はじめに
2.各国CD店 (パリ − ロンドン − ダブリン − ケルン − マドリード − ミラノ)
3.思い出に残る小さな専門店
4.いくつか
5.欧州各国CD価格比較(JETRO調査による)
1.はじめに
ヨーロッパではCDはおおむね高価格であり、日本における国内盤の価格と同等です。為替の状況にもよりますが、現在のレート(1ユーロ=130円)ならドイツで日本円換算2200円、フランスで2800円程度でしょう。これは16%〜20%位の付加価値税(消費税みたいなもの)を含んだ内税価格です。よほどのマイナー・レーベルでない限り、日本では輸入盤の方が安価なため、同じ欧州レーベルの欧州プレス品は現地で買う方が値段が高くなるという逆転現象が起きます。これは、ソフト会社の政策、流通マージンの問題、付加価値税率の違いなどの理由によるものでしょう。再販制度はありませんが、新譜は大体どこでも同程度の価格です。また、日本でも輸入盤に関しては外資系レコード店によって一般化した新譜のプロモーション期間の割引も一般化しています。フランスのように売り出し中の新譜20%引きというところ、イギリスのようにタイトルによって2ポンド引いたり3ポンド引いたりするところなど国によって割引方法も異なります。
タイトルについて、普通のクラシックは今や日本の大規模輸入CDショップのほうが品揃えが多いくらいでありわざわざ現地で買うこともないという状況です。スペインやイタリアのローカルなレーベルのマイナーなタイトルまで日本のCD店の店頭に並んでいます。しかも、日本での方が安価ときているので、旅行先でCDを購入するインセンティブは少なくなります。もちろん、例えばサルスエラのCDなどはさすがにスペインの方が揃っています。(それでも、マドリードやバルセロナなどの都会でなければなりませんが)
クラシック以外の、例えば各国のポップ音楽ですら今や日本で一通り買える状況です。それでも、あえて海外でCDを買う意味は
@ お土産になる。どこそこで買ったという付加価値の問題。
A マイナーまでカバーする輸入CDショップのバイヤーでも目の届かない「どマイナー」を掘り起こす。
B 輸入CDショップの品揃えにはバイアスがかかっていて、現地で結構一般的な現地語のPOPSが抜けている。
B 日本でも地方に住んでいるので輸入CDショップが身近に無い。
ということでしょうか。但し、買わなくてもCDショップを覗いてみる価値はあります。その国でいま何が「旬」か、もしいくつかの国を回るのであれば、各国毎の違いも興味深いものです。
2.各国CD店
網羅的な情報ではありません。私が行った所について述べます。ディープなマニア向けのところは特にありません。 見出しは一国一都市としており、それ以外の都市の説明も含みます。
パリ
FNAC
レコード芸術にもここのトップ10が載ります。フランスを代表するCDチェーンです。もちろん、カメラ、AV機器、コンピューター等情報機器、ソフトウェア、書籍(全て5%引き)まで扱っており、ハードウェアとソフトウェアをカバーする総合文化チェーンという感じです。ちなみに、資本的にはピノー・プランタン・グループの一員となっています。売り出し新譜の割引は20%。中には「何日まで割引適用」とバーコードのそばに書いてあるものもあり、レジでもめます。CDも、本も、マンガ(バンド・デシネ)もまとめて買えるのでとても便利。総合店舗なら、凱旋門近くのテルヌ通り店(サル・プレイェルから徒歩5分)、レアル店(シャトレ座から徒歩5分)、サン・ラザール店(ガルニエ・オペラ座から徒歩5分)、モンパルナス店など。カプシーヌ通り(ガルニエ・オペラ近く)、シャンゼリゼ通り、バスティーユ(新オペラ座の隣)にはFNAC MUSICというCDとVideoの専門店があります。
VIRGIN MEGASTORE
FNACの手強い競争相手。閉店法に逆らって、罰金を払ってまで日曜日にオープン。場所も、パリではシャンゼリゼ通りとルーブル美術館地下という特権的なロケーションにあり、とにかく話題。クラシックの品揃えも十分。心なしかFNACよりわずか(1フランくらい)高い気がしますが・・・
CARREFOUR など
店舗サイズとしてダイエーとイトーヨーカ堂を合わせたようなハイパー・マーケットと言われるチェーン店(アメリカのショッピング・モールをちょっと小さくした感じ)で、大体は郊外にあります。車がないとアクセスは困難。CARREFOURはフランス全国に百数十店あるので大きいなりに店舗ごとの規模の差はありますが、CD専門店なみの品揃えのコーナーを持つところも珍しくありません。この欧州第2位の大流通業者は日本にも進出するそうですが、CDコーナーはどうなるでしょうか? その他にも、AUCHAN とか LECLERC、CONTINENT と言った競合相手のハイパー・マーケット・チェーンがあり、CDコーナーも同じ様な状況です。
ロンドン
HMV
市内に何軒もありますが、オックスフォード・ストリート店(地下鉄のボンド・ストリートとトットナム・コート・ロードの間)が一番大きな店舗でしょう。ロンドンのCD店に関しては、雰囲気、品揃え、価格の全てにおいて、個人的にHMVが最も好みです。クラシックやトラッド系も一番充実している気がします。昔、ポンドが安かった頃は、バーゲンと重なると天下無敵の値段になって狂ったように買いあさったものです。
TOWER RECORDS
ピカデリー・サーカスという一等地に地下鉄の駅にダイレクトに接続する(雨の多いロンドンでは重要なメリット)という好条件ですが、何となく古くてゴミゴミした感じです。値段もHMVより高い気がする。LP時代に初めて訪れたときは大いに感激したのですが。
VIRGIN MEGASTORE
本場なのですが、クラシックとアイリッシュに冷たい気がして利用したことがありません。
ダブリン
HMV
トリニティ・カレッジとセイント・スティーブンス・グリーンを結ぶ、賑やかなグラフトン通り。 店が並び、ストリート・ミュージシャンや路上アーティストが活躍しています。 アイルランド最大と思われるHMVダブリン店はそんなグラフトン通りの65番地。アイルランドでは、南部の港町コークにもあります。
VIRGIN MEGASOTRE
オコンネル橋の近く、リフィ川沿いの Aston Quay にあります。品揃えは充実、特にアイリッシュ・ミュージックはHMVより充実しているくらいです。ダブリンで不思議なのは、ケルト系音楽のメッカである筈なのに、アイリッシュ以外のトラッドに比較的冷淡な印象を受けることです。スコットランド、ウェールズ、フランスのブルターニュ、スペインのガリシアなどの音楽シーンも網羅的に展示しても良さそうなものですが、アイリッシュ以外は一般のワールド・ミュージックと同じところにカテゴライズされています。今は状況が変わっているかも知れませんが。
TOWER RECORD
ダブリンでもいまいちだった。ただ、5年くらい前なのでもう、変わっているかもしれません。
ケルン
SATURN
ドイツの電気製品のチェーン店です。次のMEDIAMARKTと共に同じメトロ・グループという流通コングロマリットに属します。本社があるケルン店が大きくてお薦め。ケルンの駅から大聖堂と反対側に15分くらい歩きます。Sバーン(郊外電車)に乗って隣の HANSARING で降りれば目の前です。扱い品目に応じていくつかの店舗があり、中の一つがCD専門ビル。売れ筋のものはディスプレイされていますが、旧譜等はレーベル別番号順にびっしり棚にならんでいるというアウトレットの倉庫のような陳列法。アーティスト別、曲目別のエサ箱にはレーベルとCD番号だけを書いた紙が入っていて、自分で該当の棚に行って探す仕組み。バーゲン品を除けば、ほとんどは他の店より安い。
他にドイツ各地にあります。 デュッセルドルフ店はデパート KAUFHOFの中にあって、品揃えは少なく残念でした。
MEDIAMARKT
SATURNと同じ電気製品のチェーン店です。 フランスやイタリアにも店舗を展開。 価格、品揃えとも同じような感じ。
WOM (World Of Music)
ポピュラー主体の品揃え。値段もそんなに安くないような気がする。
マドリード
2700−3000ペセタぐらいです。 新譜割引などもありますが、なんとなくファジーな価格設定で、新譜すべて200ペセタ引きなどという感じでもなく、300引いたり、500引いたり。
EL CORTE INGLES
これはスペインを代表するデパート・チェーンで店舗数も多い一方、高級なイメージも持っています。マドリード市内には数店舗あり、バルセロナやグラナダでも入りましたが、CD専門店(例えば、バルセロナもグラナダもVIRGIN MEGASTOREがあります)に勝るとも劣らない品揃え。新譜などの割引も充実しています。面白いのは、店員の数が多く(ほとんどは中年婦人)、CDを見ていると寄ってきて「何を探している?」「どんな音楽が好みか?」「これはとてもいいぞ」「これは今ヒットしている」等と、過剰なほどアドバイス及び売り込みをしてくれるのです。グラナダ店ではでラジオで聴いたセビジャーナを口ずさんで「この歌のCDはあるか」と訊くと、同僚の店員4、5人を巻き込み、結局そのCDは見つからなかったものの同じ様なものを10タイトルほど売り込まれたこともあります。さすがに、マドリードではもっとビジネスライクでこのような「売り込み」はありませんでした。
プエルタ・デル・ソルの近くにはHIFI機器、CD専門店舗もあります。 地下1階がクラシック、地上階が一般ポピュラー、2階(地上1階)がスペインものとビデオ。 15000ペセタ以上で免税手続きもしてくれます。 16%戻るので沢山買うとかなり大きい。
何故、CORTE INGLES (English Cut) と言うのか訊いてみると、このデパートの発祥がテーラーだったということです。
FNAC
フランスのFNACが進出しています。マドリードではプエルタ・デル・ソルの近くにありますが、訪れたことがありません。
ミラノ
イタリアのCD標準価格は、35−38万リラです。
DISCHI RICORDI
音楽出版社、レコード・レーベルとしても有名なRICORDIの店舗。ドゥオーモに向かって右側のヴィットリオ・エマヌエーレ2世のガレリアにあります。 最近改装して、とてもモダンになりました。 VIRGINよりフレッシュな感じで、何故か100リラ安い。(まあ6円ちょっとですが) 上の階には楽譜が沢山置いてあるので注目。
MESSAGERE MUSICALE
ヴィットリオ・エマヌエーレ通りをサンバビラ広場の方へ少し歩いたところにあります。 CDは地下。
VIRGIN MEGASTORE
ドゥオーモの広場に面した一等地にあります。 ドゥオーモ正面に向かって右側にある建物の地下。 掘り出し物をゲットして浮かれていて広場にたむろするスリにやられないようにご注意。 日曜日もオープンしているのは便利。
MEDIAWORLD
ドイツのMEDIAMARKTがイタリアで展開する家電チェーン。 ミラノ南西部の環状高速道路沿いにあるので、足がないと不便。 大きなショッピング・モールの中にあります。 ここで驚いたのは、CDの価格が他店より1割ぐらい(2−3万リラ)安いこと。 売り出しだからではなく、既に通常価格に戻ったアルバムも全て安くなっている。 更に売り出し中のものも他店の売り出し価格より安く、アイテムも多い。 何故こんなことが・・・ 今のところ、価格競争になってはいない様子で、町の中のCD店はほぼ同じ価格です。
イタリアの場合、ものの価格にかなり地域差があって、ブランドもの(服、くつ、かばん etc)も地方の町の方が安かったりします。
3.思い出に残る小さな専門店
ダブリン CLADDAGH RECORD
テンプル・バー地区の小さなセシリア通りにあるアイリッシュ・トラッド専門店。自前のレーベルも運営しており、チーフタンズのハープ弾きデレック・ベルのソロ・アルバムなどを出しています。 ここの売場のお兄さん(実はセールス・マネージャー)に DERVISH というグループを教えてもらい、ちょうどその夜にライブがあったので行ってみました。このグループこそアイリッシュ・ダンス・トラッドの明日を担うグループだと確信しました。大手レコード店では買えないシャンノス(伝承歌、ド民謡)のCDやカセットも充実。
ペルージャ QUADRIVIUM
このウンブリア地方の中心である風格と歴史に満ちた都市の街角で偶然立ち寄ったCD屋は実はQUADRIVIUMという古楽レーベルの出版社でもありました。小さな店舗ですが、ジャズやポップスも扱っておりちょっと気の利いた品揃え。QUADRIVIUMは最近、新しいタイトルを見ませんがどうなったか心配です。
パリ GILDA
小さな中古専門店です。CDの他、ビデオや美術書、写真集もあります。シャトレとフォーラムの間の小道にあります。CDは全部60フラン均一で廉価盤は30から50フラン。 ここには何度も足を運びました。 パリで買ったCDの半分はここでゲットしたのではないでしょうか。 日本人も時折みかけました。
4.その他
音楽ジャンル
ヨーロッパ各国には、それぞれの国の国語によるポピュラー音楽が存在します。 日本における、邦楽と洋楽の区別です。 英米系のポピュラー音楽がやはりでかい顔をしていて、何故か「インターナショナル」と言われます。
フランス : VARIETE INTERNATIONALE - VARIETE FRANCAISE
イタリア : MUSICA INTERNAZIONALE - MUSICA ITALIANA
スペイン : ROCK&POP INTERNACIONAL ROCK&POP ESPANOL
という具合です。 英米系の文化的覇権はやはり強大ではありますが、それでもラテンの国々では、母語ポピュラーは一定のパワーを保持しているようです。 これに対して、ドイツはドイツ語のロック、ポップも存在はしますがどう見てもアングロサクソン・スタンダードの軍門に下ったという感じがしてしまいます。
5.欧州各国CD価格比較
ゾーン・ユーロ11ヶ国+イギリスの消費者価格調査にCDが入っていました。 6月中旬の在欧州ジェトロ事務所による調査です。 (出典 : JETRO通商弘報6月29日号)
国名 | 価格(EURO) | | 国名 | 価格(EURO) |
アイルランド | 20.30 | | フィンランド | 21.70 |
イタリア | 19.37 | | フランス | 17.68 |
オーストリア | 14.46 | | ベルギー | 19.81 |
オランダ | 20.40 | | ポルトガル | 13.39 |
スペイン | 17.13 | | ルクセンブルク | 18.30 |
ドイツ | 17.38 | | イギリス | 21.56 |
新譜 一枚あたりの価格。 現在 1EURO = ¥122 くらいです。(現在、EUROはひどく安くなっています)
価格調査の場合、サンプリングのムラで生活実感から少し離れることもありますが、上記は「大体そんなものかな」という妥当な線です。 フランスはちょっと実際より安めかも知れない(ハイパー・マーケット価格か、新譜割引の価格がリファーされているのかも)。