エッセィ

「理系って何?」って思うのが理系

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 森(僕のことです)の小説は理系ミステリィと呼ばれる(ように観測される)。確かに森自身は文系ではないので、理系なのかもしれない。けれど、小説までそんなふうに言われると、考えてしまう。

「理系」って何だろう?

 たぶん、数学が嫌い(あるいは不得意)なことが、「理系」じゃない人の主な特徴だろう。それに対して、理系の人は、特に嫌い(不得意な)なものはない。これが、理系人の言い分だ。

 「理系」と「文系」という言葉を考えたのは、そもそも理系人だろうか文系人だろうか。少なくとも、右の定義(言い分)は、集合論には適合している。

「良い天気ですね」と挨拶したとしよう。日本以外でも普通の挨拶だ。だから、普通の人は、「そうですね」と答える。ところが、理系人の一部は、たぶん、こう言うだろう。「いつより?」。

「来週の日曜日」などと口にすれば、「君の場合、日曜日は、一週間の最初の日? それとも最後?」と、個人的な定義を問われる。

 嘘じゃない。森の周辺では、普段の会話の中で、「どれくらい増える?」という質問に、「だいたい、二分の三乗に比例しているよ」なんて答える人もいる。彼なりの理屈が存在することをアピールしているのか、あるいは、純粋な親切心から、と思う。悪気は皆無だ。

 日本が太陽に向いている時間帯は、森も理系人なのだが、小説を書くときは、偏らないように最高に気を遣った(つもり)。なにしろ、オールナイトの理系人は、ミステリィなんて読まない。読まない人間には、どうしたって理解してもらえない。「理系」というレッテルと同様に、「文芸」とか「小説」には普遍的な価値なんて見出せない、というレッテルを彼らは貼る。

 「ミステリィ」も「本格」も、すべて同じレッテル。「レッテル」って英語だと「手紙」だし。

 でも、一度くらい、「理系の本格ミステリィ」なんてものを書いてみたい、と思う。自分でレッテルを貼りたいからだ。

 

(1997.3、「週刊小説」に掲載)


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